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「向いてない」と思う仕事のなかにも

新卒で入社した旅行会社で営業部に配属されたとき、ひたすら怒られる辛い毎日に、「サラリーマンは心底自分に向いてない」と思った。一週間どころか、入社前の研修でもう涙目。

さらに、4ヶ月後に海外添乗員としてデビューしたとき、これはもう「完全に道を間違えた」と思うくらい、苦手意識を持った。「旅が好きなこと」と「旅を仕事にすること」はまったく別物だった。

自分が楽しむことしか考えてこなかった人間が、人を楽しませよう、「最高の旅だった」と言ってもらおう、と考えなくてはいけないのだから、大変だ。せっかくの海外で、自分の好奇心を押し殺さなきゃいけないなんて。

世界遺産を前に、

「中村さんはもう何回も来たの?」

「3回目ですかね!いつもはもっと混んでいてなかなか前方から写真撮れないんですが、今回は空いててラッキーですよ。はい、では皆さん、よろしければ記念写真撮りますので、カメラ貸してくだーい!^_^ え、お手洗いですか?あちらの施設に入って右奥にございます」

なんて、「もうこの景色は飽きるほど見た」風に答えてますけども、

本当は初めてだよ!何この絶景!?やばくない!?世界遺産!マジだよ!

もっと感動したいのに!もっと自分のカメラで写真撮りたいのに〜〜!!W(`0`)W

「では、そろそろバスにお戻りくださーい(๑>◡<๑)」

バスの中で話すのも緊張するし、かといって黙ってるとお通夜みたいな雰囲気になってくるし。そんなこんなで、最初の2年間はまったく結果が出せず、辛い日々だった。

でも仕事を辞めるのは、「辛くて逃げ出したいとき」ではなく、「この仕事も楽しいし、辞めなくてもいいかなと思えたとき」にしよう、という気持ちがあった。

人間って面白いもので、たとえ自分に向いてないと思っても、与えられた状況下でなんとか自分の良さを出そうと努力する。自分の持っている良さを、この仕事で活かせないかなと。

一度、バスの中でヨーロッパ自転車旅の経験を話したら拍手が起きたことがあって、「明日も聞かせて」とせがまれた。それ以来、長距離移動の日は講演会のような時間になった。「え、ここでウケるんだ」「この話は意外と反応薄いから次回はカットだな」とか、自分なりに改善を繰り返しながら、取り組んでいた。のちに、本物の講演会でも動じずに話せたのは、このときのバスでの経験があったからだと思う。

社会人3年目になり、ようやく少しずつ結果が出せるようになってきて、お客様から「天職ですね」と言われることもあった。もちろん、自分ではそんなこと思ってないのだが、そう思われたことは素直に嬉しかった。

入社して5年目のある日の帰り際、上司に呼ばれて、添乗員ランクが最高位に昇格したことを告げられた。最初の頃の自分からは想像できなかったことだ。

好きなことばかりやってきた自分にとって、この仕事で得られた大きな収穫は、「向いてないと思う仕事のなかにも、成長のヒントが隠されているのではないか」という意識だった。人間には、自分で思っているよりも案外適応力がある。

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中村洋太
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