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博多〜鹿児島 徒歩の旅(10)芦北〜出水 水俣で兄の恩人を訪ねて

博多〜鹿児島 徒歩の旅
第10ステージ
熊本県芦北町〜鹿児島県出水市
27km

数日前、ベルリンで暮らす兄から連絡があった。

「もしできたらなんだけど、水俣を通るときに昔九州の旅でお世話になった中村和義さんのお宅をノックしてみてくれないかな? ほぼ街道沿いの家なので、遠回りにはならないはず」

鉄道が好きな兄は、中学1年生の夏、ブルートレインに乗って約2週間の九州旅行をした。その頃ぼくは生まれたばかりで、まだ1歳になる前だった。

兄は鹿児島県指宿のユースホステルで中村和義さんと出会い、いろいろと車で周辺観光に連れて行ってもらったという。さらに翌日は、桜島の宿をキャンセルして、水俣市まで車で乗せてもらい、彼のご自宅に泊めていただいたそうだ。

「最後にやり取りしたのは2021年の正月で、その後2回メールしたけど、返事はなかった」

今はもうご高齢のはずなので、どんなご様子かわからないとのことだった。

「確かめられたらと思ってね。できたらでいいので、よろしくお願いします」

お昼過ぎ、水俣の市街地に入った。兄から聞いた住所へ行くと、和義さんのお宅は簡単に見つかった。が、かなり古い家で、ところどころ朽ちていて、人が住んでいるのかどうかわからない。

「すみませーん!」

叫んでみるも、返事はない。

通りに面した窓ガラス越しに部屋の様子を覗くと、2025年のカレンダーがかかっていた。ということは、人は住んでいるようだ。

だが、今はいない。どこかに出かけているのだろう。

せめて家の外観の写真だけ撮って、兄に送ってあげよう。中1のときに一晩泊まった思い出の家だ。きっと懐かしがるだろう。

そう思って、家にカメラを向けているときのことだった。

「なんしよるの」

突然背後から声をかけられ、ビクッとしてしまった。

おじさんが不審な目で近づいてくる。まずい。家を覗き込んで、写真を撮って、ぼくは確実に不審者だ。

「すみません! あの、中村和義さんでしょうか?」

「そうや」

(おお!)

「横須賀の、中村真人はわかりますか?」

「ああ、昔うちに泊まった」

「ぼくはその弟で、兄に頼まれてご挨拶に来ました」

「ほ〜、そうかそうか。まあ家にあがって。ゆっくりしてけばよか」

「ありがとうございます!」

「今夜はうちに泊まるか?」

「え(笑) いや、今夜はもう出水の宿を取ってしまっていて」

「そうか、真人くんはうちに泊まったったい」

「お世話になりました」

「お茶淹れてくるけん、まあゆっくりしてけばよか」

近所の「喜楽食堂」でちゃんぽんをご馳走になったあと、そのすぐ裏手の「源光寺」というお寺に案内してくれた。

「ここがうちの本家」

「ええ? こんな立派な」

そこでわかったのは、彼が熊本城を築いた加藤清正のいとこの末裔であるという事実だった。そのいとことは、加藤清正の家臣で、水俣城代だった中村将藍という人物らしい。

また、ぼくが博多から鹿児島まで歩いていることを知り、「見ておいた方がいい」と車で水俣市街を見下ろせる山に連れて行ってくれた。

そこには、この旅でほとんど目にすることがなかった、江戸時代に実際に使われていた薩摩街道が残されていた。細く険しい山道はとても風情があった。西郷隆盛も坂本龍馬もかつてこの山道を歩いていたと思うと、ロマンを感じる。

最後に「水俣病資料館」のある広大な公園「エコパーク水俣」に立ち寄り、3号線沿いで下ろしていただいた。

突然の訪問にも関わらず、案内までしてくださり本当にありがたかった。嬉しい出来事だった。兄にも報告して、喜んでくれた。ぼくにとっては、台湾で兄の恩人を訪ねたときと重なる経験となった。

やがて、鹿児島県に突入した。出水市だ。「いずみ」と読む。

さらに歩くと、「野間の関趾」という昔の関所跡もあった。

最終ゴールの鹿児島までは、残り100kmを切った。

出水駅に到着し、駅前のホテルにチェックイン。

夕食は近くの「味処魚松」にて。写真で見た刺身定食がおいしそうだなと思って入ったら、地元の名店だったようで、松岡修造さんや宮川大輔さんもプライベートで来店したことがあるという。

その刺身定食は新鮮で実においしかった。キビナゴの刺身と酢味噌を見て、「ああ、鹿児島に来たんだな」という実感が湧いた。

宿へと戻る道は、冷たい風が吹いて、急激に冷え込んだ。足が震えるくらい寒かった。

明日からいよいよ大寒波を迎える。最後の試練となりそうだ。

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中村洋太
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