陸の終わる岬へ〜真夏のスペイン周遊紀行〜

陸の終わる岬へ
〜真夏のスペイン周遊紀行〜
2021.08.11〜09.07

　2021年夏、コロナ禍に海外旅行に飛び出した僕と彼女のドタバタ紀行。キリストとイスラムとユダヤが混じり合うイベリア半島で、カメラを片手に駆け回ってきました。これからスペインに行こうと思っている方、迷っている方、読んで行った気になりたい方々、どうぞ。随所に観光に役立つ情報もねじ込んであります。

エピソード一覧

第1章　場所場所にて道連れと徒然

バルセロナの踏み違い
乳首の残像

グラナダの悲劇
牛を殺したいだなんて
弾けた足音の残響

首都脱出作戦
アイスが溶ける前に
尻の穴についての考察
地の果てにて（その１）
地の果てにて（その２）
アディオス！サンティアゴの肩爆弾よ

美食の地、バスク地方での喜びについて
アルタミラにて小躍りバイソン
サン・セバスティアンは水が綺麗

すっかりチョコ舌
足を伸ばして
パワーの問題
お釣りはいくら？
トリップ in theトリップ
お別れを告げて

第二章　いただきますぺいん

満腹への羨望
コーヒーの香り
オリーブを使って
ワインの酔いどれ
異端の豆と豚

付録　脱獄準備

旅行コース
おすすめお土産集
食べてほしいものもの
かかったお値段と時間
持っていったもの

はじめに

　「夏休みにスペインに行くんだ」
と告げると、大抵の人は「馬鹿なんじゃないか」という眼差しをくれる。狂った天気のせいで車内温度が39℃を超える前橋でも、僕は正気だった。
「なぜスペインに？」
もっともな疑問である。なぜスペインか？答えは単純。スペインしか開いていないからだ。2021年初夏、新型コロナウイルス感染拡大の中海外旅行なんて夢にも考えないような状況下で、ただ一つだけ大きく門を開いていた国があった。情熱の国と名高い、イベリア半島のあの国だ。ワクチン接種も陰性証明も不要。到着後の隔離もなし。馬鹿なんじゃないか？と僕は思ったがスペインは正気だった。国が開いている理由はあまり深く考えないことにして、スペイン旅行に決めた。

　ところで、僕は暑いのが嫌いだ。とても。毎朝毎朝温度の上がり過ぎたオーブンのような車に乗り込む度に苛立ち、太陽の照りつける屋外に出ては文句を垂れ、エアコンの中でようやく水を得た魚のように元気になった。そんな僕があろうことか日本よりも暑い国に行くことになろうとは！神様がいるならいたずらが過ぎる。なんの因果か知らないが、導かれるようにスペインに飛び立った。

　スペインと聞いて、あなたはどんなことを思い浮かべるだろうか？闘牛、フラメンコ、パエリア。もう少し詳しい人であれば、レコンキスタ、スペイン内戦、ピンチョスなんかも頭に浮かぶだろうか？浮かばなくても全然大丈夫。知っていることを一つ一つ確認しにいくだけの旅なんて、あまりにも味気ない。そこに予想外の出会いや驚き、発見があるから旅は輝くのものだ。ただし、「何も知らずに行く旅の方が楽しい」というご意見には疑問を呈したい。本当にそうだろうか？スペインの歴史も、気候も文化も知らずに行く旅の方が、2万字以上の事前学習レポートを書いた僕の旅よりも充実したものになると、果たして言えるだろうか？

　僕の答えはNO。どんなに勉強したって知らないことは山ほどあるし、「全て事前に知ってしまったらつまらない」だなんて、そんな杞憂はどれほどの驕りだろう？知識は世界をつまらなくするものでは決してない。頭の中でダンスをする僕の仲良くなった知識達は、使われる機会を今か今かと待っている。そして体験と同時に知識が飛び出してきたときに彼らが纏う光の輝きといったら、どんなものにも形容し難い喜びの様なのだ。眼前の景色と脳内の知識が出会うときの弾ける幸せは、何にも変え難い、僕自身の幸せでもある。浅学な学生身分の僕ではあるが、僕なりに興味がある部分を調べた情報とともまとめた紀行記だ。もし、誤った情報やミスリードを誘う表現など、気になることがあればぜひ皆様の忌憚のない意見をお寄せいただきたい。メールアドレスはyotaro12king@gmail.com。

　今回の旅行は一人旅ではない。僕のワクチン副反応の看病から、チケットの手配など面倒なことをあれこれ引き受けて、気まぐれな僕を支えてくれた彼女と一緒だ。僕とは流れる時間が天と地ほど違う。彼女との時間の違いのせいで、僕はKindleで漫画「ぼのぼの」全46巻を購入する羽目になった。価値観も視点も、身に纏う言葉も何もかも違う。同棲するカップルには事務連絡が多いから、僕のテキトーとこだわりが混在する判断に惑わされたことであろう。しかし僕も日経平均株価より揺れ動く彼女の機嫌に悩まされることもあるから、勝手だけれどお互い様ということにしておいてもらいたい。誰かと付き合うことは、すなわち自分と向き合うこと。それを嫌というほど実感させられる毎日の中で、彼女を通して変わる自分にさえ驚かされることもある。同じ名前の川であっても、一瞬たりとも同じ水は流れていない。川に一度手を入れれば、肌に触れる水は毎秒違う水滴なことに驚きもしない僕なのに、どうして自分が不変だなんて信じられるのだろう？日々変わりゆく僕らが、変えることのできない歴史を運ぶスペインの地で繰り広げるドタバタな旅路を楽しんでいただけたら幸いだ。

（のぞき込む同行者）

第1章　場所場所にて道連れと徒然