ポメラ日記 2020年2月16日 あかりをつけよう、わたしたちの二つの雪洞に、繰り返し
未明に授乳後、よんださんが吐き戻して慌てる。
これもわたしがよんださんを見たり着替えている間に、ささださんがシーツ換えを素早くやってくれた。
昨日のぱんださんの吐き戻しもあり、すわパンデミックかと思ったが、どうもよんださんは単なる飲み過ぎとげっぷがうまく出来なかっただけのようだ。
ほっとする。
日曜日だ。例によって午前中を一人で回し、ぱんださんの「おだいりさまと、おひめさまやろう?(飾ろう?)」というリクエストに「おとうさんが起きてきたら相談しようね」とかわし続ける。期待に満ちて輝く目がまぶしくて目をそらす。だって雛飾り、大変なんだもん……。
最近よんださんはご機嫌に声を上げていることが多い。しゃべる準備が整っていない喉からしか出てこない、このなんともかわいい音、ほがらかで、やわらかく、無垢だけでできたこの世界へのよびかけの声、永遠に聞いていたい。聞き惚れているとだんだん不満や退屈や空腹を訴える泣き声に変わるのが残念なところである。
休日になると、よんださんとぱんださんに挟まれる時間が多いので、ぱんださんがわたしのよんださんへの態度を目の当たりにすることになる。そして自分もそのようにされたい、と甘えてくる(その気持ちは十分理解できる)。
幼児向けの一話ごとの短いアニメーション番組を続けてみているとき、見慣れたオープニングとエンディングのときだけぎゅっと抱きついてくるのでせわしない。
あと「けんた」だ。ぱんださんの初のイマジナリーフレンドメイトの名前なので記念に記しておく。
しかしまだ弱冠三歳のため、独立した架空の人格を想像上に維持することが難しく、他人や自分にその人格を仮託することになる。つまり、「おかーさん、けんたになって」とリクエストが来る。開始の合図は「とくべつななまえをおしえて?」だ。
「おなまえは、なんですか? とくべつななまえをおしえて?」
「け…けんた(始まったぞ)」
「けんた、おともだちになろう!」
という儀式を経て、二人でけがをしてお医者さんに直してもらったり、故障した車を救助して修理したりする。
単調で飽きの来る遊び内容な上、他人の人格を付与されて時々台詞の指導も入り、なかなか付き合うのが大変だ。それにわたしは大人なので、ぱんださんの生活のタイムキーパーの役割もある。
「はい遊びおしまい、そろそろお昼ごはん食べるよ-」
などストップを掛けると、やや意外そうな顔で、
「おかーさんもうけんたやめちゃった?」
という確認が入る。
「うん、けんたはもうお終い」
「そっか……じゃあつぎは、ぱんちゃんがけんたになるね」
違う。ごはんを食べよう。
ささださんの一念発起を機に部屋を片付け、お雛飾りを出す。もとはささださんの妹さんのものを譲られた、大変立派な七段飾りである。
ぱんださんが興奮してお人形をがんがん出しそうになるのを、待って待ってと抑えながら、よんださんが飽きて泣き出すのを時々あやしながら、大騒ぎしてなんとか出し終える。不器用なものたちが飾り付けているので、烏帽子のかぶり方や持ち物の配置がちょっと甘い。ゆるして。
飾り終わったお雛飾りはそれでもとても素敵で、ぱんださんがうろおぼえにひなまつりの歌を歌い出す。
一緒に歌うと、ささださんも合わせて歌う。
文化っていう、おままごとをしているみたいだった。