【小説】月光の約束 第八話〜目覚め〜
第八話 目覚め
ソラの導きにより、遥は奥の部屋に足を踏み入れた。そこに広がっていたのは、星々が輝く壮大な空間だった。まるで、夜空がそのまま部屋になったかのようだ。
部屋の中央に台座があり、宝箱のような箱が置かれていた。
「ここが、月の力を目覚めさせる場所です」
ソラの声が、静かな空間に響く。遥は、目の前に広がる光景に息を呑んだ。
「月の力……?」
まだ、全てを理解できていない遥に、ソラは優しく語りかける。
「遥さんは、月の民の末裔。月の力を受け継ぐ者です。その力は、人々の心を癒し、未来を導くことができるのです」
ソラの言葉に、遥は戸惑いを隠せない。自分に、そんな力があるのだろうか。
「私に、そんなことができるのでしょうか……」
不安を露わにする遥に、ソラは静かにうなずいた。
「大丈夫です。あなたは、エマなのだから。月の力が、あなたを導いてくれるでしょう」
「エマ……?」
ソラは、遥の手を取った。
「さぁ、この箱を開けるのです」
ソラは宝箱に遙の手を誘導する。遙は恐る恐る箱を開けると中には月の形のネックレスが納められていた。
「これが、月の力を目覚めさせる鍵です」
遙がネックレスに手をかけたと同時に、遥の意識は遠くへと飛んだ。
「わたし、今のわたし……」
何か呼びかけられる声がする。
気がつくと、遥は月の光に満ちた場所に立っていた。
足元には白い砂浜が広がり、目の前にはどこまでも続く青い海が広がっている。
空には満月が輝き、まるで昼間のように辺りを明るく照らしていた。
「ここは……?」
遥は困惑しながら辺りを見回した。
すると、背後から優しい声が聞こえた。
「わたし」
声のする方を振り返ると、そこに立っていたのは、見覚えのある女性だった。
それは、遥自身の姿だった。
「私はエマ」
遥は驚きを隠せない。
「エマ……?」
目の前にいる私は微笑みながら頷いた。
「あなたは月の巫女エマの生まれ変わりです」
私の姿をした彼女の言葉に、遥は混乱した。
「月の巫女……? 生まれ変わり……? 一体どういうこと?」
エマは、遥にゆっくりと語り始めた。
「私は月の巫女として、この星を守っていました」
200年前、月の巫女として人々を導いていたこと。そして、闇の一族であるリリスの民との戦いの日々のこと。
遥は、エマの話に聞き入った。
「月の一族とリリスの一族との闘いは私たちが優勢でした。しかし劣勢に立たされたリリスの一族は禁断の力に手をつけたのです」
「冥王星の破壊の力に」
「リリスの一族は、冥王星の神であるプルートの力を使い、大きな破壊を起こそうとしました」
「リリスの民がどうやってプルートから力を得たのかは分かりませんが、私たちは月の神であるルナの力を借りて何とか退けたものの、大きな被害を受けました」
「月の力が使える多くの民の命が失われたのです」
「そして破壊の力は完全に失われておらず、時をおいて再び活動を始めることが分かりました」
「破壊を止めないといけません。ソラは自分の身を犠牲にして、私を未来へと転生させたのです」
「私は未来の地球を守るために、エマとして生きていた記憶をこのペンダントに封印し、転生の儀に臨みました」
エマは、遥に優しく語りかけた。
「あなたには月の力を使い、地球を救う使命があります」
遥は、エマの言葉に圧倒された。
自分に、そんな大役が務まるのだろうか。
不安が胸をよぎった。
「大丈夫です。あなたは、私、エマの魂を受け継いでいます。月の力は、あなたと共にあるのです」
エマは、遥の手を取った。
その瞬間、遥の体から温かい光が溢れ出した。