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ホスローと稀人【エルデンリングDLC考察①】

 「ホスローは血潮で物語る」。そう雄弁に語った彼は、復讐の対象であるべき火山館にいつの間にか懐柔され、しかもそのつるつるとした手を血潮で汚すことなんかけしてできず、失意のまま、壺たちが花を愛でる村に辿り着いた。憧れていた兄のような、英雄になりたかったはずなのに。

双尾を花で飾った銀鉄の兜
その、双尾なきレプリカ

ディアロス・ホスローには、兄がいた
寡黙にして冷徹な、遠く及ばぬ兄が

弟は、兄のようになりたかった
血潮で物語る、ホスローになりたかった
兄が、それを望まぬと知っていても

ディアロスの兜(以下、すべて攻略wikiより)

双尾を花で飾った銀鉄の兜
名門ホスローの、当主の証

ユーノ・ホスローには、弟がいた
口先ばかりの、意気地のない弟が

そして、弟の無能が故に
兄弟で当主の座を争うことはなく
兄は、弟を愛することを許された

ホスローの兜

 つまりと私たちは思うのである。彼の手は一度も血で汚れたことがないためにつるつるで、それゆえ壺師に適していたのだろう。花を愛する壺たちと血を見られない壺師の組み合わせも案外悪くないじゃないかと。もちろんフロム世界の平穏が長く続くわけもなく、密猟者どもに多くの壺を破壊され、自らも力尽きてしまうディアロスの、しかしその意思は肉片とともに、唯一彼が守ることのできた、小壺に受け継がれていくのだろう。
 そうして、勇敢な戦士の小壺は旅に出る。「ホスローは血潮で物語る」という決意の言葉と、私たちに一つの疑問を残しながら。

 肉片も回収されたディアロスの死地には、稀人のルーンが遺っていた。

狭間の地の人々に宿った祝福
その黄金の残滓

使用により巨大なルーンを得る

稀人は、かつて狭間の外からやってきた
女王マリカの同族であるという

稀人のルーン

 なぜ、女王マリカに連なる者のルーンを、彼が持っていたのだろうか? 本作をプレイした皆様はご存じの通り、狭間の地の外という言葉には、宇宙の果ての大いなる存在とかエルデの獣とか二本指とかそういう超神秘的なヤバイ響きが宿っている。
 なぜそんなものが、英雄になれなかった、いくじなしの男の手に。
 某所で面白い考察を見かけた。
 つまり、彼は英雄に届かなかったから、稀人のルーンを持っていたのだと。英雄のルーンの獲得量の一つ下に、稀人のルーンは位置している。
 なるほど、かなり納得である。そうした皮肉を込めた含意をフロムのテキストは好んでいるように私も思う。しかし、と一方でまた思う。これはダブルミーニングにあたる部分ではないだろうか。
 要するに、ディアロスが稀人のルーンを持っていた理由は別にあり、英雄に一歩届かなかった男という意味が二重に含まれているということだ。

 では、持っていた本来の理由とはなんだろうか。例えば瀕死のディアロスが、密猟者や壊れた壺たちの遺体をかき集めたために、ルーンが収束していたとか? しかし、壺村の壺たちを倒したとてさしてルーンは得られない。ではディアロスの父のルーンを持っていた。あるいは貴族のぼっちゃんであるために、金銭代わりのルーンを大量に溜め込んでいたとか……。

 色々考えられるだけに、ここで一度シンプルに考えてみることにしよう。シンプルに考えるとは、どういうことか。なぜ、ディアロスは稀人のルーンを持っていたのか? 彼が稀人だからである、と考えることだ。

 そもそも稀人とは何か。かつて狭間の地の外からやってきた女王マリカの同族であるという。では女王マリカとは何か。大いなる意思と同じく宇宙的な存在と(私の中で)思われていたマリカだが、その出身は影の地、巫女の村であることがDLCにて明かされた。

女王マリカの秘めたる祈祷
優しいだけの、律無き黄金

小さな黄金樹の幻影を生じ
周囲の味方のHPを持続的に回復する

マリカは故郷の村を黄金で包んだ
癒やすべき何者も、いないと知っていても

小黄金樹

 そして影の地は、狭間の地のかつての中心に位置していた。

狭間の中心
あらゆる死が流れ着き
あらゆる死を鎮める

鎮めの柱

 つまり稀人は、狭間の地の外からやってきた、と言われているだけで、実際は狭間の地の中心、今では封じられた影の地、その出身者を指す言葉であると考えられる。女王マリカは自らの故郷を封じ、過去をも消した。外から来たらしいよと書いておきながら、実際には内から来た。これもフロムの好みそうな相反した言葉だ。
 (ちなみに巫女の村が指の遺跡の近くにあること、巫女たちがなんの巫女かの言及されていないことから、巫女たちは本当に外の世界から来た上で、指に仕えるため影の地に居付いた。外から来たと見せかけて内から来たが、本当に外から来た、という可能性もあるが、ややこしいのでここでは置いておくとして)

 大事なのはディアロスが、というかホスロー家が影の地出身であるのではないかという部分だ。そろそろみなさん私が何を言いたいか、分かってきたのじゃないだろうか。そう、影の地には、攫われる前の巫女本来の役割に言及したテキストはないが、「巫女」について触れたテキストならある。

醜い歯を不揃いに並べ、埋め込んだ鞭

汚れた歯は、あらゆる雑菌に塗れており
その歯傷には猛毒が蓄積する

やがて、傷はじゅくじゅくと膿み爛れ
巫子たちは、他の肉とよく馴染んだという

歯の鞭

 こちらは壺作りを生業とする角人の村で拾える武器である。
 そしてこれは、ホスロー家に伝わる武器。

鋭い刃の花弁を、鎖のように連ねた金属の鞭
名門ホスローに伝わる、工芸品のような得物

高い技量が必要だが、対手に大量の出血を強いる
「ホスローは血潮で物語る」

ホスローの花弁

 どちらの鞭も鋭い物体を連ねることで、出血を目的とした構造を持つことが共通しているように思いませんか。
 ディアロス・ホスローの掌は血に汚れることはなく、壺たちの世話に相応しいつるつるとした指をしていた。
 そして、おそらくユーノ・ホスローの血潮にまみれた指先も。また、ボニ村の大壺師たちの指先も。つるつるしていたのではないだろうか。

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