シドニー&メルボルンの旅(5)
今日は6時50分に起きて、身支度をする。地下のダイニングでトーストを食べ、またリンゴジュースを水筒に入れて、7時50分に宿を出る。
待ち合わせの場所に立っていると、8時ちょうどにミシェルの車がやってきて、助手席に乗り込む。
「Good Morning! 久しぶり!」
彼女との出会いは、2010年に遡る。大学4年生の10月、ぼくが2ヶ月間のヨーロッパ自転車旅から戻ると、所属していた研究室にオーストラリアからの留学生が加わっていた。それがミシェルだった。
アデレードの大学からやってきた彼女は、その後約半年間を早稲田大学で過ごした。いつもぼくのことを「Bikeman!」と呼んでいたのが強く印象に残っている。4年前にも、彼女が東京に遊びに来た際に夕食を共にした。
現在はメルボルンで建築関係の仕事をしている彼女が、この土日に観光案内してくれることになった。ありがたい限りだ。
今日はまず、メルボルン市街地から南東に伸びるモーニントン半島へ出かけた。地理的には、都心から房総半島へドライブするのと似ている。最初の目的地である「モーニントン・ペニンシュラ国立公園」までは100km以上離れていて、ここまで来るのに1時間半かかった。半島の南東部だから、同じく房総で例えるなら「鴨川」にあたるだろうか。
オーストラリアはとにかく広いから、オーストラリア人のドライブの距離感覚も日本とは大きく異なっているみたいだ。長時間のドライブに慣れている。
彼女はクリスマスになるとアデレードに住む両親のもとに帰るそうだが、そのシーズンは飛行機がとにかく高く、メルボルン〜アデレード間で1000ドル(約9万4000円)もするらしい。
「たった2時間のフライトで1000ドルよ?」
「それは馬鹿げてるね」
「だから私は8時間かけて車で帰るのよ」
それもすごいなと思うけど、確かに1000ドル浮くなら、ぼくも運転するかもしれないな。
ケープ・シャンクの灯台前で、ミシェルが作ってきてくれたサンドイッチを食べる。ポテトと卵とチリソース、意外な組み合わせだけどおいしい。
その後、ケープ・シャンクの遊歩道を歩き、海岸まで降りていく。この道が絶景だった。とにかく眺めが素晴らしい。海岸からは、そそり立つ大きな奇岩が見えた。
再び車に乗り、今度はモーニントン半島の反対サイドの海辺の町ライでランチ。「David Prosser Seafoods」でフィッシュ&チップスを食べる。2人分のボックスで25ドルとお得だった。出てきた魚のフライがあまりに巨大でビックリした。「前に来たときはここまで大きくなかったわ。ラッキーね!」とミシェルも驚くサイズだった。大量のポテトのほか、イカや海老も入っていた。お腹いっぱいである。タルタルソースはオーストラリアでも「タルタル」で通じた。
すぐ近くにある「Mubble」というお店で、ミシェルおすすめの「パッションフルーツのスムージー」(8.9ドル)を注文。これがまたメチャクチャおいしい。今のところMy most favorite drink in Australia。たっぷり入っていて、これで1000円以下なら安いと感じた。ぼくも物価の感覚が染まってきたかな。
また車を飛ばして、「ムーンリット・サンクチュアリ・ワイルドライフ保護公園」へ。13時からの入場を事前予約していた。入場料は29ドル。入口でカンガルー用の餌を3ドルで購入。
シドニーでタロンガ動物園に行けなかったから、念願の動物たち。まず、入ってすぐに登場するウォンバットに心を掴まれる。ずんぐりした体型が愛くるしい。穴を掘るため、お腹の袋は後ろ向きについているのが特徴。
コアラのエリアでは、起きているコアラを初めて間近に見られた。ユーカリの葉を食べている。かわいい。
さらに進むと、ワラビーやカンガルーたちのエリア。カンガルーは大きくて、ワラビーはその小型版みたいな感じ。せっかくカンガルー用の餌を買ったのに、奥の方でみんな揃って寝ているからあげられない。おそらくもうお腹いっぱい食べた後なのだろう。
だがしかし、ワラビーくんは近くに寄ってきてくれた。そして餌を手に載せて差し出すと、直接食べてくれた。ワラビーに餌やりできたのが嬉しかった。
そのほか、ヘビやフクロウ、レインボーの珍しい鳥、タスマニアデビルなどを見たのち、施設内で小休憩。テーブルで10分の仮眠。
15時になり、再びコアラのエリアへ。実はコアラと間近でふれあえるという「Koala Encounter」のチケットを追加25ドルで購入していたのだ。
ふれあえたのはほんの一瞬だったのでちょっと物足りなさはあったものの、ユーカリの葉をムシャムシャと食べているコアラのすぐ横に立ち、無事記念撮影ができた。
少し背中を触ってみたが、毛並みがふかふかでかわいかった。コアラを抱っこするのは、限られた州の限られた動物園でしか認められていない。このビクトリア州でも抱っこは認められていないものの、追加料金を払えばこうして少し触ることくらいなら許されているようだ。なんにせよ、コアラと写真を撮れて満足した。もうちょっと安かったらありがたいんだけど。1分弱で2400円だからなあ。。
そこからさらに1時間ほどドライブし、16時過ぎにフィリップ島の「ペンギン・パレード」の施設に到着。ここがフィリップ島随一の観光名所である。チケットは最も安い一般席で30ドル。
この辺りに営巣するリトルペンギンたちは、オーストラリアの固有種。体長わずか33cmほどで、世界最小のペンギンらしい。施設にはペンギンの生態に関する展示が少しあり、その後チケットを提示して施設の外に出る。外には野生のワラビーもいた。
しばらく歩いていくと海岸に出て、そこにはもちろんサッカーフィールドもスクリーンもないけれど、スタジアムや映画館のように海と砂浜に向かってたくさんの席が並んでいる。
ぼくらは気合を入れて前の方で見ようと、ペンギンが上がってくる約2時間前から、そこに座って待っていた。気温が低いうえ、海風が猛烈に冷たい。だから今考えれば、もう少し暖かい施設内でゆっくり展示を眺めてから外に出てくれば良かったんだけど、もう来てしまったから仕方ない。ミシェルと雑談したり、スマホで日記を書いたりしながら時間を潰していたが、やがて手も凍えて動かなくなってきたため、ただポケットに手を突っ込み、ダウンを重ね着してフードも被り、修行僧のように無言で時が来るのを待った。
17時50分頃が日の入りの時間で、それからいつもだいたい30分後に、漁を終えたペンギンたちが陸に上がってくるという。施設内には、前日の観察状況が示されていて、それによれば昨日は18時18分にペンギンたちが上がってきて、総勢589匹いたそうだ。
18時前になると、もうスタジアムさながら、大勢の人たちが席についていた。客席は海岸に沿って奥の方まで続き、1000人以上の人たちがいただろうか。満席だった。空はもう薄暗くなっている。18時15分が過ぎ、「そろそろかな」と砂浜を凝視して数分すると、小さなペンギンの群れが、本当に姿を現した。
ペンギンたちは一ヶ所から全員で現れるのではなく、広い砂浜に沿って、数十メートルくらいの横の感覚を開けて、10〜20匹ずつくらいの群れで陸に上がってくる。ぼくの近くからも、グループが陸に上がってきた。が、強い波に何度も押し返され、陸に上がるのは一筋縄ではいかない。興味深かったのは、たとえ数匹はもう完全に陸に上がれていても、仲間がまだ海の中にいてもがいていたら、またみんな揃って海に引き返してしまうのだ。そして全員が陸に上がれるまで、上がって戻ってが繰り返される。ペンギンは群れから離れると命の危険が大きいため、そういう習性をするのだろう。その仲間意識の大きさに感動した。そんな光景を10分ほど見て、ようやくペンギンの群れが全員揃い、そしてペタペタと一生懸命走って陸地に上がってきた。
再び施設へと戻る途中の遊歩道は、ちょうどペンギンたちが巣に戻る長い道に沿って続いているため、手すりの上からすぐ間近に集団で歩くペンギンを眺められた。こうした営みが毎日繰り返されると思うと、とても神秘的だ。良いものを見られた。本当に寒かったけど、その寒さとともにいつまでも記憶に残る体験となるに違いない。
ちなみに、ペンギンたちの保護のため、写真撮影は禁じされている。人々からたくさんの光を浴びれば、ペンギンたちはストレスになってしまう。その代わり来場者は、自由に使用可能なペンギンパレードのイメージ画像をダウンロードでき、ぼくもその写真を使わせてもらった。
帰り道、フィリップ島の入り口にある、「Saltwater Phillip Island」でシーフードチャウダー(37ドル)とホットコーヒー(5.5ドル)を注文。チャウダーはムール貝、海老、イカ、ホタテなど具だくさんでおいしかった。何より身体が温まる。ミシェルが「This is what we needed.(これが私たちの求めていたものよ)」と言った。英語の勉強になる。
20時にレストランを出発し、22時に宿に戻ってきた。とても良い一日だった。案内と運転をしてくれたミシェルに感謝である。