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日経新聞から生まれたスタバでのつながり
「大きな声で話してすみませんね」
スタバで右隣に座っていたご高齢の男性が電話を終えると、新聞を読んでいたぼくにひと声かけてくれた。
「いえいえ、大丈夫です」
と返しながら、ぼくは驚き、少し嬉しくなった。
そして数秒の沈黙のあと、再び新聞を開きかけた彼に、思わず話しかけてしまった。
「あの」
「ん?」
「いつも、ここで日経新聞を読まれているじゃないですか」
「うん」
「一年以上前からお姿を見ていて、ぼくはあなたに影響を受けて日経を読み始めたんです」
「ああ、そうだったの」
それから彼は、いろんなお話をしてくださった。リタイアして15年経つというから、おそらく70代だろう。現役時代は化学系の専門商社で働いていたそうだ。
彼もまた、ほぼ毎日スタバにやってきては、文字を彫るように黙々と日経新聞を読む。もうひと方、同じく毎朝やってきて新聞を読んでいるシニアのお客さんがいらっしゃるのだが、そちらは専らスポーツ新聞なので、ぼくのリスペクトは前者に偏っていた。
彼の真剣さはいつもすごい。数行ごとにボールペンで✅マークをつけながら、数時間かけて読んでいる。
やがてぼくは秘かにその姿に感化され、昨年11月から日経新聞を取り始めた。
彼は投資家なのではないか、と早い段階から思っていた。そしてやはりそうだった。ぼくが尋ねるよりも先に、彼は自分からそう話した。
「僕は株をやるからね。もう20代の頃から」
自身のことや、投資への姿勢、これまでどんな企業の銘柄で利益が出たか、などを語ってくれた。
「若い頃は食品、それあとは建設が良かったね〜。大成(建設)とか清水(建設)とか」
「落ちたときにみんな売っちゃうでしょ。でも僕はそういうときに買うの。長く持っていればまた上がるから」
「今は新しく買うことはなくて、長く持っている40銘柄くらいを見守っているだけ。マイナスになっているのは、ありがたいことにほとんどないね。運がいいんだね」
レジでの注文時ですら口数は少ないし、レジ以外で誰かと会話する姿なんて一度も見たことがなかった。その彼が、ぼくに対してマシンガンのように10分近くいろんなことを話してくれた。理解が追いつかない話もあったけれど、総じておもしろかった。
「人と会話することがほとんどないから、口を開くとこうして止まらなくなっちゃう」
「また聞かせてください。とてもためになりました」
「はは。じゃ、お先に失礼します」
お名前は聞けなかったが、またチャンスはあるだろう。いつかお話を伺ってみたいと、一年以上機会を待っていた。とても嬉しい時間だった。
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