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Babylon Healthとデジタルヘルスケア〜 Ⅲ. 急激な事業成長を遂げる米国市場での展開(VBC)

iCAREの山田です。前回は、Babylon Healthの「Ⅱ. アフリカを中心に発展途上国へ事業を展開【前回】についてはじまりを話ししました。医療体制が整っていない発展途上国において、医療システムの1つにテクノロジーを活用して効率よくリソースを活用して、医療の質を高めることを短期的に実現する話をしました。

今回は
Ⅲ. 急激な事業成長を遂げる米国市場での展開(VBC)

について話をしていきます。

残り1つとなりました。こちらもお待ち下さい。
Ⅳ. AI問診技術の現状とBabylon Healthの今

今回参考にした資料はこちらです。


1.米国の巨大市場へ参入

英国NHSでの基盤やルワンダでの医療サービスの提供からいよいよ最も有利なグローバル・ヘルスケア市場である米国に照準を合わせました。Babylon Healthは、米国全土に遠隔医療ネットワークを構築した保険会社センティーンとのパートナーシップを通じて、2020年に米国に進出します。

2020年からの3年だけでも著しい事業成長をValue-Based Careで遂げていることがわかります。

米国市場とVBC領域の成長が著しい

米国における展開は、これまでのBabylon Healthが考えて実施してきたビジネスモデルの集大成と言えます。

その後の展開については以下のとおりです

  • 18,000人の患者を対象として、ミズーリ州のMedicaid患者にサービスを提供するためのCenteneとの契約で米国に進出しました。

  • カリフォルニア州で2つの独立した医師団体(一次ケアの診療所グループ)、FirstChoice Medical GroupとMeritage Medical Networkを5700万ドルで買収しました。これらの診療所は、Medicare Advantage、Medicaid、その他会員69,000人を持っています。

  • ニューヨークで60の郡にわたって15,000人のMedicaidの契約を締結しました。

  • 2022年の初めにジョージア州とミシシッピ州でMedicaid63,000人、カリフォルニア州でMedicare17,000人を開始しました。


Babylon Health の方向性

その地域ごとのパートナーとともにグローバル展開を急激に拡大させていくBabylon Healthの事業戦略は、米国の市場でVBCというこれまでよりも売上への貢献が高い領域で一気に成長していきます。

Babylon Health の根底にある考え方として、通院した時点で患者接点が発生し、その時点ではすでに高コストな状態にまでなっている。それをテクノロジーを活用して、教育やヘルスチェック、デジタルトリアージからはじめ、細かく接点をITでもつことで、全体のコストが削減できるはずだという信念に基づいてサービス設計がされています。

患者ジャーニーにおけるコスト削減図

その考え方に相性が良いのが米国で広まっていたVBCだったのです。


2.VBCの強いニーズ

Value-Based Care; VBCとは一体何なのでしょうか。
VBCは、マイケル・ポーターが2006年に Redefining Health Careの本で紹介された概念です。

The way to transform health care is to realign competition with value for patients. Value in health care is the health outcome per dollar of cost expended. If all system participants have to compete on value, value will improve dramatically.

医療を変革する方法は、患者にとっての価値を競争を再調整することです。医療における価値とは、費やされたコスト1ドルあたりの健康成果です。すべての医療システム参加者が価値で競争すれば、価値は劇的に向上するでしょう。

Michael E. Porter and Elizabeth O. Teisberg, Redefining Health Care: Creating Value-Based Competition on Results. Boston, Mass: Harvard Business School Press. 2006.


様々な医療費支払い方式

例えば、日本の医療保険制度での医療費支払い方式は、入院医療を除いては提供した診療行為の点数の積み上げにより医療費が算定されています。これを出来高払い(Fee for Service; FFS)と言います。

FFSの特徴としては、個人の予防に対するインセンティブが医療者に弱く、医療提供側の効率化も小さくなります。また医療訴訟回避のために「念のための医療提供」が増大し、これらが組み合わさって医療費増大をもたらします。

その他の医療費支払いの考え方

  • 包括払い(DPC)
    1日あたりの包括支払い方式

  • DRG / PPS(Diagnosis Related Group / Prospective Payment System)
    1入院あたりのの包括支払い方式

  • Personal Health Account
    個々人が医療講座をもって個人が医療支出の用途を決める(シンガポール)

  • Pay for Performance(P4P)
    一定の治療効果が見込まれる診療行為全体に対して、効果や質に応じた医療費を支払うという考え方

  • Capitation
    医療提供する対象集団の人口や年齢構成に応じて予め医療費を設定し、予算内で医療を完結させる考え方(米国HMO、英国NHSのGP報酬など)

医療費支払い方式の良し悪し

VBCは、この中ではP4Pに近い形ではあるもののP4Pが成果に対する報酬を重視しているのに対して、VBCはコスト効率と健康成果を重視している考え方と捉えても良いかもしれません(←間違いあればご指摘ください汗)


VBCとは何か

全体を通して、コストとリスク、満足度などの価値ドリブンで設計

VBCは、下記の計算式が基本的なものになります。

価値 = 質 / コスト

価値というものは、1コストあたりの質(クオリティ)である。そのクオリティは、医療へのアクセスと臨床的クオリティの足し算であるということです。VBCに関して3つほど具体例がありましたので、NRIの記事から抜粋して貼り付けておきます。PREVENTの荻原さんのこちらの記事もわかりやすいです。

VBCの具体例


3.Babylon HealthとVBCの相性

VBCは高単価サービス

Babylon Health は大きく3つの売上モデルを持っており、事業展開地域や提携で変えています。

3つの売上モデル

その中でもVBCへの期待はBabylon HealthがIRで発表からインパクトのある数値を見てください。" Illustrative Revenue per Life Covered " (1イベント合計あたりの売上例と訳すのでしょうか)ソフトウェアライセンスが数ドルに対して、英国NHSではその10倍の数十ドル、米国VBCはその百倍の数千ドルの売上効率となります。

上から米国VBC、英国NHS、ライセンスの特徴

Babylon Health の最大の強みは、AI技術によって体調が良い段階から接点をもつことで、教育、ヘルスチェック、デジタルトリアージ、遠隔医療相談、医療評価、デジタルケア計画、さらにリアルな診療後にもケアモニターをすることで、全体のコストが下がるというものです。

VBCが包括の考え方がベースにあるため、成果を効率良く出せば出すほど利益が残る、さらに医療費に対する財政的責任を負っていることから売上も収益性もこのVBCのもとでは親和性が高いものだと言えます。


4.VBCの競合と市場

VBCをデジタルの力でスケールして価値を出すことはBabylon Healthだけではありません。Teladoc, One Medical, Oak Street Health, AmwellなどもこのVBC市場にいます。

各競合との成長率・単価の違い

VBCに基づくモデルを取り扱う契約は成長しており、2021年から2025年の間に、VBCに基づく契約は被保険生命の約15%から22%に成長し、アメリカの約6500万人をカバーすることが予測されています。


5.米国でのBabylon Health

競合のOak Street Healthは25%の粗利益で運営しているのに対して、BabylonHealth は、テックビジネスが90%粗利益、バーチャルケアはFFS25%、VBCは30%の粗利益で運営すると見積もっています。テクノロジーによるバーチャルケアがPatient Journeyの早い段階から接点をもち、きめ細かく誘導することで、全体のコストを低く出来ると主張しています。

これだけのテックドリブンで効率が良く、売上も桁違いの成長をしているにも関わらず株価は低迷します。

上場後はひたすら株価が下がり続ける状況

投資家は、Babylon Health がコストを抑制し、リスクを管理する能力があるのか疑問に思っており、果たして本当にバーチャルケアを活用したものは、お金を節約することが出来るのかが大きな論点のようです。

Babylon Health含めてOne Medical、Teladocが追求し始めているこのモデルは、理想の姿と言えます。Medicare / Medicaidの複雑な患者層への収益アクセスをテクノロジーの高い利益率と拡張性(迅速にスケールすること)で得ることは、投資家を確実に魅了します。一方で、バーチャルのみでリアル店舗を持たないこのモデルが果たしてモデルとして機能するのかはわかりません。


6.まとめと感想

この大きな挑戦は医療者であれば誰もが理想として「あったら良いよな、出来ると患者にとってもシステムにおいても効率的で効果的だろう」と思っていたことをこのBabylon Healthは実現させたと言って良いでしょう。そして、この急激な成長率は、びっくりするような展開であり、2023年の財務諸表を見てもまだ赤字で成長を優先させている状況です。

長年、箱(対面含めたものリアルな場)を中心とした医療システムで構築されてきた価値観に対して、患者ひとりにかかる総コストがテクノロジーで接点を増やすことで下がるのだ、下がりそうだという挑戦にはわくわくしかありません。しかし、前回の英国NHSでの挑戦であったように、デジタルヘススケアの恩恵を享受するのは、まだまだ若年層であり、健康に関する介入がより積極的に必要なのは高齢層となります。このギャップを乗り越えて、かつコスト節約を証明することが出来るのであれば、このモデルがグローバルスタンダードになっていくのかもしれません。


【計4話】Babylon Healthとデジタルヘルスケア〜
Ⅰ. イギリスNHSとともに事業のゼロイチを作り、基盤を構築
Ⅱ. アフリカを中心に発展途上国へ事業を展開
Ⅲ. 急激な事業成長を遂げる米国市場での展開(VBC)
Ⅳ. AI問診技術の現状とBabylon Healthの今



参考文献


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