大阪〜博多600km徒歩の旅(9)岡山県倉敷市〜笠岡市
大阪から博多へ 山陽道600km徒歩の旅
第9ステージ
岡山県倉敷市〜岡山県笠岡市(32km)
朝7時に起き、前日分のnoteを更新。そしてまた朝風呂に入り、支度をした。
今日は倉敷から笠岡まで歩く予定なのだが、笠岡周辺にはビジネスホテルがないため、どうしようかなと思っていた。
笠岡から電車で少し先へ行けばもう福山なので、福山の宿を取り、翌日また電車で笠岡まで戻ってスタートすることも検討した。しかし、先に福山に泊まってしまうと、歩いて到着したときの感動が薄れてしまいそうだった。
そのとき、良いアイデアが浮かんだ。
(今泊まっている倉敷のドーミーインに、もう一泊すればいいじゃないか)
そうすれば、ぼくは重たいリュックをホテルに預けて、財布やバッテリーなど最低限の荷物を入れたエコバッグだけを持って歩くことができる。それは、肩の負担をもう一日分休ませられることを意味する。これは大きいぞ。
そして笠岡まで歩いたら、夕方また電車で倉敷に戻ってくればいい。
というわけで、このプランを実行に移した。幸運にも、3泊目のドーミーインはさらに安く、5950円で予約できた。宿の質を考えれば、破格中の破格である。
*****
8時45分、フロントに荷物を預け、倉敷を出発。コンビニでおにぎりを買い、食べながら歩く。国道429号線をまっすぐ南西へ進んだ。
今日もオーディブルで、沢木耕太郎の『深夜特急』を聴いた。そして3時間ほどかけて、「香港・マカオ編」を聴き終えた。
ぼくの好きなマカオ編。カジノでギャンブルに熱中して、勝ったり負けたりする話。初めて読んだとき、ものすごい勢いでストーリーに惹きつけられ、興奮して読んだのが忘れられない。よくもわずか2日分の内容で、読者を持続的に興奮させられる話をあれだけ長く書けるものだなと尊敬する。
また、話は時系列を入れ替えるだけで、こんなにドラマチックになるんだなと改めて思う部分があった。
やがて、長い橋を渡り、大きな川を越えた。
川の名前を調べ、「これが高梁川か・・・」と思った。この川の上流に、備中高梁があり、そこからさらに山に入ったところに吹屋という町がある。ベンガラ色の町並みが広がり、国内でもここだけの独特の景観を有するという。旅行会社時代にこれらの町々を訪ねるツアーを販売していて、叶うならば添乗したかった。が、実現はしなかったから、いつか訪ねたい。
この辺りで人気の「アカシア洋食店」でランチにした。ぼくの前に4組並んでいて、15分ほど待った。ハンバーグ&ヒレカツ定食を注文。ハンバーグはジューシーでおいしかった。
それからしばらく歩いて、浅口郡里庄町に入った。歌手・藤井風の古郷である。目立ったものは何もない町だが、近年、多くのファンが「聖地巡礼」しているという。
国道2号線沿いではあるが、のどかな町で、周辺にはほどよく自然も広がっている。
右手の丘に見えた、「つばきの丘運動公園」では、毎日10時と15時に藤井風さんの曲がフルで流れるそうだ。
せっかくなので藤井風の歌を聴きながら歩こうと思い、馴染みのある『帰ろう』という曲を久しぶりに流したら、ビビッとくるものがあった。この風景と、非常に合うのだ。『旅路』も良かった。身体がノってきて、足取りが軽くなる。不思議な幸福感に包まれる。
コロナ禍に藤井風ブームが起こった際、ぼくもよくランニングしながら彼のアルバムを聴いていた。若さと才能に驚き、「天才的なアーティストが現れたものだな」と思いながら。それ以来、しばらく聴いていなかったけど、改めて名曲の多さに気付かされた。
藤井風ファンの方からお勧めされた、「SOL BAKERY」というパン屋さんに立ち寄った。店に入ってすぐ、194円のあんバターコッペを見た瞬間、驚いた。
コッペパンの大きさと、それに合わせた大胆なバターの量に。まだ食べてもないのに、ひと目見て「おいしい」とわかる、そんなパンが並んでいた。お客さんはひっきりなしに入ってくる。そして数分おきに、「○○が焼き上がりました〜!」と活気ある声が響く。
今はお腹いっぱいだけど、明日の朝食にすればいい。ぼくは、2つのクッキーと、芋のパンと、リンゴとカスタードのパンを買った。そして店内で、リンゴとカスタードのパンだけ食べた。これが、抜群においしかった。人気なわけだ。素晴らしいパン屋さんだった。
里庄駅の近くには、どこかで見たような歩道橋があった。それは、藤井風の『旅路』のMVに登場する歩道橋だった(映像の20秒過ぎ)。映像と同じ場所で、写真を撮った。
さらに、藤井風ファンの聖地だという里庄町の小野酒店にも立ち寄ってきた。一見普通の商店なのだけど、藤井風さんからの愛溢れるメッセージやTシャツなどが奥に展示されていた。
再び『旅路』を聴きながら眺めた夕暮れの景色が、感動的に美しかった。歌詞にある通り、「全て忘れて帰りたく」なった。
笠岡市に入ると、道の両側にお店が増えて、里庄町とは様子が変わった。しかしそのとき、異変に気付いた。どうも鼻につくようなツーンとした臭いがするのだ。一瞬、自分が異常に汗臭いのかと疑った。もちろん汗臭さは否定できないけれど、明らかにそんなレベルの臭いではなかった。街を歩いているのに、まるで牛小屋にいるかのような。
調べてみたら、笠岡市のホームページに辿り着いた。
「笠岡湾干拓地における畜産営農に起因する臭気問題は、笠岡市にとっての課題となっています」
国道2号線近くの干拓地に広い農場があり、そこから漂ってくる牛糞の臭いらしい。そしてなんと、市ではスマートフォン用の「臭気報告アプリ」なるものまで用意しているそうだ。これは住民にとってはたまらないだろうなと感じる。毎日嗅いでいれば慣れてくるものなのだろうか。
17時ちょうど、32kmを歩き、無事ゴールの笠岡駅に到着。そこから電車に乗って、30分弱で倉敷に戻ってきた。
夜は21時までスタバで原稿を書き、その後はホテルで作業。パンも食べてあまりお腹が空かなかったので、夕食はパスした。ドーミーインの夜泣きそばだけ食べた。
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