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人事(HRM)は、組織の生産性や業績にどう影響するのだろうか


そもそも人事の施策って組織の生産性や業績に本当に影響しているのでしょうか。そのロジックはどういうものなのでしょうか、という観点から疑ってみて、私が関わっている健康戦略・施策の領域を俯瞰してみたいなと思ったので調べてみました。2つのまとめ研究があったので紹介します。

1つ目は、2010 年のまとめ研究ですが、人的資源管理(HRM)が存在することで組織は生産性を上げるのかという議論が定期的に起こり、人事部門を縮小したり、拡大したりを歴史的に繰り返しています。その中で、HRMは組織の生産性を本当にあげているのかという問いかけに答えるべくNicholas BloomとJohn Van Reenenがまとめています。

HUMAN RESOURCE MANAGEMENT AND PRODUCTIVITY

Nicholas Bloomは、産業保健分野でもお馴染みのあの方です。2014年コロナ前から「在宅勤務の生産性」に関して、Ctripという中国のカスタマーセンターで行われた研究を通して生産性がある条件下において上がることをランダム化研究で示したスタンフォード大学の経済学者です。

ちなみに、John Van ReenenはNicholas Bloomの元先生という立場でイノベーションやマネジメントによる生産性、労働経済性について専門にしているロンドン大学の経済学者です。


もうひとつは、早稲田大学大学院の竹内教授のものです。HRMと企業業績の間にはどんなプロセスがあるのかを図式化されているところがわかりやすかったのでこちらも合わせて読んでみましょう。

戦略的人的資源管理研究における 従業員モチベーション


HRMは組織の生産性を上げることが出来るのか

非常に読みにくい英語のまとめだったのですが、欲しい情報だけ結論から申しますと、HRMは組織の生産性を上げているようです。各項目ごとにどんなものかも簡単に書いて見ました。

  • 個人・インセンティブ報酬:生産性上げる
    Lazear(2000):生産性44%向上
    Bandiera, Barankay and Rasul(2007):平均生産性21%向上
    Shearer(2004):生産性22%向上

  • チーム・インセンティブ報酬:個人よりも低いが、生産性上げる
    Bryson and Freeman(2009):従業員あたり3.3%高付加価値
    Jones and Kato(1995):3-4年後において4-5%生産性が高い
    Boning, Ichinowski and Shaw(2007):6%生産性高い
    Hamilton, Nickerson and Owan(2003):生産性18%上がる

ただし、これらの生産性向上の研究の難しさは、測定期間の誤りの可能性もあります。つまり、初年度は効果があるものの形骸化するケースや評価月に近づいた場合のみに生産性が上がるものもあるようです。

またBandiera, Barankay and Rasul(2005)によれば、相対的業績評価から絶対的業績評価(出来高払い)に変更した結果、生産性は50%増加した(相対的業績制度では、努力を増やした労働者は、他の労働者に負の外部性を与えるが、絶対業績評価ではそれがない)実験からも労働者には社会的選好(自分だけではなく他者や集団の見返りも気にする)も存在するようです。

  • 労働組合:生産性向上に効果がないかもしれない
    DiNardo and Lee (2004):生産性、賃金、その他の結果に効果がない

  • チームワーク:生産性上げる
    Gant, Ichinowski and Shaw (2002):多数のプラクティスを導入すると大幅に生産性が向上

これは、労働者間の水平的な相互作用やネットワークが緊密化するため、問題解決が迅速になることに起因するようです。

HRM施策は、後述する高業績HRMシステム(施策)13個あります。全部当たり前だよって思ってしまうものばかりですが、この中でも「生産性を上げる」HRM施策として科学的に証明されていそうなものは、インセンティブ報酬とチームワーク向上のようです。


HRMでどんな媒介メカニズムがあるのか

さて、HRM施策によって生産性が上がることはわかったのですが、具体的にどんなメカニズムで効果が発揮されるのでしょうか。

企業のHRM施策が組織内の従業員モチベーションへの影響を介して個人、集団、組織のパフォーマンスを向上させている行動アプローチの研究としては、このような理論・研究があるようです。

  • SHRM(社会的交換, Social Exchangeを応用したStrategic HRM)研究

SHRM(戦略的人的資源管理)は、「組織が目標を達成するために意図して実行する計画的な人材の配置や諸活動のパターン」と定義し、研究検討がされてきました。結果的に、高業績HRMシステム(HPWS, High-Performance Work Systems)が見出され、13の主要な個別施策(Lepak, 2006)が存在しているようです。

① 職務分析・職務デザイン
② 採用
③ 選抜
④ 教育・能力開発
⑤ グループインセンティブ
⑥ 報酬制度
⑦ 従業員参加・権限委譲
⑧ チームの活用
⑨ 業績評価
⑩ 職務の安定(雇用保障)
⑪ 従業員の発言機会・苦情処理
⑫ 内部昇進・キャリア開発
⑬ 情報共有化とコミュニケーション

これらの高業績HRMシステム(HPWS)は、HRM施策による従業員心理のコミットメントや経営プロセスへの参加を通して、組織の持続的な目標達成、競争優位性の構築が可能となっています。

そのうえで、これらを説明するメカニズムとしては2つの理論があります。

1つ目は、AMO(Ability, Motivation and Opportunity)理論です。

組織メンバの能力Ability、モチベーションMotivation、機会Opportunity

能力、モチベーション、機会を維持・向上させる仕組みが機能すれば、組織の持続的競争優位を確立することが出来るというモデルです。この3つに構成されるHPWSが、組織内の従業員モチベーションや人的資本(従業員の教育、スキル、知識水準)、企業の成果指標に影響を与えるメカニズムのようです。

2つ目はPIRKモデルです。権限(Power)の移譲、情報(Information)の共有化、公平な報酬(Reward)、従業員に帰属する知識(Knowledge)の要素が含まれることで、競争力の高いHRM施策で従業員参加を高める(情動的組織コミットメント)ことが可能になっているようです。これらの4要素を含むHRM施策は、手続き的公正知覚(Procedural Justice Perception)及び情動的組織コミットメント(Organizational Citizenship Behavior)を高めているようです。

高業績HRM施策システムからの媒介変数がキモのような気がします


HRMの健康施策はどう考えたらよいのか

HPWS(人事施策)が、どんなメカニズムで組織の生産性やモチベーションを上げて、組織の目標達成をしているのか見てきました。そこで最後のこの問いかけです。「HRMにある健康施策」が必要なのはなぜなのかを考察して終わりたいと思います。

当社が提唱している健康とは、①安全と衛生、②健康増進、③働きやすさ、④働きがい、⑤生きがいの5領域です。これら5つ全てがHRMにとって意味のある健康施策だと考えています。


Carelyファイブリングス

企業は、人事戦略(人事施策)の中で、従業員と会社との関係をより良いものへ変えていくために、5つの健康領域に対して積極的に関わっていく必要があります。結果的に5つの健康領域は、従業員ひとりひとりが「この会社で働いて良かった」と思える従業員体験向上へ繋がり、持続的な事業成長が出来るというものです。

今回の2つのまとめ論文と合わせるとこういう風に考えることが出来るかも知れません。高業績HRM施策における健康施策は、動機づけの内発的動機づけ(働きがい)だけでなく、衛生要因の社会的交換関係を良い方向へもっていきます。社会的交換関係とは、「相手が自分を思いやってくれればこちらも相手を気にかける関係」というものが、企業と従業員の間で形成されることを良います。

つまり、当社が提唱するCarelyファイブリングスは、下図において「高業績HRM施策/システム→媒介変数」の間に、従業員体験向上は「媒介/結果変数(態度的要因)」に位置づけられていると言えるでしょう。

ハーズバーグの理論に類似:公平理論と社会的交換理論部分が衛生要因と同じ


まとめ

今回、HRMはそもそも存在する必要があるのか、存在するとすれば組織の生産性を上げているのか、どのようなメカニズムでそうなるのか、モチベーションを上げている理論は何か、健康施策も同様にどのように考えることが妥当かという観点から考えてみました。

理論に無理やり当社の提唱するCarelyファイブリングスの考え方を入れ込んでいるところはあるかも知れませんが、従業員と企業との関係性が大きく変わった現代において、「関係再構築する」というポイントに着目していくことは極めて重要なのだと確信しています。


働くひとの健康を世界中に創るというパーパスを掲げて10年以上、この領域で挑戦をし続けてきました。この大きな社会的課題の本質を理解し、それを実践していく仲間が必要です。下記、見てください。


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