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ハリネズミはキノコに出会った
散歩に出かけたハリネズミは、いつもの散歩道で見たことがないものを見つけた。
「こんにちは」
ハリネズミは、その見知らぬものに挨拶をした。
ハリネズミは、小さい頃から、お母さんに
「出会った人にはきちんとご挨拶なさい」
と教えられて、育ったのだ。
しかし、見知らぬものは挨拶を返さない。
「こんにちは」
ハリネズミは、もう一度挨拶をした。もしかしたら挨拶の声が聞こえなかったかも。そう考えたのだ。
しかし、見知らぬものからの挨拶はやっぱりなかった。聞き逃しではなさそうだ。
ハリネズミは、それをよく見た。どうやら動物ではないらしい。動物なら、毛やうろこがあるはずだ。動物なら、呼吸のためにえらやお腹が動いているはずだ。見知らぬものは、全く動かないのだ。時折り、風に微かに揺れるだけである。
見知らぬものは、地面から顔を出しているように見える。
地面から首を突き出している。顔らしき部分に、目や鼻は見つからない。少し硬そうな柔らかそうな皮膚が見える。そこに毛やうろこはない。
地面から這い出ようと、手足をばたつかせることもない。
ハリネズミのようなかわいいツメもない。
鋭く尖った無数の毛先もない。
鼓動もない。息づかいもない。
ただ生きているかすかな感覚だけがある。
ハリネズミは自分とは全く違う生命だけを感じていた。挨拶など返してくれなくても、そこにあるだけでいいのかもしれない。
明日の散歩道でも会えればいいな。
ハリネズミは、そう考えながら、散歩を続けた。