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市内RPG 61 小原合戦武道大会、始まる
小原合戦。
今から、1000年ほど昔、響都にあった牟呂町幕府が北朝と南朝に分かれて争っていた。遠い場所での争いのはずだったけれど、その火は、ここ子郡にも飛んできたそうだ。
子郡の豪族だった大朋氏と菊智氏。2つの豪族はそれぞれ北朝と南朝につくことになった。そして、北朝についた大朋氏と、南朝についた菊智氏が、筑五川沿岸のこの子郡の地・小原で戦ったのだ。
戦いの末、菊智氏が大朋氏を破って、この地方を制覇することになる。
その古い史跡にちなんだ武道大会が「小原合戦武道大会」である。
賞金は10000円、副賞として「退魔の剣」が贈呈される。
子郡運動公園のポスターには、そう書かれていた。
さらに「これで、キミも魔王を倒せる!!」と。
そして、その日はやってきた。
当日受付でいいらしく、大会の会場で、ぼくらは集合することにした。
朝、8時集合。
会場は、七夕記念会館。
体育館や図書館、研修室も併設していて、子郡市のイベントは大抵ここで行われることが多い。
「本当にここであるの。」
カナが不思議そうな顔をしていた。
「そうだな。」ヤスもそう思っているらしい。
「ここでいいみたいよ。」ヒラが、小さなホワイトボードを指差した。
小さなホワイトボードに書かれた縦書きの「小原合戦武道大会会場」という文字が、ぼくらを出迎えた。
とても小さな歓迎だな。
会場は、案の定、体育館だ。バスケットコートが2つ入る大きさ。
それを真ん中で仕切っている。半分は卓球場として開放されていた。
思ったよりもせまいな。
ぼくらは、受付を探した。というよりも、すぐに見つかった。こんなにせまいのだから。すぐにわかる。
代表として、勇者のぼくが名前を書こうとすると、
「チーム名も書いてください。」と言われた。
考えていなかったので、その場で話し合った。
YYHowKs(ワイワイホークス)。みんなの名前の頭文字に、地元野球チームの名前をかけ合わせた。
「まあ、いいんじゃない。」ヤスが満足そうに言った。
そのあと、ぼくらは準備運動を始めた。
「きんちょうするなーー。怖い人にあたったらいやだな。」
ヒラの緊張感が伝わってくる。
「大丈夫よ。毎年、不戦勝もあるらしいから。」
「不戦勝?」
「参加者がいなくて、不戦勝らしいわよ。」
そんなにマイナーな大会なのか。
それならそれでもありがたいな。不戦勝で10000円、割のよいバイトだ。
そう思っていると、後ろから声を掛けられた。
「無駄な努力はやめた方がいいぜ。」
馬場たち勇者パーティーだ。同じ高校、同じ学年。いけ好かないやつら。
「これはこっちのセリフよ。」
カナが言い返す。
「おれたち、『馬場―ズ』には勝てないわよ。」
カリアゲ女子のルミがにらんだ。
「10000円はおれたちがもらうぜ。」
日焼け坊主の井上と太っちょメガネのライトが、にやにやしながら言った。
「なんだと。」
戦士ヤスがつかみかかろうとするのを、ヒラが止めた。
「勝負は大会まで、お預けだぜ。」
馬場はそう言い残すと、向こうの方に歩いて行った。
ルミと井上とライトもそれに続いた。
「あいつらだけには負けたくないね。」
ヒラがいつになく、力の入った声で言った。
9時、開会式。
「選手のみなさんは並んでください。」
係の人がマイクで体育館中に聞こえるように言った。
「じゃあ、行くか。」
戦士ヤスがヒラの方をポンポンとたたいた。
並んだのは、4組。
ご老人が4名。30代のおじさんたち4名。馬場たち4名。そして、ぼくら4名。
紺のスーツに七三分け、銀縁メガネの男の人がマイクを持ち、こう言った。
「それでは小原合戦武道大会を始めます。」
(続く)
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