粒状の総料理長【毎週ショートショートnote】
気が付くと、夕方の海辺にたどり着いていた。
「もうお終いだ。」
そうつぶやいたとき、男が、そばに立っていた。
真っ青なエプロンに、白いコック帽、白い口ひげ。瞳は海の色。
「何か困りごとかね。」
おれは、王様に今日の夕食を作ること、気に入らなければ死刑になってしまうことを話した。
「私が手伝ってやろう。」
おれは、その男を連れて、お城の台所に向かった。
必死になって、考えていたレシピを完成させていった。
ごはんをにぎり、魚を焼き、パスタをゆで、スイカを切った。
男はしばらくそれを見ていたが、料理の上で何度か指を鳴らしただけだった。
「もうだめだ。」
王様が、運命の料理を、口にゆっくりと運んだ。
「・・・・う、うまい。おにぎりも、焼き魚も、パスタも、スイカも、これまでにないうまさじゃ。」
助かった。
出会った海辺で男を見送った。
「なぜ、あんなにおいしくなったのか。」
男は初めてにっこりして、言った。
「これが『塩』というものじゃよ。」
そう言うと、男は粒状になって、海に溶けていった。