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「少しのびた爪をきる」

気づいたらまた少しだけ爪がのびている。
すきな作家さんの漫画で主人公が、ハンバーグをこねるとき爪のあいだにミンチが入るのがいやだから、爪は短く切りそろえると言っていたことを思い出す。

 
手の爪はマニキュアを塗ると窒息しそうな気持ちになるので、あまりしない。
その反面、きれいに丁寧に塗られた指先を見かけるたび、「ああ、いいなぁ」と思う。それは自分に施すものではないとぼんやり思うけれど、美しいなと思う。

 

爪を、切れない時期があった。
正確には、それにかける労力が残っていない感じだった。
精も根も尽きて、身体だけがやっと生きているような時期だった。
それでも、爪はのびるのだ。
強度のない私の爪はそこそこ伸びたところで割れたり折れたりしていた。
そのまままの自分みたいだった。

 

あれから何年経ったっけ。
私は何度か冬をやり過ごし、爪を切れるようになっていた。
当たり前のように、さっと爪を切って飾り気のない手を見る。

「ああ、これもわるくないね」

#エッセイ #爪

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