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講演のための思考メモ(24)偶然から始まった「ライターコンサル」

2020年、難病から復活し、しばらくは企業案件を中心に執筆していた。大きな転機は、6月に訪れた。

きっかけは、作家・川上未映子さんの「原稿料」に関するツイートだった。

原稿料を依頼時にボカしてくるクライアントは、ぼくにも経験があった。うっかり確認せずに引き受けると、想像以上に安かった、ということも。だから聞きづらくとも、事前に「原稿料はいくらですか?」と聞いておかないと、「ちゃんとお金もらえるのかな」と不安が募り、気持ちよく仕事ができなくなる。それは失敗経験のなかで学んでいったことだった。

ぼくはこの川上さんのツイートを引用し、自身の経験をnoteに書いたところ、共感してくれたWebライターの知人から、こんなメッセージが届いた。

「先日、結婚式場のレポートを執筆したのですが、現地取材、さらに写真50枚納品、執筆(3000字)込みで¥2000でした。なかにはこちらから請求しないと原稿料を払ってもらえない、なんてこともあります。原稿料を請求したら『最近の子はお金にがめついよね、若いうちはこちらからお金払ってでも書きたいです!っていわなきゃだめだよー』なんていわれたこともありました。。」

この原稿料や対応の話は、ちょっとひど過ぎる。唖然としてしまったぼくは、詳しい事情を知りたかったのと、何かアドバイスできることがあるんじゃないかと思い、その方と1時間ほどお電話で話した。すると、「考え方が変わった」と喜んでいただけた。「これはもしかしたら、ほかの駆け出しのライターさんにとっても役立つ内容なのでは」と感じ、電話で話した内容をさらに深掘りしてnoteに書いた。そうして生まれたのが、「Webライターが単価を高めるためのアドバイス」という記事だった。

この記事がnoteの「今日の注目記事」に選ばれると、Twitterのライター界隈で大きな反響があった。

そして、駆け出しライターだった池田アユリさんという方から、「中村さんからコンサルを受けたい」と驚きのDMが届いた。まだライターさん向けにコンサルをしよう、なんて1ミリも思っていなかった時期である。でも、興味はあった。ぼくは学生時代から「教えること」が好きだったから、ライターとしての経験が誰かの役に立つなら、楽しいことかもしれない。「記事を書くこと」とはまた異なるやりがいを得られるかもしれない。

池田さんからのDMには、「SEO記事が苦手で、もうライターを辞めようかとも思っていたタイミングで中村さんのnoteを読みました」と書かれていた。なんともったいないことか。世の中には様々な文章タイプがあり、SEO記事なんてその一部でしかない。「SEO記事が向いてない」=「ライターとして向いていない」では決してないのだ。むしろ、逆のことさえある。

池田さんは人に興味があり、「インタビューライターになりたい」と話していたから、その技術を教えて、プロライターとして活躍できるようにしてあげられたらいいなと思った。

とはいえ、ぼくは感覚で文章を書いていた部分もあったから、技術や考え方を、きちんと言語化して人に伝えられるだろうか、という懸念があった。こればかりは、やってみないとわからない。だからまずはトライアルという形で池田さんにコンサルをすることになった。のちに「ライターコンサル」と名付けられる事業の、1人目の生徒さんが誕生した瞬間だった。

2020年7〜8月の2ヶ月間は、池田さんと1対1で、たくさんコンサルと添削をした。ライターとしての自分の仕事もあったので、空いていた時間に。夜22時頃から電話をして、同じドキュメントを見ながら文章についてあれこれ話して、白熱するあまり気付けば日付が変わっていた、ということもあった。池田さんはそれまできちんとインタビュー記事を書いたことがなく、すべてを一から教えた。そして添削を通して様々なアドバイスをしていった。

すると、その2ヶ月間でグングン文章が良くなっていった。赤字やコメントはたくさん入れるが、続けるうちに、文章の違和感や指摘する事柄が少しずつ減ってくる。成長を感じた。電話越しに、池田さんが必死にメモを取る音が聞こえてくる。学んだことをきちんと次に生かそうと心がけていた。その熱量にぼくも気持ちを動かされた。意欲ある彼女が最初の生徒さんで、本当に幸運だった。

池田アユリさん。コンサル開始から1年後に初めてお会いした

池田さんはTwitterやnoteで、「中村さんからこんなことを学んだ」と積極的に発信してくださったので、そのおかげもあり、「私にもコンサルしてほしい」というライターさんからの連絡がどんどん増えていった。

ぼくも「教えることが向いているんじゃないか」と自信を得て、2020年9月には生徒さんを一気に10人まで増やした。その最初の10人の中には、現在文春オンラインやダイヤモンド・オンライン、講談社や朝日新聞社のメディアなどで大活躍されているライターのかたおかゆいさん原由希奈さん仲奈々さん桃沢もちこさんも含まれている。

無名だった彼女たちが、今では著名人にも臆することなく取材できるようになり、素晴らしいインタビュー記事やエッセイの書き手として世の中に良い影響を与えている。その「快進撃」とも言える急速な成長過程を生で見られたのは、大きな学びがあったとともに、教える立場として非常に幸福なことだった。

(つづく)

※池田アユリさんの個人的イチオシ記事です↓


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中村洋太
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