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市内RPG 21平岡パンに行け
横熊山遺跡で、巨大アブラゼミを倒したぼくら、勇者、戦士、魔法使い、僧侶のパーティーはレベル9になった。
次の目的地は、小保駅そばにある平岡パン工場だ。
パン工場といっても古びた工場ではなく、カフェテラスのあるおしゃれな工場だ。ランチ時には、OLさんの姿も見られる。
ぼくらは二師鉄子郡駅に10時に集合した。
「ここからは1駅ね」僧侶のカナが言った。
「トベルーは使わないの?」魔法使いのヒラが言った。
レベル9でカナが覚えた空を飛べる呪文。
「あれはなかなかきついから」カナが答えた。
「レベル9になって、ヒラは何を覚えたの?」改札を通りながら、戦士ヤスが尋ねた。
「水の呪文ツメタの強化呪文と全体呪文かな」ヒラが答えた。
「水の呪文、いいねえ。暑いときはそれをかけてくれ。」
あと花に水やりをするときも便利だな、とぼくは思った。
「ぼくもツメタを覚えたよ」
勇者のぼくも、初歩的な火と水の呪文が使えるようになった。
「ちぇっ、オレだけ呪文が使えないな」
戦士ヤスは不満そうだ。
そうこうしているうちに、小保駅に着いた。
小さな駅。子郡運動公園の最寄り駅ではある。なかなか距離はあるが、、、。
目的地の平岡パン工場は、小保駅から歩いて100mくらい南にある。
5階建てのおしゃれなビルである。1階がテラスになっていて、ランチを食べることもできる。
自動ドアを抜けて中に入った。
オレンジの壁紙の、あたたかな雰囲気の店内。大きな観葉植物が飾られている。
魔王の手がかりはどこにあるのか。
「わぁ、おしゃれー。来てみたかったんだー。どれも美味しそう」
カナはランチのことしか考えてないみたいだ。
店内には、パンを選ぶコーナーやケーキが並べられたガラスケースがある。レジで精算してから、食べることができるようにテーブルも並べられている。
「ねーねー、何食べるー?」
カナはランチのことしか考えていない。
「メロンパンとカレーパンとあんパンがお勧めです」
レジから、きれいな女の人が声をかけてくれた。
そうだ、平岡パン工場のうらには女子大があって、ここのアルバイトはきれいなお姉さんで有名だった、、、。
「なら、それ、、、全部」
戦士ヤスがぼそぼそと言った。
「ありがとうございます」
きれいなお姉さんが1000点のスマイルで返してくれた。
「ちょっと何、勝手に買ってるのよ」
おしゃれなランチコースを選ぼうとしていたカナが言った。
「カナ、今日はランチじゃないから」ヒラがなだめたそのとき、
「ちょっとあそこ」ヤスが店内の奥を指さした。
奥の自動ドアの前で、小さなピンクのリボンの女の子が駄々をこねているようだ。お母さんらしき人がなだめている。
「あっち、行きたい、行きたい、行きたい、行きたい」
「だめよ、あっちは」
「あっち、行きたい、行きたい、行きたい、行きたい」
「だめよ、あっちは」
「あっち、行きたい、行きたい、行きたい、行きたい」
「あっちはね、関係勇者じゃないと行けないのよ」
「あっち、行きたい、行きたい、行きたい、行きたい」
「あっちはね、関係勇者じゃないと行けないのよ」
繰り返している。女の子のピンクのリボン、、、。
カゲだ。
子郡市役所環境推進課の探索部。一般人に紛れて勇者をサポートする。
二人のやりとりを聞いて、ヤスとぼくは目を合わせた。
「さあ、行こう、行こう」ヤスがさりげなく先頭に立った。
「席は空いてないかな」ぼくも独り言をつぶやきながら、ヤスについていった。
それに気付いたヒラとカナもついて来た。
ヤスが自動ドアのセンサーに手をかざしたが、開かなかった。
「勇者の出番だぞ」ヤスが言った。
ぼくが手をかざすと、ドアはすうっと開いた。
ぼくらは、買ったパンの入った紙袋を持って、奥に進んだ。
振り返ると、ピンクのリボンの女の子が親指を立てて「いいね」サインをぼくらに送っているのが見えた。
(続く)
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