産業医が過剰になる世界
iCAREの山田です。
第96回日本産業衛生学会「シンポジウム12:産業医の需要共有実態と偏りについて(座長:宮本俊明)」と題して、
産業医科大学から一瀬先生が「産業医需要供給実態調査から見えてきた諸課題」、日本医師会から神村先生が「認定産業医制度の現状と活動支援に向けた取組み」、堀江先生が「産業医に求められる技能と倫理」、守田先生が「地方製造業における産業医採用の苦労と工夫」、福島県立医科大学から各務先生が「地方における産業医需給ミスマッチの現状と課題」について話をされています。
一瀬先生の主張に関しては、こちらの資料が参考になります。
最後のまとめのところだけ紹介しておきます
ロジカルには「現時点での産業医不足」に関するところは納得感があるものです。ところが未来に向けたところでいうとやはり不明なのでしょうか。
産業医は足りていないのか、今後足りているのかという問いかけです。
過去の企業数と事業所数の調査
1日半かけて内閣官房・内閣府総合サイトや厚生労働省、中小企業庁、e-Statを調べて結局わかったことは以下の通りです。
企業規模別企業数(1999-2016年)
※ 企業数=会社数+個人事業所
小規模企業は423万社が304万社へ120万社減少し、中規模企業で言えば61万社が53万社へ、大企業は1.4万社が1.1万社へ減少しています。
企業規模別企業数の増減率推移(1999-2016年)
大企業と小規模企業は、約20-25%近く1999年と比較して減少したものの中規模企業は約10-15%程度となります。
業種別中小企業数の増減率推移(1999-2016年)
中小企業だけで言えば、電気ガス熱供給水道業、運輸業、郵便業、情報通信業の企業数は増加したものの、その他の業種は20-40%近く減少しました。
規模別会社数の推移(2001-2016年)
会社数としては、小企業は横ばい、中企業、大企業では減少していることがわかります。
事業所別事業所数の推移(2001-2016年)
事業所数で見ると、2001年から2006年にかけて小事業所が減少し、合計の事業所数も減少しています。さらに2021年までを見ても474万事業所と20年前620万事業所から大きく減少していることがわかります。
しかし、令和3年経済センサス-活動調査のp32を見ると事業所この5年(2016-2021年)を比較するとこれまでの減少傾向とはやや異なることが公表されています。
合計事業所数は、531万から512万事業所へ減少していますが、そのインパクトは50名未満の事業所となります。50名以上の事業所数はこの5年増加していると言えます。
未来に向けた将来推計の調査
将来推計として多く公表されているのが、労働力人口数や就業者数の推移となります。
2040年労働力人口や就業者数推移(ゼロベース)
2017年を実績値6,530万人として2040年の就業者数は、5,245万人へと減少する見通しです。
※厚生労働省の2040年頃の社会保障を取り巻く環境の資料p16, 18も同じようなことが記載されています
2040年企業数の将来推計(内閣府資料)
この推計によれば、2015年末403万社から2040年末296万社へ減少するという衝撃的な内容となっています。25%減少するインパクトです。ぼやけて見えづらいですが、創業後の廃業、経営者の高齢化に伴う廃業が大きなインパクトがあると推測されています。
今回の調査結果及び考察
まとめますと
2040年までに就業者数も企業数も大幅に減ることが予想される
この5年間事業所数全体は減少するが、50名以上での事業所数は増加傾向にあることから今後も増える可能性は否定できない
ここから個人的な見解となります。
グローバルにいって国内のみを考えた規模拡大に伴うスケールメリットは、以前に比べて圧倒的になくなってきていると言えます。大量生産、大量消費の時代から小規模多品種の時代となり、労働者の価値観も大きく変わった結果、個々人の価値観が尊重されにくい超大企業の存続は極めて困難だと言えます。分社して小さく組織としてまとまりながら、それぞれのカルチャーが異なりつつ従業員体験をどう高めながら労使間の関係をより良い形にするのか模索していくでしょう。
産業医や産業保健看護職の立場からすれば、年代も性別も雇用形態も国籍も宗教も働き方も少人数多属性化する中で、働くひとの健康をつくっていく難しさに突入していくでしょう。これまでの一律な取り組みからの脱却が早期に必要となっていく気配です。組織のダウンサイジングがあれば、当然専属産業医数も減少するでしょう。
そのような未来の推測の中で、これまでの産業医業務のみをフォーカスした「産業医ニーズは増えるのか」という問いかけが必ず湧き上がっていきます。私の見解は、「NO」だと思っています。その理由は、
産業医の多くの業務は、究極的に縮小させることが可能
企業に対して低関与になれることが加速
産業保健看護職やその他の職種による代替業務が増大
多様化する労働者の価値観、多様化する企業ニーズに対して法改正が行われ、企業の自立性の部分が拡大
など産業医自身が、これまでの当たり前で良いと踏みとどまっているのであれば、それは退化だということです。産業医自身はより先駆的に先回りした高度な専門家だからこそ高い報酬が支払われているのだということを忘れてはいけません。安かろう悪かろうの産業医は淘汰され、高い価値を提供し続ける産業医は、当然のように生き残ってこれまで担当企業が20社が限界だったものが50社見れるようになることで全体的な底上げにも繋がっていくはずです。
今後、産業医は過剰になるのでしょうか。
当然ながら法改正や産業医への役割などで大きく需給バランスは変わると思いますが、YESでありNOなのでしょう。高年齢の産業医、女性の産業医など臨床出身の先生方が、多く産業医を希望している中で、これまでの法令遵守型産業医ということであれば不要であり、産業医は過剰と言えるでしょう。
しかし、企業からの信頼を得て、組織の健康課題に対して、仕組みをつくり、研修を実施し、健康経営のコンサルティングを行っていく、従業員体験向上をアタマに産業医業務をやっていく先生方はこれまで以上に活躍するでしょう。
参考文献
中小企業白書(2021年版)「第3章 中小企業・小規模事業者の新陳代謝」
※ 2022年版・2023年版には企業規模別推移が掲載されていない全国及び地域別の企業数の将来推計(内閣府)
2040年頃の社会保障を取り巻く環境(平成30年、厚生労働省)p16, 18
経済社会と働き方の変化等について(厚生労働省)
2050年までの経済社会の 構造変化と政策課題について(METI, 平成30年)
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