01.タンサンセンベイ

ひたひた。温泉に浸かる。
ひりつくような熱さではなく、体温に馴染むぬるめの湯。無味無臭の上に無色だけれど、オンセンと謳うのぼりにつられ、暖簾をくぐって温泉成分表の細かい字を目でさらりと撫でればもう気分はすっかりリラックス温泉モード。

私は一体何をしていたのだろう、
湯けむりの登る先を見上げればシャープな輪郭の星々。サウナまで堪能して1時間。
丁寧に髪を乾かし、湯冷め防止にスヌードで鼻先まで覆ってふわふわと歩く。低くのぞく月がぼうっと輝いて、木々の枝の形が浮かび上がる明るい静かな夜。

私は一体何をしていたのだろう。
重たいハンドルを切って、山道を進む。月と星とヘッドライト。光源が少なくて闇は濃い。だけれどとても穏やかな気持ちになる。温泉の熱が包む身体には、エアコンのきかない車内のキンと冷えた空気も触れられないようだ。

この1ヶ月のことを、まだ消化できていない。
新しい暮らしが始まり、新しいことを覚える日々が始まった。
サボりにサボっていたストレッチも今朝から再開したが、早くも筋肉痛である。

幸福について、考え続けている。
富について、考え続けている。
どんどんわからなくなるんだ。
私は一体何をしていたのだろう。
そしてこれから、何をして死ぬのだろうか。

ここへ来る前に久々の銀座でもらった宝塚タンサンセンベイを一口。さくり。
空気を含んだような食感で、私のウェットな心もふわりと軽くなった。


いいなと思ったら応援しよう!