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【年齢のうた】ムーンライダーズ その1●30代突入をポップに唄った「30(30 AGE)」

先週は初めて、中野駅前大盆踊り大会に行きました。
過去に盆ジョヴィで有名になったやつです。

「これを踊れないと中野区民とは言えないよー!」と煽られ、家族で「すみません、中野区民じゃないです」と思いながら、盛り上がりました。
しかしどんなサウンドでも盆踊りにしてしまうみなさんに、これはもはや盆踊りと言っていいのか?と思ったりしましたね。さすが盆ディスコって言ってるだけはある。
あと、みんながみんな唄ってるわけじゃないけど、半ばカラオケに近いノリもあり。まあ楽しめればいいんですが。

中野と言えば、サンプラザが閉館しましたね。自分が初めてここに観に行ったのは、デヴィッド・シルヴィアンかスモーキー・ロビンソンのコンサートでした。最後に見たのは去年の羊文学。街はその風景を変えていきますね。
杉並区に住んでた頃は、中野までチャリで来たりもしたな。小さかった子供を後ろに乗せて来たこともあった。
今回その盆踊りの会場だった中野セントラルパークってところは、駅近なのに行ったことなかったですね。いい雰囲気のところでした。

さて、今回の【年齢のうた】はムーンライダーズです。

70年代~ニューウェイヴの時代以降、音楽シーンの台風の目であり続けたバンド


ムーンライダーズは僕が高校の頃から好きなバンドである。本当にひと筋縄ではいかないというか、奥が深いというか、捉えきれない人たちで、そこも面白いところなのだが。それのみならず、彼らの楽曲と、その音楽性の幅広さと、そして何をしでかすかわからない革新性が本当に素晴らしい。「飽くなき」という表現がふさわしいバンドである。
彼らは、70年代半ばから日本の音楽シーンにおける重要な存在として君臨してきた。その長い歴史もそうだし、謎めいたありようまで含めて、とんでもない人たちだ。そんな彼らの曲の世界に自分は惹かれてきた。

とはいえ、ムーンライダーズのことを万人が認識しているわけではないし、知る人ぞ知る的なバンドと言えば、おそらくそうだろう。ただ、それでも今はまだ彼らのことを理解している人は多いと思う。キャリアが長い分、よく知られている曲は多くなったし、このバンドの音楽に各メンバーの活動から接近した方も多いだろう。
21世紀に入り、ムーンライダーズのカバーを耳にすることも多くなったように思う。

僕が知ったきっかけは、おそらく坂本龍一の『サウンドストリート』などを聴いて、そこでムーンライダーズや鈴木慶一という名に触れたことだったと思う。つまり80年代の序盤のこと。そのニューウェイヴの時代の彼らは、それ以前からのロックやフォークはもとより、ポップス、そして歌謡曲のシーンにまで活動の場を広げていた。
自分としては、白井良明がアレンジで関与した沢田研二の諸作、とくに「6番目のユ・ウ・ウ・ツ」とアルバム『MIS CAST』(ムーンライダーズのメンバーたちも参加)の圧倒的な仕上がりに叩きのめされた。

そこからこのバンドのことを知る必要があると感じ、レコードを購入。一番最初に買ったのは当時の最新アルバム『青空百景』(1982年)だった。名曲「青空のマリー」や「くれない埠頭」を収録した作品で、ポップ感覚とトガったサウンドがナイスバランスで共存する会心作だ。今でもムーンライダーズを初めて聴く人には、これをおすすめする。


また、この頃、ロック・ミュージシャンでありながら、旧来的なロック観に浸食されていないかのように感じられる彼らのルックスにも自分はそそられた。その風貌はどこか少年的で、それでいて30代の大人っぽさも、それにどこか普通人らしさもあって、なのに音には狂気の匂いもあって。
この感覚は、普段着のような姿のバンドも当たり前になっている今の音楽ファンにはわかりにくいかもしれない。
そんなわけで10代後半の自分はムーンライダーズの、どこかアブノーマルな感性に引き付けられていた。

明るくポップな「30(30 AGE)」の裏側にある、大人ゆえの何か


そうした中の1984年に彼らがリリースしたアルバムが『アマチュア・アカデミー』だった。タイトルが示唆するように、テクニックよりも、アイディアや発想の特異さで突っ走ってるかのような作品。いや、もちろん、そこかしこに彼らが積み重ねてきたものは感じられるのだが、それ以上に前のめりな強烈さがここにはある。
とくに本作のソリッドなビート感は非常にカッコ良く、バンドへのイメージがちょっと変わったほど。もっともこの頃の彼らはアルバムごとに別のバンドになったのかと思うほどバラエティに富んだ音や世界を表現していたわけだが。
また、『アマチュア・アカデミー』はすべての曲タイトルがアルファベットと数字だけで表現されている。なんだか記号のようなその並びを見て、ここまで極端に振り切って音楽を作るなんてすごいな……と感じたものだった。

このアルバムの時期のライヴ映像があったので、リンクを張っておく。タンクトップ姿のメンバーの姿が印象深い。

そしてこの作品の中で、とりわけ心に残ったのが2トラック目に入っている「30(30AGE)」という曲。
もうすぐ30歳になる男の気持ちを唄った曲だった。

ポップで、ニューウェイヴ的で、明るいメロディ。アルバム全体としても、このバンドにしてはソウルやファンクの感覚が出ているのが特徴である。
そして「30」の歌のほうは、シンデレラじゃないけど、もう何分かで三十路を迎えるというタイミングで好きな彼女が部屋までやって来るというシチュエーションを唄っている。主人公はそのときめきを隠していなくて、とても楽しそう。車、部屋、ビデオ、ワインとマティーニ、花瓶の花……自分の誕生日を盛り上げるアイテムも揃えられている。

ただ、当時の僕にとってこの歌は、ちょっと離れた世界のことに聴こえた。自分はまだ10代後半だったので、30歳はかなり上の世代。そのくらいの年齢で知り合いの人と言えば、せいぜい学校の先生ぐらいだったのだ。
で、30代のイメージとしては、「なんか大変そうだな」とか、なんとなく「大人ってしんどいんだろうな」と感じていた程度である。その向こうには、たとえば家庭があるとか、あるいは離婚だとか、家のお金のこととか、ツラそうな事実を多く抱えているような気がしていた。それが僕がぼんやりと思う大人の像だった。

そしてこの頃の世の中は、今とは比べものにならないくらい「まだ子供であること」や「もう大人にならないといけないこと」への意識が強かった。言うなれば、そろそろ若者とは言えない年齢の人たち全般に「いい加減、大人になりなさい!」という風潮が、圧力のように、あった。その基準のひとつとして、10代/20代、それに20代/30代という境目が存在していたと思う。

だが、思い返せば……洋楽も邦楽も、当時自分が聴いていた音楽は多くが30代が鳴らしていたもので(先ほどの坂本龍一もそう)、彼ら、彼女らのほとんどはとても颯爽としているように感じていた。みんな元気で、楽しそうでカッコ良くて。それでいながら自分の責任もまっとうしていて、きっと裏では大変なこともあるんだろうな、という気がしていた。もちろん、その個人個人のリアルな生活についてうかがい知ることなどはできなかったわけだが……あくまで、想像である。

ムーンライダーズはこのアルバムのリリース時に、おそらく鈴木慶一が「メンバー全員が30代になった」という話をしていた記憶がある。そして「30」という曲は、人間たるもの、30歳になるにあたってはいろいろな感情があるのではないか、ということを感じさせてくれた。ポップで楽しそうではあるが、それだけに、その背景にはいろいろな何かがありそうな気配があったのだ。

それと……ムーンライダーズのヴォーカルは主に鈴木慶一がとっていて、それはこの「30」でもそうだったのだが。このバンドには、実はその曲を作っているのは別のメンバーであるという構造があることに気づいた。

「30」という曲を書いたのは、鈴木博文だった。
彼はムーンライダーズのベーシストであり、慶一の実の弟である。

(ムーンライダーズ その2 に続く)


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青木 優
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