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シドニー&メルボルンの旅(7)

今朝は6時半に起きた。荷造りをして部屋を出ると、外の通路で荷物を整理していた女性から、「日本の方ですか?」と聞かれた。さっき、彼女が部屋を出ていく際に湯たんぽを落としたから拾ってあげて、その際は「アジア系の方だな」としか思わなかったのだけど、日本人だったのだ。

彼女はアデレードでワーホリをしていて、これからバックパッカーとして2ヶ月ほどアジアを旅するらしい。

しばらく話していると、もうひとり、彼女の友人の日本人女性がやってきた。その方はメルボルンから4時間くらい離れた町のフラワーファームでワーホリをしているそう。ワーホリは年末までで、最後にバリ島やインドを旅してから帰国したいと話していた。実に良いことだ。

7時過ぎにチェックアウトして、宿から徒歩6分ほどの人気カフェ「Patricia Coffee Brewers」を訪ねた。ここは朝7時から開いている。

Patricia Coffee Brewers

メニューはシンプルで、ロングブラック、フラットホワイト、フィルターコーヒー(ドリップコーヒー)の3種類のみ。バリスタのお兄さんが笑顔で「ハウアーユー?」と聞いてくれる、素敵な雰囲気のお店。今日はフィルターコーヒー(5ドル)を選択。

店内は狭く、椅子がひとつもないから、みんな立って飲むしかない。おまけにほとんどが出勤前のひとり客だから、回転は早い。こんなに朝早くてもひっきりなしにお客さんがやってきて、静かにコーヒーを飲み、5〜10分程度でまた去っていく。奥には今日の新聞が張り出されていて、カップ片手にそれを眺めるビジネスマンもいる。滞在の最後にメルボルンのカフェ文化を象徴するような光景を見られて良かった。

アジア系の店員さんから、「フィルターコーヒーの試飲はいかがですか? オー、あなたは既に飲んでいたのね。でもこれもどうぞ」と小さなカップを手渡してくれた。同じものだけど、熱々だからよりおいしい。これをもらえるならフラットホワイトにしておけば良かったな、と思ったけど、まあ仕方ない。

飲み終えて空のカップをカウンターに戻すと、さっきの店員さんが突然日本語で「日本の方ですか?」と聞いてきた。

ぼくも「ああ、日本の方でしたか」と微笑む。

その方はここで1年半ほどバリスタとして働いているそうだ。日本人のバリスタは、もうひとり最近入った方がいるという。この店に限らず、メルボルンのカフェではアジア系の店員さんが実に多い。

そういえば、グレートオーシャンロードのツアーガイドをしてくれたジョーさんが言っていたけど、オーストラリア人の2人に1人は、少なくとも両親のどちらかが国外の出身らしい。その割合の高さにびっくりした。本当に多国籍な国だなと感じる。

そこから大通りに出て、ちょうどやってきたトラムに飛び乗り、サウザンクロス駅に到着。トラム無料はありがたい。ここからSky Busの高速バスに乗り、1時間強でアバロン空港に着いた。

シドニーへ向かう機内では急病人が出るハプニングがあった。20代の女性がぐったりしていて、CAさんたちが慌てている。やがて、「どなたか医療従事者はいませんか?」という機内アナウンスが流れる。こんな小さな飛行機の中に、そんな都合良く医療従事者なんているだろうか? と思ったが、いた。若い男性が名乗り出て、CAさんと連携して彼女を支える。友人たちは不安そうに眺めることしかできない。ぼくもドキドキしたが、幸いメルボルン〜シドニー間は1時間強のフライト。辛そうではあったが、なんとか意識はハッキリある状態でシドニー空港に到着した。無事で良かった。そして国際線じゃなくて良かった。もしこれが9時間以上を要するシドニー〜羽田線の出発直後のことだったらと思うとゾッとする。

お昼に空港に到着して、ひとつ試してみたいことがあった。それは、「プライオリティパスは到着時にも使えるのか?」という問題だった。メルボルンに着いた4日前に、「出発時のシドニー空港でプライオリティパスを使って、2つのレストランで食事し、さらにラウンジを使った」ということを書いた。

このプライオリティパスが使えるのは一般に「出発時のみ」と思われている(というか、普通は到着したらすぐ外に出るもんね)が、実は到着時にも使えるのことが今回わかった。といってもまだシドニー空港でしか試していないので、「少なくともシドニー空港では、到着時にも使えるみたいだ」と書いておこう。とにかくこれは大きな収穫だった。

飛行機を降りて、すぐスーツケースの受け取り場所に行くのではなく、4日前にも利用したエアサイドのレストラン「bistro2020」を訪ねた。そこでプライオリティパスと搭乗券を提示すると、「36ドルまで注文できるわよ」と言われたので、エッグベネディクト(23ドル)とミネラルウォーターをテイクアウトした。お店でゆっくり食べていたら、スーツケースの受け取りで厄介になるかもしれなかったからだ。5分ほど待って紙パックに入った食事を受け取り、無事スーツケースも引き取り、空港の到着ロビーの椅子で温かいエッグベネディクトを食べた。木の使い捨てナイフとフォークを使うのは初めて。日本でいう割り箸的感覚なのかな。ちょっと食べずらさはあったけど、これでランチ代が浮いてラッキーだった。プライオリティパスさまさまである。

bistro2020でテイクアウトしたエッグベネディクト

前回と同じゲストハウス「シドニーハーバーYHA」に泊まるので、空港から鉄道でサーキュラー・キー駅まで行き、そこから坂道を登った。もうこの辺りの街の地図は頭に入っているから、何も見ずに来られた。

宿に荷物を預けたあと、シドニー在住のNaoさんと合流。今回の旅にも支援してくれたぼくの友人が、「シドニーに知り合いがいるから観光のお力添えをしてくれるかも」と言って紹介してくれたのだ。

Naoさんはご結婚を機にシドニーに住むことになり、もう在住10年目になるという。もともと海外が好きだったんだろうな、と思っていたら、案外そうでもなかったらしい。初めての海外は、高校生のときに訪ねた中国。でも全然好きになれなかったという。その後韓国へも行ったが、やはりあまり気に入らず、ちょうどパスポートの期限が切れることもあって、「もう海外には行かなくていいや」と思ったそう。しかし、その後仕事でオーストラリアとニュージーランドへ行く機会があり、そのとき初めて「海外って楽しい」と感じたという。やっぱり中国・韓国と英語圏では雰囲気がまるで異なるから、この感覚はわかる気がする。そしてそのオーストラリア出張の際に現地で出会ったのが、現在の旦那さん、という素敵な話も聞かせていただいた。

今はフィットネスのパーソナルトレーナーとして働いていて、趣味はランニング。今度シドニーのハーフマラソンに出場するそうだ。そんなNaoさんが数時間ご一緒してくださることになった。

ぼくはポストカードを出したかったので、まず郵便局へ。国際郵便は1枚3ドルだった。無事に日本に辿り着きますように。

シドニーの郵便局、なぜか日本語が。利用者が多いのだろうか

そして、楽しみにしていた「ニューサウスウェールズ州立美術館」へ。ここはオーストラリア屈指の美術館で、ギリシャ神殿のような重厚な本館のほか、昨年12月にはすぐ隣に新館もオープンしたばかり。シドニーの最旬スポットと言えるだろう。

ニューサウスウェールズ州立美術館 本館

Naoさんが事前にこの美術館で活動する日本人ボランティアガイドのお知り合いの方に頼んでくださり、ありがたいことに1時間案内してくださることになった。そういうわけで、ガイドのチエさんと美術館前で合流した。チエさんの解説は非常にわかりやすく、また彼女自身が美術やオーストラリアの歴史が好きで、ガイドすることを心から楽しんでいるのが説明ぶりからひしひしと伝わってきた。お話がとてもおもしろく、かつ勉強になるので、時間が許すなら何時間でも聞いていたかった。

絵画を通してオーストラリアの歴史を学べる

最初に訪れたのは、美術館の本館。ここは大きく2つのブロックに分かれていて、片方は20世紀の美術、もう片方は19世紀よりも手前の時代の美術が展示されている。しかし、「19世紀よりも手前」といっても、例えばオーストラリアの絵画が並ぶ部屋では、17世紀の絵画は展示されていない。展示されているのは、1788年以降の絵画。この「1788年」が意味するのは何か? すなわち、イギリス政府がオーストラリアを植民地化した年以降の絵画、ということだ。

ぼくも少しだけオーストラリアの歴史について学び、驚いたのは、この国の歴史がとても新しいという事実だった。日本であれば、平安時代や飛鳥時代など、ずっと古くから歴史があるが、オーストラリアはキャプテン・クックが1770年に発見・上陸したことで存在が明らかになり、その後1788年にイギリスが植民地化した。日本で言えば江戸時代の後半に、ようやくこの国の歴史は始まった。まだ235年しか経っていない。

といっても、もちろんイギリス人たちがやってくる前には、先住民たちがこの土地に住んでいた。ぼくは何も考えずに「アボリジニだ」と思ってしまったが、実はこの言葉は差別的な響きがあるため、現在では呼称として使用されなくなっているそうだ。代わりに、「アボリジナルピーポー」とか、「アボリジナルの人々」と言うのがより適切だと学んだ。

アボリジナルアートの展示も充実

植民地政策の過程で、先住民たちは様々な迫害を受けた。近年はこうした歴史と向き合い、先住民たちの文化を尊重し、継承しようという動きが高まっているそうだ。何かのイベントが行われる際も、冒頭では先住民たちへの謝辞を述べるのが一般的になっているという。

このような歴史について、展示されている絵画を通して学んだ。おそらく、ただひとりで鑑賞しただけではとてもわからなかったであろう奥深さが、この美術館にはある。

現代アートが並ぶ新館の設計は、日本人の建築ユニットが担当した。金沢の「21世紀美術館」も設計した、妹島和世と西沢立衛(SANAA)によるものだ。二人は2010年に「建築界のノーベル賞」と言われるプリツカー賞も受賞している。

昨年12月にオープンしたばかりの新館

海に面した素晴らしい場所に立ち、かつ建物内部と外が一体となったような開放的な空間が良かった。地上階の外には、草間彌生さんの花の作品が展示されている。この新館のために依頼を受けて作ったアートだそう。内部には村上隆さんの巨大な猫の絵もあった。

草間彌生さんの作品
村上隆さんのユーモラスな作品

以前にも書いたが、本館も新館も、常設展はすべて無料である。この2つの施設だけで半日〜終日は費やせるような充実度合いだった。とても1時間では見切れない。またシドニーに来なければいけない。

次回またゆっくり鑑賞したい

美術館を出たら、Naoさんの案内でシドニーハーバーブリッジを歩いて渡ることに。かなりの距離だったけど、この道は一度歩けて良かった。そのくらい眺めが素晴らしかった。今日もシドニーに着いてから計12km歩いた。

シドニーハーバーブリッジを渡る
橋の上からはオペラハウスがよく見える

そして夕食に、橋を渡った先のノースシドニーのパブ「Billy Barry’s」へ。ここがNaoさんおすすめのお店で、最高に良かった。雰囲気が良く、おいしいクラフトビールを飲めるうえ、料理の値段がそこまで高くないのだ。

これぞ思い描いていたとおりパブ。雰囲気最高の「Billy Barry’s」
クラフトビールも最高

一度はステーキを食べたいと思っていたから、ここで食べられて良かった。サーロインステーキのフライドポテト添え+マッシュルームソースで計20ドル。他のお店なら30ドル以上してもおかしくない内容だった。オージービーフは噛めば噛むほど味わいが増し、とてもおいしかった。

念願のオージービーフのステーキ

ここでNaoさんとお別れし、帰りはひとり鉄道に乗ってまた宿へと戻ってきた。

夜はコーヒーを飲みながら日記を書き続けた


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中村洋太
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