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【年齢のうた】吉井和哉●30代から40代…アルバム『39108』にはアラフォーの時のリアルが詰まっている
ぴよりん!
名古屋のお菓子です。
と思いきやこれは、ぴよりんバーム(プレーン)ってやつで、
ぴよりんではなかった……。
型抜きもうまくいったわけではなかった。
でも、おいしかった。
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卵の価格は依然として高いですが、各業界のみなさんには頑張ってほしいです。
とはいえまずは、ぴよりんを食べてみないとな。バームのほうではなく。
で、今回取り上げるのは、吉井和哉の『39108』です。
前回までの17歳シリーズから一転。
年齢(感謝の気持ち)+誕生日(煩悩の数)で39108
2006年10月にリリースされた吉井和哉のアルバム『39108』。
なぜこの作品を取り上げようと思ったのかというと、現在彼はソロ・デビューから20周年を迎えたタイミングで、それに伴ってさまざまな企画が進行中。その中で、僕が過去に行ったインタビューも公開されているのだ。
その前に、吉井和哉について……。
吉井はロック・バンド、THE YELLOW MONKEYのヴォーカリスト。90年代に栄華を誇った彼らは、2001年に活動を休止し、2004年に解散している。それから長い期間を経て、2016年に再集結し、今に至る(ここ数年は表立った活動はあまりしていないが)。
吉井のソロ活動は、このバンドの休止~解散の間の2003年に始まっている。僕はそのソロ初期から彼についての原稿を書いたりインタビューしたりを続けていて、音楽雑誌『音楽と人』に寄稿した記事が現在少しずつWEBにアップされているところ。
まずこれが1stアルバム『at the BLACK HALL』(2004年)の記事。インタビューはなく、書き原稿のみ。僕の前に、作家の嶽本のばらさん、ライターの清水浩司くんも書いている。
この頃の彼はアーティスト名をYOSHII LOVINSONとしていて、メディアに出ることが極端に少なかった。だからソロデビューのシングルのMVに本人の実の姿がなかったりする。
しかしこの「TALI」は、非常に優れた曲だ。イエモンからの華やかさをほんのりと残しながら、せつなさもあり、しかしその中でも前向きになろうとする姿が感じられる。
そして次の記事は2005年、2作目のアルバム『WHITE ROOM』の時。この日は伊豆・下田で撮影をしたあとに本人にインタビューをした。実は吉井と僕は話すのも初めてだったから、じわりじわりと糸をたぐり寄せるような対話になっている。
この直前のシングル「CALL ME」は心の痛みが感じられる曲だ。必要としてほしい、という切実な感情があふれている。そして歌詞には都会を離れることの心理も描かれている。
この2枚目のアルバム以降、吉井はライヴに復帰して、各メディアにも出るようになっていった。バンドの解散がありながら、その心の痛手が徐々にやわらいでいった時期か。
彼はこの直後に、ソロでの名義を吉井和哉として、活動をしていった。その第一歩となったのがシングル「BEAUTIFUL」。このアーティストの繊細さがフォーキーな形で表れた、はかなくも美しいミディアムバラードである。
そしてこの2006年に発表したソロ3作目のアルバムが『39108』だ。
アルバムタイトルは、同年の10月8日に40歳になることを前に、39歳時点でこのアルバムを制作したこと。さらに、39……サンキューと、感謝の意があるということ。そして10月8日をつなげた108は、人間の煩悩の数であること。そうした理由による。
つまりアルバムの題名に当時の彼の実年齢が入っていて、それを意識した作品になっているということだ。これは、時期的にはこの約10年前になるが、奥田民生も近いことをやっている。そのことについては、この【年齢のうた】の一番最初に取り上げた。
また、このそれぞれの実年齢アルバムにおいて、民生は29歳と、そして30歳、対する吉井は39歳と、いずれも30代という大人の年齢をタイトルに掲げた作品になっている。
で、余談ながら、ファンの方々ならご存じと思うが、吉井と民生は一時期、釣り仲間だった。
さて、吉井和哉である。アルバム『39108』、時は2006年。たとえば先ほどの歌の、優しさが秘められたポジティヴな感覚などは、やはり30代の、それも後半を迎えている者だからこそのものという感がある。
アルバムからは先に痛快なロックナンバー「WEEKENDER」がリリースされていた。この年の夏のRISING SUN ROCK FESTIVALで聴いて、とても心に響いた記憶がある。
そしてもう1曲、アコースティックな「BELIEVE」が公開されていた。
ポジティヴなようで決してそればかりではなく、センシティヴでありながらしかしパワフルな爆発力もあるのが、吉井和哉という人の魅力のひとつである。
ずっと悩んでいた30代を終えて、40代へ
アルバム『39108』のタイミングで僕がインタビューした際の記事が、これだ。
この時は、とあるお寺が撮影場所になり、吉井にはお堂でポーズをとってもらったり、庭でたたずむ姿を撮ったりと、ちょっと特別な空間での取材だった。僕のインタビューも、そのお寺につながる家屋の一室をお借りして、畳の上にあぐらをかき、テーブルをはさんで向かい合う形で、話をした。
長いインタビューなので、いくつか抜粋する。年齢について。
「ちょうど去年1年とかが自分の中で相当こう、<ついに40代を迎える前の1年だ>と思って、最後の戸惑いと言ったらヘンですけど、迷いとか……。<四十にして迷わず>とか、あるじゃないですか」
不惑の歳ってやつですね。
「うん。そのための最後の1年ってのは、ほんとに……いろいろ考えて。<ほんと煩悩まみれだ>と思ったんですね。ほんとに……いろんなことに対して盲目になってる部分もあったり、もしくは……なかなか吹っ切れないでいたり。とにかく……思い切って飛び込んでいけない1年だった気がするんですよ。で、そういう中で見た108という数字がひとつのキーワードになったの」
不惑を迎える吉井は、この時、THE YELLOW MONKEYの頃についても語ってくれている。
「30代って……30になって最初のシングルって<楽園>なんです。で、<黒い海を渡ろう>っていう歌詞があって、やっぱ30代は黒い海を渡ってたんだろうなと。泳いでたと思うんですよ。この最後の1年でほんとに最後の陸に着く、ほんとに最後の最後という……40でなんか大陸に着いたような気がするんですよ。ずっと迷ってたんですよ、今思えば。ずーっと悩んでた、30代」
うーん、過酷な航海でしたね。
「でも、でも生きてるし、後悔もしてないし。今思えば、ほんとに楽しいこともいっぱいあったし」
ここでも物事を悲観するばかりでなく、ポジティヴに捉えようとする姿勢が見られる。
そして、年齢についての会話。
吉井さんも気にしがちですか? 年齢を。
「年齢? 気にしますよ、それは」
うん。何でですかねえ?
「……何で?」
だって極端なこと言うと、どうでもいいじゃないですかって
「どうでもいい人とどうでもよくない人がいるわけですよ! 世の中には。人それぞれ(笑)」
この時の取材とはまた別に、僕は吉井は年齢をかなり意識する人なんだろうなと、かねがね思っていた。もっとも、まったく意識しないで生きるなんて、できるわけはないが。
そして、大人になることについて……楽曲「WEEKENDER」に関連して。
とくに感情移入したのが<遠回りしても 良かったと言える/大人になりたい>ってとこで。
「うん、俺もそこですね。そこを唄うための回りですからね(笑)」
な、長くて遠い回りでしたねえ(笑)。
「そういうもんなんです、人生って」
そう。不惑の歳で、人生に対する意識があった。この頃の彼には、すでに。
なお、煩悩についてはアルバム中の「ポジネガマン」で言及されている。フォークタッチのダウナー気味の曲。
また欲望のことは「I WANT YOU I NEED YOU」で唄っている(ほかの曲にもあるが)。
上記の曲が派手なオープニングを飾ったこの時のツアーもまた印象深い。さっきのインタビューの中で「雷が落ちた」という言葉があったように、そこにはソロ・アーティストとして次の次元へ突き進もうとする吉井がいた。
こちらは数年後、当アルバム収録曲のライヴ映像。
この『39108』が17年前のこと。僕は同世代なので、先のインタビュー時点で40歳だった。
いろいろ思うところはあるのだが、今ではこうした悩みや混沌こそアラフォーらしいな、と感じる。当時は、心も身体もどこか疲れてはいるものの、それでもまだ元気で、まだ若さの残滓が少しはあった。もっとも、それがゆえの難しさ、というものもある。
不惑の歳というやつも、そう言われているわりに、何だかんだ、そううまくはいかなかった。迷って、戸惑っての連続である。
でも人は、そうやって歳を重ねながら、生きていくものだと思う。
THE YELLOW MONKEYの再集結はこの頃から10年ほどあと。それには数年の準備期間があってのことで、そこは巨大な存在のバンドだからこそだろう。
吉井はイエモンも、そしてソロでも活動を継続している。
その中での彼の作品は、深みをたたえてきているが、しかしそこで迷いが断ち切れたとか、何かの境地に至ったというようなものはない。ポジティヴもネガティヴも、つねに混在している。
ただ、間違いなく言えるのは、彼はその時その時の自分のリアルを唄っているということ。そして、それこそが吉井和哉である、ということだ。
きっと彼は生きている限り、ずっとそうであってくれるのではないかと思う。
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