ポメラ日記 2020年2月13日 君の腕に聖痕(BCG)を
今日はよんださんのBCG予防注射だ。
ぱんださんを送り出して午前中がやんわり消滅したところで、カレーの残りがあったのでカレーうどんを作る。ささださんと食べた。
予防注射の前に今日こそ銀行に住所変更に行かねばならないと思っていたが、気がつくとまた時間が「予防注射の予約時間にはまだ余裕があるけど」くらいになっている。
だがここで行かなければまた同じことの繰り返しだ、と決意して、ベビーカーを押して早足で銀行へ向かう。
銀行は……とてもゆっくり時間が流れていた……。
ちょっとしたミスが大問題になりかねないお仕事であるし、てんやわんやされているよりは全然いいのだが、それにしても毎日15分の余裕がとれずに生きている人間にとっては別世界である。
よんださんもおとなしくしてくれていて、静かでゆったりとした待ち時間が流れる……予防注射の時間は迫っている……。
結局、病院には電話して30分超過でたどり着いた。
BCGのはんこ注射はそんなに痛くないらしい。いつもは注射でわっと泣くよんださんも、消毒されてぺったんされて、
「ふぇ(泣…………(なにもない……?))」
という感じになっていた。
帰り道の路上、年配の女性たちが立ち話している。一人が自転車を止めて、ほかの三人は徒歩だ。みな同じくらいの年齢で、同じくらいの身長で、同じくらいの体格で、同じような暗色のダウンコートを着ている。
小学生たちが、ランドセルを揺すりながら顔を赤くして走っている。
短い横断歩道を渡るときに、向こうから来た自転車と、わたしを追い越していった自転車が、どちらも急ブレーキを踏んで振り返った。どちらもわぁっと声を上げて、こんなところで会うなんて、と再会を驚いている。間に挟まれたわたしは急激に存在を無にしつつ横断を歩道を渡りきった。背後では、まだ会話が続いている。
「もしかして、そうかなーって、ぎゅーっと見ちゃった、ぎゅーっと」
「わたしも」
「あらぎゅーっとって変ね、じーっとね」
変じゃないよ、イメージ分かるよ、と心の中で会話に参加する。
ランチ時間を終えた中華屋さんの店先にオカモチがずらっと並んでいて壮観だ。あんなに要るものなのだな。明るい日差しの場所にさしかかると、道路沿いに植えられた柳の葉が青くやわらかく揺れていて、そこにも春の気配がした。
ぱんださんを園に迎えに行って、リクエストされて園の本棚から本を借りてくる。『おれはティラノサウルスだ』。
たらのムニエルなんかを作って食べ、借りてきた絵本を読む。プテラノドンのこどもとティラノサウルス、食われるものと食うもののつかの間の交流とすれ違いを描いた作品で、結構ぐっときた。その結果読み聞かせのトーンにも熱が入る。
ぱんださんが、「かなしいおはなしだったねぇ」と目をうるうるさせていた。
「はじめは、たのしいおはなしだったのに、どうしてかなしいのかなぁ」
その”どうして”は、きみしかきみの答えをもっていない問いだ。
寝かしつけの際、ぱんださんが、やらないでほしいとお願いしていたことをことごとくやる。叱り飛ばし、部屋に一人にし、大泣きされたところでようやくもう一度一緒に布団に入る。
まだべそべそしながらぱんださんが、「えほん、かなしかったねぇ、てぃらのさうるす、おさかな、いっしょにたべよーっておもってたのにねぇ」とつられて悲しみを思い出す。
そうだね。
「ぱんちゃん、ずっと、かなしいよ」
そうか。
やさしい夢を見てねむれるといいね。