一度経験したからこそ言えることがある、ということ。
自分の考えや感想は自分が経験した範囲からでしかいえないものです。
例えば他人に対して自分が思うことは自分が考え得る範囲での相手のことでしかないし、会社や社会に対しても同じこと。自分からみえる相手は自分なりのバイアスがかかっているでしょうし、さらにはごく一面のことでしかありません。よって、自分なりの考えや感想は間違ってはいないけど、必ずしも合っているわけではない、ということを念頭に置く必要があります。
こちらに関連しますが、自らが経験したコトのない事象であっても人は考えや感想を言うことがあります。
例えば、僕の前職の業界では一部の方が「広告賞なんて受賞しても意味がない」と言ってくる方がいました。その方にとってはそうなのでしょうが、もちろん誰にとってもそういうわけではありません。当人はもとより、クライアントやパートナー企業にとってはそれを受賞することが栄誉だと思っている方もいるわけです。
僕は広告賞を受賞することがどれだけ難しいことかを理解していたので、その言葉を聞くたびに「そういうことは自分が受賞してから言ってくれ」って思っていました(苦笑)。経験したこともない人が、自身の感想で完結するならまだしも、他人に対して「意味ある/ない」を言い切るのは違うんじゃないの?と思っていたんですね。少なくとも、自分とは主義主張が異なっていたとしても、受賞を目指す方たちに対してのリスペクトはもっていてもらいたいな、と思いました。
※「いろんな人がいていい」の精神で(苦笑)。
・・とはいえ、そういう自分にも似たような経験があります。
会社に所属していれば組織のヒエラルキーというのはつきもの。自分が現場だったときにマネージャーや会社に対して「なんでもっとこうしないんだろう?」などと不満に思ったことが何度かありましたが、それも自分が見えている範囲での考えや感想だったのかもしれません。
自分はその意思決定がなされる要因となった情報はもっていないし、どういう環境や経緯でそこに至ったかもわからない。その「わからない」状況のなかで結果だけみたときにでてくる考えや感想は必ずしも客観的に正しいものではないのかもしれません。
(・・とはいえ、そっちの方が正しい場合もあるのでややこしいですし、そう思われないようにマネージすべきという話もありますけど)
僕は現場⇒マネージャー⇒経営者と組織としての役割をいろいろ経験してきましたが、その立場を経験したからこそみえる『景色』というのは確かに存在しました。「あの意思決定はこういうことからだったか」というのが、その立場になって初めてわかるのです。
組織は客観的かつ一般的な正論だけでは動かない。「なんでこんな単純なことを動かすのにこんなに時間がかかるんだ?」と思うことも、その立場になってはじめて「あ~、周囲に理解&納得してもらうために説明して回る時間が必要なのね」とか、複数の部門横断のプロジェクトを走らせる際に「誰がどう考えてもこの結論にしかならないのになんでこっちの方向にいくの?」と思っても、各々の立場やミッションが異なれば一枚岩になりづらかったり。それらも一度経験したからこそ理解ができたことですね。
・・なので、いろいろな立場を経験した人の方が『調整役』としては優秀な人材になりやすいのかもしれません(苦笑)。
そういう経験があるから、社員のみんなには「失敗してもいいから一度マネージャーは経験した方がいい」と言っていました。現場からみえる景色とマネージャーから見える景色では全く異なります。そしてマネージャーからみえる景色と経営者からみえる景色も全く異なります。
一度でもその景色をみるといままで疑問だったり不満だったりしたことが解消(理解?納得?)されることも多々ありますし、その景色をみたからこそやれることも変わってくるものです。一度経験したうえで「やっぱり自分には合わない」と思えば元に戻ればいいだけのこと。どのような結果になっても『景色』をみる経験をすることは大事だと思います。
上記、つらつらと書いてきましたが、だからといって「経験もしていないのにツベコベ言うんじゃない」というわけではありません。経験していないからこそ言えることもあるし、言いたいことは言えばいいと思います(苦笑)。ただ、その際には「違う考えの人もいるよな」とか「自分がわからない面もきっとあるんだろうな」と思って、自分の意見に固執(押しつけ)をしなければ良いんじゃないかな、と思います。自分の考えはあくまで自分だけのもの。世の中はいろんな人の考えでできているから面白い。
そしてさきほど書いたように一度経験したからこそ見える『景色』もあります。その景色をみたら自身の考え方も変わる可能性がある。・・なので、固定観念をもたずにいま考えている/感じることは現時点での今の自分の考えでしかないと思ってもらえれば良いかなと思います。