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特別課題(クエスト)!アンデラの速度と満足感の秘密に迫る!①(1〜9話)

アンデッドアンラックが多分そろそろ完結する。

ここ五年の間、週刊少年ジャンプを毎週購読していたのはこの漫画のためだと言ってもいいぐらいに面白い漫画であった。

異常な初動打ち切り速度を誇っていた週刊蠱毒と化していた2020年のジャンプを生き抜いたその実力は本物で、個人的な贔屓目で言わせてもらえば、ジャンプの漫画の評価基準にアンデラ以後という概念を生み出したとさえ思える。

なにを変えたのか。

ストーリー漫画の1話内に求められる情報密度である。

アンデッドアンラックの最大の特徴、それは、展開速度と情報密度が頻繁に凄まじいことになることだ。

ジャンプ読みの間では打ち切り間際の漫画は展開が圧縮されて情報を出し惜しみしなくなるので面白くなると言う定説がある。
その展開速度と情報密度を別に打ち切り間際では無い漫画で意識して序盤から出し続けることが出来たなら……毎週最強に面白い、ワクワクする漫画が出来るのでは……?
出来ました。それがアンデラです。

最強ジャンプ2021年12月号から

二代目担当編集さんによると、この異様な密度と面白さの秘訣の一つは週刊連載なのに何回もネームの練りを繰り返していることだそうで、それが出来たら苦労しないが本当に苦労してやってるんだと言う最強の正攻法。

本当に初連載か……これが……!?

とにもかくにも、この展開の高速化術と情報の出し方は整理してシナリオ術演出技法に役立てるべきである。
そう言うわけで、序盤を読み返しながら、徒然とオタクのコメントをしていこうと思う。

以下、全力でネタバレの山なので注意。
この際買ってから読むというのも……ありだぜ!

1話

と言っても1話の時点ではそんなに言うことがない。
シンプルに1話としての出来がいいのでとりあえず上のリンクから見てくればいいと思います。

2話

2話

1話では言及していなかった「不運」の能力の詳細が言及されている。
とにかく「情報が増える」と読者は話を読んだ意味があるように感じるが、ただ説明するだけだとテンポを削ぐ。
なので、派手に能力を使うタイミングと、話の上で説明が必要になったので説明するタイミングを分けておくのは細かいテクニックだと言えるだろう。

2話
2話

1話の怪しい組織のことを思い出してからその刺客が来るまで4p。
仄めかした展開はその回のうちに即座に回収する。

2話
2話
2話

そしてここがアンデラを凄い漫画だと思った最初のシーン。

普通、怪しい組織に追われていたら逃げるもしくは迎撃する流れになるものだ。
だがしかし、アンデラはそうしなかった。
怪しい組織とストレートに敵対するのではなく、入団を狙うのである。

後の9話で明かされるが、この怪しい組織──ユニオンは、ちゃんとこの世界に否定者と悲劇を生み出している輩に対抗している、どっちかと言うと正義の組織だったのである。
どうせ後から共闘するようになるのなら、敵対状態を長続きさせるよりも、さっさと入団を目的としてしまった方がいい。大胆なスキップである。

しかも目標が明確になったので、逃亡展開がどうしても孕んでしまう先行きの見えなさや受動的さからも解放されている。主人公サイドがちゃんとゴールに向けて能動的に動くことが出来るようになる。一石二鳥で素晴らしい。

後にこれは初代編集さんの案だと明かされたのだが、とにかくこのよくある流れから180度急カーブを決めたことがアンデッドアンラックを他とは一味違う攻めと速度の漫画にしたと言っても過言ではないだろう。

3話

3話

敵キャラクターにも当然(将来的に主人公の仲間になる奴との!)人間関係の設定があるので、「そういう奴がいる」というのを言及させることができる。こう言った細かいところで「そこに設定がある」ことを見せていくのが世界観の奥行きや期待になるんだよなあ……。

この武装スーツ姿の男性ボイドさんはこの3話でお亡くなりになられるのだが、そのタイミングは話のヒキとかではなく中盤であり、アンディは彼を倒した後にそのまま相方のシェンとの戦闘にスムーズに移行する。
話の真ん中に大きい決着を用意して、実質的に1話を2話分にする。アンデラではよく使われるテクニックである。
後の連載である鵺の陰陽師でも似たような構造がよく使われているので、ジャンプ編集部内でノウハウ化されている可能性もありうる。きっと今後の連載スタンダードになっていくことだろう……。

3話

クレイジーサイコバトルマニアで輝いていた頃のシェン。
話を円滑に進めるためには、主人公たちが求めるものを得るための情報を与えてくれる奴がいると話が早い。
その理由が主人公たちに執着しているからであり、自分の組織に害を為すようなことになっても構わない、この頃のシェンはつまりはトリックスターである。
トリックスターキャラが出てくるとそいつと本格的に戦ったり共闘したりするタイミングが楽しみになってくるんだよなあ……

4話

4話
4話

ジーナ本人登場まで僅か1ページ。
ページをめくった瞬間話題にされていた当人が次の目標になるぞと示してくる爆速性である。

1話

ちなみに不壊刀をパクったのは本編の外ではなく1話の怪しい黒服にブッ刺されたものを持ち逃げした時の話なので、ちゃんと1話の時点で不壊マークがついている。
こういう細かいところの描写に語ってない設定があることの信頼が得られるが、
あまりにもさらっと持ち逃げしているのでどこで刀を手に入れてたかは意識して追いかけてないと気づかないかもしれない。

4話

読み返していて気づいたのだが、2話に引き続き話を進めるがてら不運の能力検証で情報量を増やしているんだなー……
既に出ているものの細かい話が「わかる」と気持ちいい、そこを的確に刺激してきてくれる……

5話

5話

アンデラ特有ではなくONE PIECEとかでもよく使われるのだが、
2ページ丸ごと見開きに使うのではなく、タテヨコ2/3ぐらいを使うことで目立つページを作りながらコマ数を増やす技法。これまでの回でもちょいちょいあったけれどもアンデラでは頻用されてる印象があります。

5話

ジーナ登場。4話に出てきた姿だとポイントが帽子とネクタイなのでそれを外すとぱっと見同一人物だとわからないようになっているんだな……

5話

アンデラの世界観にさりげなく触れられたシーン。

作中では当たり前のことだが、読者にとっては特殊であること、それも現実では当たり前のものが存在していない、という触れにくいことを自然な流れで、読者にその不自然さを伝えられている。

それだけではなく、このシーンはそもそもジーナとの交流の為のシーンである。

お互いの描いた絵を見せ合うという交流の中で、アンデラのテーマの一つである変わる変わらないの話をし、世界観の一端に触れ、こいつとこれから戦わないといけないのかという気持ちを高める。

この一つのシーンで複数の物語的要請をこなせるところが、アンデラの展開圧縮力の真髄の一つと言えるだろう。

ジャンプのベテラン松井優征先生は、この手法のことを「兼ねる」と呼んだ。

ジャンプの漫画学校講義録⑥より
ジャンプの漫画学校講義録⑥より

松井先生がこれを説明していたまさにその最中に、このあり方を本誌で実現し続けていたのがアンデッドアンラックだと言えるのだ。

アンデラの話進行は基本的に複数の目的・複数の物語要請を「兼ねる」形で行われている。

それを意識して読んでいくと、この漫画の展開圧縮加速満足感の秘密に近づけるだろう。

5話

そしてジーナの正体判明と戦闘開始もその回の間に到達させる早さである。

6・7話

6話

バトル回なので特に言うことはあまりないのですが、
ジャンルが能力バトルなので、相手の能力のルールの分析解体・仮説検証トライ&エラーで話を進めているのが、「情報を出しながら話を動かしていく」感じがあって、作品の強みが一貫していていいと思います。

連載当時の感想群だと、序盤で「無敵バリアでも光は通る」を確認していたのと、それがしっかりと決着につながっているところが、異能バトルリテラシーの高さで褒められていた記憶。

8話

ジーナ戦決着でアンデラ最高回の一つ。
この時点でジーナがいいキャラしてるのはもう誰の目にも明らかだったのだが、それをここできっちりと殺して実質的な故人ヒロインにするのがあまりにも強すぎる。

更にその遺言で主人公の今後の方向性を決定づけまでするのは強烈。
ガッシュの「優しい王様」ぐらいに鮮烈に方向性を決めた回と言ってもいい。
ちなみにガッシュのその回は18話目です。2020年のジャンプとゼロ年代のサンデーの速度感の違いもあるので簡単に比べられるものではないけれど。

8話

ここまでの風子は「生き延びる為」にアンディについてきていたので、組織に入ってしまったら、その目的は達成されてしまう。
つまり、ここで新しい方向性を手に入れていなければ、ジーナを倒したところで物語は終わってしまうのである。
ジーナが主人公たちに方向性を与えてくれたことで、この物語は続くことができた。つまり、彼女は死に際にこの漫画を生かしたのである。
そしてこの方向性を主人公たちが覚えている限り、何度でもジーナのことを思い出すことになる。これが故人ヒロインの強さである。

8話

ところで不死の男が今から死に行く女にかける言葉が「またな」なんですよ。
それはつまり「いつかお前んとこに逝くからな」という意味で、実質最後の勝ち約束みたいなとこがあるし、、なんなら最終決戦で不死を失ったアンディを現世に蹴り返す役まで行けるので、ちょっと故人ヒロインとして強いところを持って行きすぎてる。
(まあ結局それ以上の最高のエンドを目指す作品なのでそうはならなかったのだがリアタイの興奮はそうだったので!)

8話

そして今回もジーナ戦は前半に終わって、
後半では目的であったユニオン本部の円卓へ即直行!!

ムーブの存在は2話の時点で見せていたので強制招集にも無理がなく、
何よりこの円卓メンツの顔見せが漫画だから出来ることでいい。
「アンディの指弾をどうやって弾くか」、それが8人8様であり、この時点でどんな能力を持っているのかどういうキャラなのかの片鱗が見せられているのだ。

とにかく出せる時には贅沢に一気に大量のものを出してくる。
そして出したものにしっかりと情報量が詰まっているので、これってこういう奴なんじゃないのというワクワク感が出てくる。
リアルタイムで追いかけるのに最高の漫画だよ(掲載順の乱高下以外)……!

9話

9話

大規模な設定開示回。
ここで今までユニオン関係者が言っていたノルマだとかルールだとかUMAだとかの意味がある程度はっきりするのだが、逆にここまでその辺の説明なしにやってこれたのも、「その時に何を目的としているか」がはっきりし続けてきたことが強いのだと思う。細かいワードの意味がわからなくても、今何の話をしているかはわかる。

なんならこの時点でもUMAの説明は具体的な形ではされていない。
バーンの姿によって特に言語的な説明をしなくとも、そういうモンスター的存在がいるのだということを示唆しているだけである。

9話

更には「ギャラクシー」の意味を作中人物がわからなくても読者はわかっているので、ジーナ編で印象付けられた星のない空と合わせて、ペナルティを得たら何が起きるのか漠然と理解することができる。
そしてこの流れで自然と、この世界の各種法則はUMAによって定義づけられているのでは?という予想が生まれてくるのである(そして実際に後の回で答え合わせがなされる)。巧みだ。説明しなくてもなんとなくそういうものなんだろうと思わせる力が凄まじい。

更にクエスト対象にいるバーンの横、報酬の方で不燃(アンバーン)の否定者が存在することにより、UMAと否定者には対応関係があるものがいるのでは?というのも自然に想定される。
作品の異能力者である否定者と、作品世界の仕組みがストレートに繋がり、そして前話まではスカム異能者管理組織のようであったユニオンが、この世界に理不尽を強いる神に抵抗していることを知らされ、ちゃんとまともに共闘するに足る世界の守護者へと裏返る。

繰り返すがこれが9話目である。
長期連載の中盤辺りで今までの描写がつながって世界の全貌が見えてきたかのような快感が、まだ2巻目の序盤の時点で得られるのである。

「疑問はあとだ。とりあえず覚えておけ」というアンディのコメントはこの情報を叩きつけられた読者への勧めでもある。とりあえずそういう概念が作中にあるのだとわかっていれば十分で、後から理解させるようにする気があると作品側が読者に示してくれているのだ。

ミッションが一つではなく複数一気に出されてくるのも、前回の円卓勢揃いに引き続きあまりにも贅沢だ。
達成報酬を提示した上で複数一度に出してくることにより、「どれからやるのだろう」「どれが話にとって重要なのだろう」「報酬は果たしてどう使うものなのだろう」という興味と期待が惹かれる。

9話

ところで存在しない概念の名前を言われているので風子がなんやそれとなっている一方で、ユニオンのボスであるところのジュイスは与えられるペナルティがどういうものであるかを解っているかのような態度をとっている。
おそらくはこの世界の誰もわからないであろうから、どのぐらい危険なのかを通り越して危険性があるのかないのかすら解らないものに対してである。

なので読み込んでる読者は、ジュイスはギャラクシーのある世界の出身か、かつて存在していたギャラクシーという理がクエストをこなしていくうちに消えて再出現しようとしているのを見届けてきた人間か、タイムリーパーなので未来を知っているか、なんらかの形でこの世界に存在しない理を知ることが出来る秘密を隠しているのだということにこの時点で気づける。

この深読みしすぎと言われそうな考察を「する価値がある」信頼を、この1話だけで一気に稼いだのである。

ちなみにこの辺で出た結局外れた予想として、アンディ=アダム説がありました。当たらずといえども遠からず。

9話

スカム異能者管理組織めいた姿を見せていたユニオンだが、今後仲間になる相手なので、気持ちよく協働する為にはそのフラストレーションは解消させておく必要がある。
なので、説明が終わった直後にそのユニオンへの不信感情を風子にしっかりと吐露させている。

9話

そして、それに対する返答の形で、ユニオンが上位存在の悪意と戦っている本当に正義の組織であることが、世界の真実と共に風子と読者に突きつけられるのである。

9話

その上で、ジーナの遺言から決まった将来目的である「組織を変えたい」も放置されることなく、その為に必要な手段が提示される。

「クエストをこなす」という組織から与えられる課題と、風子とアンディが持つ「組織を変えたい」という個人の目的を果たすための手段が、これで一致を果たすのだ。

まあ伏せられていた設定的に真っ当な手段でジュイスのポイントを上回ることはおそらく現実的には不可能なのだろうけれど、それがわかった時には席次争いは別に大事な話ではなくなっていたしね!

9話

そしてユニオンに向けられていたスカム上位存在へのヘイトはアポカリプス(とその後ろにいる神)へとシフトする。しかし矛先が変わっただけでヘイトそのものは消えないだろう、というところまでもアンデラはこの回のうちに処理しきる。

アポカリプスを痛めつけながら最難関クエストをアンディが要求するのは、
上位者ぶったアポカリプスへのムカつきをお前なんて大したもんだと思ってねーよという態度で解消し、アンディの強さ逞しさを印象づけ、目的の為のポイントをいきなり大きく稼ぐ為の最速手を取りに行くという効率性の気持ちよさまで感じさせてくれる。

ついでにNo.2で偉そうにしていたバトルジャンキーのシェンも巻き込むことで、こっちの優越性も削ぎながら、能力に謎を秘めたトリックスターの活躍が今後見れることも期待させてくれる。

この9話の1回だけでこれだけの設定開示の巧みさ読者の感情コントロール、そして今後の展開への期待を見せている。いやぁ無限に褒められるな9話……


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