明日があるさ〜京都で一等の馬が起こした「大団円」〜

大団円と番狂わせ

「大団円」という言葉がある。
物語を書いていたこともあるので実感はあるが、世の出来事で「大団円」というのはほとんどない。喜ぶ人がいれば悲しむ人もいる。正に世は「光と影」である。

でも、時々勝負事で「大団円」ともいえる結末を迎えることがある。それは「影」を歩み続けた者が突然光を浴びた時だったり、圧倒的な「光」に正攻法で挑み勝った時だったりするシチュエーションだろうか。
ただ、それではただの「番狂わせ」である。「大団円」に必要なのは、負けた者たちが「今日はやられた。おめでとう」と言えるだけの状況である。
そう考えると滅多に起こるものじゃない。でも、神様の悪戯は時々「大団円」を起こしてくれる。時々、だから価値がある。そのシチュエーションを起こした者も目撃した者も共犯関係である。

マカヒキ

23戦5勝(21年10月9日時点)
第83回東京優駿(日本ダービー)1着。
その年にはフランスに遠征し凱旋門賞にも挑戦(14着)。
ここまで聞けば輝かしい、正に「光」のような馬。
 
しかし……
 
翌年から暗転する。
出るレースは悉く敗戦。最後に勝った時から17連敗。2着と3着はそれぞれ1回ずつあったものの、この1年は2ケタ着順も珍しくない状態。誰がどう見ても「影」を歩んでいるとしかいえない状態。
正直、ファンだけでなく評論家諸氏からも「もう辞めさせてよ」という声は日に日に強くなりるばかり。昨年には海外の牧場が「引き取らせてほしい」と申し出があったが断わったらしい。
 
そして……

大外からの咆哮

レース映像こちら(JRA公式)

2021年10月10日15:35。

いつものようにゲートが開き、静かなスタートが切られた。全体的に淡々とした流れでどの馬も取りたいポジションが取れた模様。マカヒキは道中中団でリズムよく、気持ちよさそうにレースを進める。
1,000mは公式で61.6秒だから若干スローペース。そういう意味では先行馬有利。
レースが動いたのは残り800mを過ぎたあたり。逃げたベレヌスにもう一頭の先行馬ダンビュライトが鈴をつけにいって一気にペースアップ。4コーナー回ったところで外から2017年の菊花賞はキセキが並びかけて直線へ。キセキの背後に控えるアリストテレスと2等が抜け出して勝負あったと思った瞬間。
 
 
「何か一頭やってきた」

ゴール前、懸命なジョッキーのジェスチャーとそれに応えようとするマカヒキが一完歩ごとに差を縮め、最後は豪快に差し切ったところがゴール。およそ5年ぶりの勝利を掴んだ。
日本全国でこのシーンを目撃した人は口々に「やったね」「よかった」「おめでとう」「よくがんばったね」といったはずだ。

実力と諦めないこと


マカヒキは「実力はあって、昔は『光』の道を歩んでいたのに、いろんな理由でうまくいかなくて、いつの間にか『影』の道に迷い込んで、でも、嫌な顔をせずに黙々と、いつかまた『光』の道に戻れると信じ続けて、そして花が開いた」ということなのだろう。関係者の努力や我慢も相当だし、マカヒキ自身もよく耐えたと思う。
正に「波瀾万丈」が生んだハッピーエンドであり、とても稀有なものなのだろう。

ただ、これを以て「諦めないことや努力の大切さ」を説くのも少し違う。やはり、最初から実力がない者がどれだけ諦めなくても、努力をしても、起こるのは「番狂わせ」だけだ。マカヒキは元々、実力があった。能力に長けていた。だからこそドラマがあり、人々は「本当によかったね。おめでとう」と思えるのである。

神様は時々、悪戯をする。
その悪戯は誰にでもするわけじゃない。
実力があるし努力もしている諦めない人にだけ、時々ご褒美のように悪戯をする。
今日、光の道に戻ったマカヒキ。
しかし、明日以降も何ら変わらず、地道に淡々と与えられるトレーニングをこなすだろう。
全ては、何気ない日々の努力から生まれたのである。

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