【小説】月光の約束
第一話 満月の夜に
夜空には、蒼白い月が煌々と輝いていた。
澄み切った空気の中、月の光は地上に降り注ぎ、世界を銀色に染める。
占星術師の遥は、いつものようにホロスコープに向き合い、星々の動きを眺めていた。
今夜は満月。
遥は、満月には特別な力があると信じていた。それは、古代の人々が月を崇拝し、その光に神秘的な力を求めたように、遥の心にも深く根ざしていた。
「ふぅ……」
遥は深呼吸をし、窓の外に目を向けた。月明かりに照らされた庭には、白いユリの花が静かに咲いていた。その花を見ているうちに、遥の意識はいつの間にか別の場所へと誘われていく。
そこは、見覚えのない場所だった。古びた洋館の書斎。月明かりが差し込む窓際で、一人の男性が本を読んでいた。彼は、どこか懐かしいような、でもどこか遠い存在のように感じられた。
「遥……」
男は、本から顔を上げ、優しく微笑んだ。その声は、遥の心を震わせた。
「誰……?」
遥は思わず声に出して問いかけた。
「僕は、君をずっと探していた。満月の夜にだけ、君に会えるんだ。」
男はそう言うと、再び本に戻った。
「夢……?」
遥は目を覚まし、自分の部屋を見渡した。心臓がドキドキと音を立てている。先ほどの出来事は、あまりにも現実的だった。
遥は、再び窓の外に目を向けると、月は相変わらず輝いていた。
「夢……だよな」
自分に言い聞かせるようにつぶやきながら、見た夢の鮮明さに驚く。
彼の声がまだ耳の奥に残ってる気がして、目を閉じると再びあの言葉が蘇った。
「僕は、君をずっと探していた。満月の夜にだけ、君に会えるんだ。」
遙は思わず満月を見上げた。
満月が青白い光を放ちながら静かに浮かんでいる。
あの夢が単なる幻想だったのなら、なぜこんなにも現実感があるのか。
どうして彼の声が、姿が、こんなにもはっきりと覚えているのだろう。
その答えを求めるように、遙はじっと満月を見つめ続けた。