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【小説】月光の約束 第四話〜月に導かれる者〜

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第四話 月に導かれる者

星詠み堂のカウンター奥では、店主の柳川は一冊の古びた天文書を開いていた。蝋燭の揺れる炎が、彼の横顔を淡く照らしている。時折窓を叩く風音に耳を傾けながら、柳川は遥の姿を思い浮かべていた。

「あの本を手に取るとは……やはり運命か。」
柳川は小さく呟き、指先で髭を撫でた。

遥が店を訪れた日、彼は彼女の背中に何か見えない光のようなものを感じていた。それは月の加護を受けた者特有の気配。柳川の一族に代々伝わる知識が、彼女を特別だと告げていた。

「月の加護を受ける者は、時代を問わず現れる。だが、その力を自覚し、使命を果たせる者はほんの一握りだ。」

柳川は天文書のページをめくりながら、遥が店を訪れた日のことを思い返していた。

あの日、棚の間を歩きながら、遥の目が特定の本に吸い寄せられる様子を柳川は見逃していなかった。彼女の手に渡った革表紙の本。それは、月の信奉者が遺した「導きの書」と呼ばれるものだった。

「遥さんは、まだ気づいていないだろうな。この世界の中で自分がどういう存在なのかを。」

柳川はふと顔を上げ、店の天窓から夜空を見上げた。窓越しに見える月は、まだ満ちていない。だが、その光は柔らかくも力強く、確かな存在感を放っていた。

「次の満月が来れば、彼女も気づくだろう。」

遥が手にした本の中には、ルナハウスへと導くための符号が散りばめられている。あの本は単なる記録ではなく、月の力が直接封じ込められた「鍵」なのだ。それを手にした者がルナハウスに足を踏み入れたとき、真実が目の前に現れる。

「ソラ……」

柳川は目を閉じ、心の中で呟いた。




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テル@星詠み
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