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ポメラ日記 2020年1月30日 またと言いながら笑って別れる

よんださんが夜泣きというか、明け方泣きでぜんぜん寝てくれず、ふらふらして起きる。
午前中の記憶がないが寝てもいない。
夜に特別な一人のお出かけがあるので、それを心の支えにしていた、ような気がする。
あとそのお出かけの前までに必読であった、スーザン・プライス『ゴーストダンス』を読み進める。

一度福岡で奇跡の寝返りをしたのち、さっぱり寝返りの兆候がなくなったよんださんが、本腰をいれて寝返りの準備を始めた。ぐっと足を持ち上げ、半分くらいまで体が横になる。
だが、完全な成功はせずに、ふーっと諦めて天井を見上げていた。


あまりにも晴れて暖かい日だった。
よんださんを陽に当てようと散歩に出て、うっかり上着を忘れる。
土のあたりにはまだ水たまりが残って、樹の影が映っていた。
よんださんを、いつものように顔をわたしの胸に向けるのではなく、背後から抱きかかえて外を向くように抱っこひもをセットしている。
よんださんはまぶしがったり、あたりをきょろきょろ見回したりしていた。
しかしわたしからは顔が見えないため、はなみずが盛大に流れ落ちていることにしばらく気づかなかった、すまない。

ぱんださんを保育園から引き取り、慌ててお風呂に入れる。
そしてちょっとだけ気合いを入れたお化粧をして、一人で出かけた。
今日は、クラウドファンディングで応援していたスーザン・プライスのゴーストシリーズ、全三巻翻訳の出版記念トーク&パーティなのだ!
だがそこで大きな困難が立ちはだかる。昨日新調したiPhone、家のWifiにつながっているために全く気づかなかったが、ふつうに電波を拾ってない。IIJモバイルのため、なんらかの設定が必要だったのだ。
目的地は原宿、神宮前。住所は分かる。会場の名前も分かる。だが地図はない。
「駅から徒歩3分程度」の言葉と、住所表示をたよりに神宮前のエリアをさまよう。
日はもうとっぷりと暮れている。
原宿はあまりなじみのある街ではない。街になじんで歩いている人や、建物の近くに座り込んでいる人は、指先までファッションに気を遣っている気配があったり、なんだか大きなサイズの(でも汚れていない)服を着ていたりする。小さな路地がつながり、ぐるりと回り、坂道になり、さきほど歩いたかもしれない場所にまた戻る。道路全体がまぶしく照らされるほど店先が明るく人の気配のある場所と、人っ子ひとり通らない、しんと闇に沈んだ道が交互に現れる。
店じまいしかけのアンティーク・ジュエリーショップの老婦人に道を尋ねると、同じ場所を先ほども別の人間に道を聞かれた、と言われた。はっきりとは分からないが、この道の一つ上の道あたりだから、この二つ先のとても急な階段を登りなさい。そんなふうにささやかれる。
細く折れ曲がって、しかしイルミネーションでまぶしく飾られた階段を上がり、また店のひしめく欧風の路地を抜けると、突然まっくらな普通の道路に上がる。こちらでいいのだろうか。また誰もいないところに来てしまった。開いている店もない。
そんなとき、冷たい街灯に照らされて、ガラガラと荷を引く人影があった。佐川急便の、配達の人だ!
あの、お仕事中にすみませんが。
ああ、それなら確か、あの茶色の丸いビルですよ。
実際にはその茶色の丸いビルの二軒先のビルだったが、ありがとう、ありがとうございます佐川の人。


会場はこぢんまりとしたとても感じのよい場所で、暖かな光にほっとして受付をする。もうトークは始まっていて、しかも20ほど並べられた椅子(固い)の中で開いているのは最前列の中央二つだけだった。遠慮がちな日本文化あるあるだ。
申し訳ない気持ちと、「だってここしか空いてないから」という言い訳つきで最高のポジショニングができるラッキーさを胸に一番前まで進む。
ひええ、あの翻訳者の金原瑞人さんが生きて目の前でしゃべっている…!
それはそれとして、前回の反省を生かしたうすいクッションをそっと椅子と尻の間に滑り込ませる。
お話はとても面白く、会場には装丁のデザイナーの方と表紙を飾るイラストの画家の方もいらしていて、金原さんの質問に答えて絵の制作方法などをお聞きすることができた。
あと金原さんからなぜか西遊記の玄奘三蔵の生い立ちエピソードなどをお聞きした、お話しが上手だなぁ。
パーティには、ゴーストシリーズが北欧風の舞台であることを意識したスモーブロー(オープンサンド)やあさりごはんが用意され、色合いも華やかでとても美味しく嬉しい。
そして金原さんに、服部真理子さんの選書フェアで『ゴーストドラム』を知ったことをお伝えしたり、イラストの方に表紙絵がゴーストシリーズにマッチしていて嬉しいことをお伝えできたり、装丁の方に最高にかっこいいボックスの制作うっかり秘話を聞いたりしてものすごく楽しかった。
あと、当たり前なんだけど、その場にはクラファンしてまで続編を読みたかった人たちがいて、名乗りもせずに本との出会いや感想をわいわい話すのがとてもいい、楽しかった。

そんな読者たちのうち、帰りのタイミングのあった三人でJRの駅をめざす。一人とは、山手線の反対回りだったのでそこで別れた。名前も名乗らずアカウントも知らず、「それではまた…また?」と笑いながら手を振った。途中まで同じ電車だった方は、卒論にアゴタ・クリストフを選んだとのことで悪童日記の話で盛り上がり、もちろんゴーストシリーズの話で盛り上がり、最後にためらいながら「あの、SNSのアカウントお持ちでしたら」と切り出したところで、彼女の降りる駅が来て、「お気をつけて!」と声をかけて別れた。
お気をつけて。
また、どこかで。

なにしろインターネットや通話の出来る電話が手元にないので、たとえばよんださんに何かあって病院に搬送されておりささださんは何度もわたしに電話を掛けているかもしれない、とどんどん悪い想像が沸き起こりながら駅から家までを急ぐ。家にはいつものとおり明かりがついて、ぱんださんは平日なのに特別に許されたテレビをこころゆくまで観ており、ちょっと空腹で待たされたよんださんはちょうど機嫌が悪くなっていたところだった。
すばやく授乳した。

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やきとりい
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