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シロクマの世界【短編】
みんなのフォトギャラリーから生まれた物語。
グゥオオオオオーーーーーーー!
シロクマは、星空に吠えていた。
心細さをかき消すように、吠えていた。
シロクマは、満天の星空の下に、独りだった。
空には、あんなにたくさんの星が瞬いているのに。
いや、あんなにたくさんの星が瞬いているからこそ、自分が独りでいることを強く感じ、不安になるのだ。
グゥオオオオオーーーーーーー!
シロクマは、もう一度吠えてみた。
満天の星空に向かって吠えてみた。
しかし、返事をするものはなかった。
シロクマはいつの間にか独りになっていたのだ。
少し前までは、家族や仲間たちと一緒にいたはずなのに。
気が付くと、シロクマの乗った流氷が流され始めていたのだ。
とても大きな流氷だったので、シロクマはそのことにはじめは気づいていなかった。
しかし、しばらくすると、その流氷には自分しかいないことに気づいたのだ。
周りをぐるぐると歩き回って、そのことに気づいたシロクマは大きく吠えた。
グゥオオオオオーーーーーーー!
父も、母も、兄弟たちも、そして仲間たちもいない流氷が流れていく。
シロクマは、空を見上げ、そして海を見た。
波が大きく揺れている。
はるか水平線が見えるだけだ。
どこにも泳いで行けそうになかった。
流氷は何日も、何日も流されていった。
はるか遠くに海が見えて、その景色は変わらなかった。
シロクマは、太陽が昇るたびに吠え、沈むたびに吠えた。
夜が明ければ、景色は変わるだろうと考えたが、変わることはなかった。
空腹よりも寂しさがつらかった。
シロクマは、空気がだんだん暖かくなっていることを感じていた。
シロクマが乗った流氷は溶けきる前に、小さな島にたどり着いた。
流氷から降りると、なまあたたかい海水が足に触れた。ゆっくりと降りて、身体を海水に浸して、岸に向かった。
砂浜は、これまで感じたことのないくらい熱かった。
そこは、シロクマの住んでいた銀世界ではなく、緑あふれる世界だった。
緑の木陰から、1頭のクロクマが顔をのぞかせた。
しばらくすると、シロクマとクロクマは一緒に過ごすようになった。
シロクマは銀世界のことを話し、クロクマは緑あふれる世界のことを話した。
シロクマとクロクマは、知らない世界の相手に互いに惹かれていった。
今は、シロクマとクロクマが、1つの世界を楽しんでいる。
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