助手席の異世界転生
大魔導士ユーグ・グレゴリウス3世は、1000年の寿命を全うした。
偉大な魔導士も寿命は尽きる。命の炎は消えようとしている。
「・・・・・」
薄れゆく意識の中でつぶやいた最期の呪文は、転生の呪文だった。
そして、ぼくは今、大魔導士の記憶を引き継いだまま、高校生として生きている。1000年生き、1000年死す。転生のサイクル・・・。
「ユーゴ、早く乗って。今日も電車に間に合わないじゃない。」
運転席でぶつぶつ文句を言っているのは、転生先の母だ。
「携帯ばかり触るから、起きれないんだよ。昨日の夜も友達と遅くまで話して、迷惑なんじゃないの。いい加減にしなさいよ。」
助手席で、小言を黙って聞いている。
火を灯す魔法。遠くの人と話す魔法。速く移動する魔法。病気を治す魔法。お金を増やす魔法。どれも今は使わない。何不自由なく暮らせているからだ。
転生してから、魔法を使うことはほとんどなくなった。
「母さん、・・・いつもありがとう」
母は、一瞬動きを止めて真っ赤になった。
「何よ。都合のいいときだけそんなこと言って。」
人を笑顔にするこの魔法だけは、どの時代も絶大な効果を発揮する。