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【オトナになることのうた】GLIM SPANKY その2●魔法が解けていない若者たちへ、「形ないもの」

掛ふとんは重めなのが好きな青木です。先日このことに関連して、夫婦間で問題が生じましてな。くわばらくわばら。あぶないあぶない。福田和子。

オアシスは、幸運なことに観に行けることになりました。良かった良かった。土曜の夕方からあちこちで話題だったけど。で、ライヴ自体は来年の10月下旬だけど。

しかしオアシス、当時(15年前まで)の日本じゃ、とてもドームでやるほどの人気ではなかったがなぁ。まあ新しいオーディエンスもいるだろうからね。楽しみに待ちます。

近日観たライヴは、パール兄弟(MVは1988年当時のもの)、なぎら健壱(この歌はやらなかったけど)、ザ・コレクターズ(ニューアルバムから)などでした。どれも濃厚でパワーあり。


で、どのみなさんも還暦超えですね。なんという時代だろう。なぎらさんに至ってはデビュー50年以上。凄。

では、今回もGLIM SPANKYです。

10代の頃の思いが爆発する「焦燥」


前回書いた「大人になったら」は、松尾レミにとって、かなり重要な歌のようだ。というのは、この楽曲と、そこに込めたエモーションを起点としながら、彼女はほかの歌についても言及しているからである。

まずそのひとつが「焦燥」。こちらも初期の曲で、最初のシングル曲でもある。


このレコーディングテイクを今聴いても、松尾のヴォーカルには鬼気迫るものがある。ほんと、自分の覚悟をすべて決めているかのようなド迫力。

この歌の歌詞において重要なのは、<矛盾を盾にした大人たち>。その存在が若者の今と、その子自身の未来に立ちはだかっている。

曲にまつわるインタビューをいくつか。当時の記事から。

--- タイトル曲「焦燥」は、バンド初期からライブでも度々演奏されてきた楽曲だと思いますが、この曲をメジャーデビューのタイトル曲にした理由は?

レミ: わたしたちにとって、とっても思い入れのある1曲です。17の時に作った曲なのですが、くやしい気持ちや分かってほしいという当時の気持ちをそのまま吐きだした、メッセージ性の高い曲です!全ての年代の人に、届いたら良いなあと思います。

亀本: 曲のメッセージや精神性は今でも変わっていないし、デビュー曲にするだけの熱量のある曲だと思ったので選びました。


「焦燥」は、おそらくアーティスト・松尾の出発点となった作品のひとつなのだろう。


松尾:17歳の頃、苦い想いをしたことから、この“焦燥”は生まれました。 私たちの高校は当時結構荒れていたんです。そこで、もっとコミュニケーションを取りましょうということになり、 地域の人たちと高校側で交流会を設けて、会社の社長さんや図書館の司書さん、保育園の先生など色々な人が集まりました。そこで今の高校生たちがどんな夢を持っていて、将来どんな仕事につきたいかなど、高校生に質問するコーナーがあったんです。生徒会長は、街の工場に就職して、その後は家庭を持って幸せに暮らしたいという夢を話して、地域の大人たちからも拍手喝采でした。次に、副会長に立候補していた私の順番になり、そういう空気の中で、さすがにミュージシャンになりたいとは言えなかったんです。でも私は子どもの頃から絵を描くことが大好きだったので、美術系の大学に進学したいという話をしました。でも、美術系大学と言った途端、参加した街の人からはクスクスと笑い声が漏れてきたんです。

ー え、何で?

松尾:私たちの地域はまず美術系大学に進学する人がいないし、予備校もないんです。だって、私が高校設立以来初めて美術系大学に進学した生徒だったくらいですから。

ー そうだったんだ!

松尾:その位、ありえないことだったんです。

亀本:「美術を学んで何になるの?」、「お絵描きしてどうやってご飯食べるの?」っていう感じだったよね。

松尾:そう。3年になったら生徒会の副会長になろうとしている人が、何を言っているの?という空気になりました。それでも「音楽も好きなので、美術大学に通いながら音楽活動もやりたいです。」と言ったら、ドッと笑いが起きたんです。ドッと!「あぁ、ドッとってこういうことを言うんだろうな…。」という位の笑いでした。

ー それはキツい状況だね。

松尾:どんな大人になりたいのか、将来どういうことをやりたいのか、 あなた達が訊いたんでしょ!と思いました。散々笑われたあげく、「お姫様になりたいの?何、雲を掴むような話をしているの?」という感じのことを言われて、「この感じは何なんだろう?この人たちは何を考えているんだろう?なんでそういう風にしか見れないんだろう?」と思い、すごく悔しくて怒りを通り越して悲しさしか生まれてこない程でした。そういう時に、こういう人たちさえも感動させられるような音楽を作ってやる!こういう人たちをもドキッとさせられる曲を書いてやる!と思って“焦燥”を作り、それを持って「閃光ライオット09」に出演し、上京もしました。だから、あの時私を笑った人たちのことは反面教師だと思っていますし、むしろあの人たちも幸せにしてやろうという想いで、やっと今スタート地点に立てたという気持ちです。

ー でも考え方によっては、その人たちがいなかったらGLIM SPANKYとしてこんなに素晴らしい曲は完成しなかったかもしれないし、私たちリスナーが“焦燥”の持つ衝撃を味わえなかったかもしれない。

松尾:そうだと思います!

亀本:ものは考えようだね!


こうした話からわかるのは、「焦燥」には、10代の松尾が抱いた思いが相当な強さとともに込められているということ。

さらに、下記の記事は、最初のアルバムの時のインタビューである。「焦燥」と「大人になったら」の流れが理解できるエピソードが明かされている。


松尾:このアルバムは100%完成させたくなくて、次が見える作品にしたかったんです。最初は10曲目の「大人になったら」で終わろうと思ってて。
「焦燥」という曲は高校生の時に、“大人になる”という事に焦燥感を覚えて作った曲なんですけど、「大人になったら」は20歳を超えた自分が、「焦燥」を書いた時と同じテーマで書いた曲だったんです。16歳で思った事を、20歳を超えた時に同じテーマで歌った曲をアルバムの最初と最後に持ってきて、その流れでゴールにしようと思っていたんですけど、綺麗過ぎてつまらないなと(笑)。そんな時に映画『リアル鬼ごっこ』で曲を作る機会があって、できた曲は今まで作ってきたものとは違う感覚があるなと思って。それをあえて完成されたアルバムの最後に入れて、次を予感するものができたらと思って収録しました。


前回書いたように、僕はデビュー直後のグリムのライヴを何度か観ることができた。あの頃、小さな会場で感じた、松尾の歌の一歩も引かないような気迫を、思い出している。


大人になったグリムの名曲「形ないもの」


2022年、グリムはシングルで「形ないもの」という曲をリリースしている。素晴らしいナンバーだ。

「焦燥」や「大人になったら」の頃から大きな成長を遂げたプロダクトに仕上がっている。歌も、言葉も、もちろんサウンドも。ブリティッシュ・ロックの深みを吸い込んでいながら、ここで表現されている世界には聴き手に寄り添う優しさもある。
その歌詞。<僕>と<君>について唄う言葉はポジティヴだ。
そして2コーラス目には、<なんで自分で魔法を解いて/大人になろうとする>というフレーズがある。

次は、アルバム『Into The Time Hole』発表時のインタビュー。「形ないもの」について。

亀本:ちゃんと「超名曲になれ」って作りましたね、これは。

松尾:「大人になったら」のようなテーマで自然に書いていったらできました。「大人になったら」は、過去の曲にも過去の想いにもなっていなくて、まだ同じことを思っているわけですよ、自分は。<好きな場所がまた一つ 壊されてくけど>っていうのは、新木場STUDIO COASTだったり下北沢GARAGEだったりとか、自分にとっての居場所がコロナ禍になってどんどん無くなっていったのも事実だし、ファンの子達からもいろんなメッセージが届くわけですよ。「楽しみにしていた最後の体育祭が無くなっちゃいました」とか、「高校二年生で修学旅行が無くなりました」とか。学生のときの1年って、大人になってからの1年よりももう、めちゃくちゃ重要じゃないですか。

──それはもう。

松尾:高校3年間なんて1年ごとに全部違うストーリーがあって、全部覚えてるじゃないですか。だからみんなにとっての行事だったり場所っていう、本当にかけがえのないものが無くなっていってしまうことはすごく悲しいと思うんです。それが無くなってしまった今、ずっと「悲しい」という気持ちで生きていくのは意味がないけど、そのとき感じた気持ちって、形がないけど一番大事なものであって、自分を動かす原動力でもあるなと思ったのが一つ。


あとひとつは、ライブハウスのスポットライトについて思ったことなんですけど……以前カバーした浅川マキさんの「それはスポットライトではない」という曲が、スポットライトとは何なのか?ということを歌う歌詞で、たしかに、常にライブハウスのあのスポットライトじゃなくても、いろんな光がわたしたちの生活の中のスポットライトなのかもしれないって思ったんですよね。<平凡な特別を抱きしめていたいよ>って書いたのは、ただ街を歩いていて街灯に照らされたその一瞬も、それは特別な瞬間かもしれなくて、その人にとってのスポットライトかもしれない。月明かりがそうなのかもしれない。そうやって考えることによって、いろいろ悲しいことはあるけれど、平凡だと思っていた毎日も素敵だなって思えたら、幸せな気持ちになれるし、明日も良い日になればいいって思えたらっていう。希望を描きたいと思ったんです。

浅川マキ!
これまであまり書いたことがなかったが、実は僕は浅川マキが好きで、80年代から90年代には彼女のライヴに何回か足を運んでいた。
中でも「それはスポットライトではない」は思い出深い歌のひとつだ。「ガソリン・アレイ」同様、ロッド・スチュワートのレパートリーを浅川マキが日本語詞にしたものである。


そして、ここでの、市井に生きる人としての松尾の言葉は、とてもあたたかい。彼女の生き方が表れているような気がする。
また、大人になることを魔法が解けるという表現をしているのも、ちょっと素敵だ(正確には<なんで自分で魔法を解いて~>だが)。なんとなくだが、ブリティッシュ・フォークを指向する近年の彼女らしさが出ているようにも感じる。
さらにもうひとつ。「形ないもの」は、コロナがあって、希望を見失いがちになっている若い子たちに向けた、GLIM SPANKYのふたりからのエールになっていることも感じる。

それにしても……前回から見てきたグリムの曲たちが映し出す大人の像は、とくに「大人になったら」と「焦燥」の2曲では、すこぶる良くない。希望を胸に抱く若い子の思いを嘲笑し、その夢を壊してやらんばかりの、したり顔をしている。

僕は思う。若者は、そんなものに対しては無視していいし、場合によっては反抗してもいい、と。

僕はミュージシャンにインタビューするのが仕事のひとつだが、突っ込んだ話を聞いてもいい時には、その人はどんな思いで音楽を始めたのか、その頃はどんなふうに生きていたのかを尋ねることがある。
昔はそこで、親に反対されたとか、それこそ松尾レミのように周囲が理解してくれなかったという話を聞くことがよくあった。それが近年は、むしろ親のほうが理解してくれているケースが多い。ミュージシャンを目指す子を応援しているような。

60年代や70年代は、音楽、とくにロックでギターを弾いたりバンドをやったりするような奴は不良だ反逆だと言われて、親と反目することも多かった。しかしそうした風潮は、僕が若かった80年代から90年代にかけて大きく変わり、ロックの反抗的な要素は徐々に落ち着いたものになっていった(決して霧散したわけではないと思うが)。

そんな中でもやはりミュージシャンになろうとする人は、進学とか就職とか、人生の堅実なレールをきちんと歩もうとする生き方と相容れないことが多い。しかし音楽の道を進もうとする決心だって、自分の理想を追って生きる形のひとつだとは思う。人の生き方なんて、それぞれでいいに決まっている。

ただ……ちょっとばかり人生ってのを、世の中ってやつをかじったことがある年上の人間は、知ったふうなアドバイスをしたくなるものなのだろうか。いや、その人なりに苦労はしていて、現実をイヤというほど味わった時もあったのかもしれない。厳しい世の中に翻弄され、ヒネくれてしまって、夢に燃える若い子たちに向けて悪態をつきたい大人もいるのかもしれない。そこはいろいろだろう。

だけど、夢を見る若者たちのことを応援する大人もいる。
それこそ、魔法が解けないまま道を進んでいこうとする若い子にエールを送るような大人だって。

自分もそうでありたいものである。


恵比寿のガーデンプレイスで
ご飯を食べたのは初めてじゃないかと。
デリカテッセン ヤマブキにて
グリルソーセージ定食、1300円。
信州のソーセージやハムのお店なんですね。
充分のボリューム、食が進む味わい、
プラス、家族が食べきれないカレーもあって
ライヴ前なのにポンポコさんと化す

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青木 優
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