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贈与とバイタリティー
強まる孤独感の謎
この数年間、お仕事の相談や何かのお誘いを、安易に断ってしまったり、微妙な返答でせっかくのご好意を無下にしてしまったりすることが多かった。
「自分が本当にやりたいことではなかったから(仕方ないよね)」と思う反面、「あの人はせっかくぼくに頼んでくれたのに・・・」と後ろめたさでモヤモヤしてしまい、よく自己嫌悪に陥った。
(ああ、、、もう二度とこの人から仕事の相談は来ないだろうな・・・)
とはいえ、頼まれごとを何でも引き受けていたら、「全然稼げなくなってしまうんじゃないか」という不安や恐れがあった。
会社員からフリーランスになって、「もう決まった日に給料は入らない。自分の力で生きていかないといけない」という気持ちが強まり、その不安から、「お金になるならやる、お金にならないならやらない」という面が強く出てきてしまったのだと思う。昔はそんなことなかったのに。
だけど、このままだとどんどん友達が減っていき、孤立していく気がした。誰からも頼られなくなるということは、ぼくも誰にも頼ることができなくなる、ということを意味する。
何かがおかしい。このままでいけない。
でも、どうしたらいいのか、わからなかった。それがこの数年間の大きな悩みだった。
天職の3分の1は、「使命」でできている
状況を変えてくれたのが、先日出会った『世界は贈与でできている』という本だった。
著者の近内悠太さんは同じ横須賀のご出身。歳は近いのに、その博識さと斬新な世界の捉え方に驚かされた。
この本を読んで、ぼくには「贈与」の精神がすっかり抜け落ちていて、「これだけやるから、これだけ頂戴ね」という「交換」の精神で生きてしまっていたことに気づけた。それでは人との関係性が続いていかない。だから孤独になっていくのだ。
その自覚ができたうえで過去のあれこれを振り返ると、「あれは贈与だった」「これも贈与だった」とたくさんの有り難みに気付けた。そして相談してくれた方々に申し訳ないことをしてしまった、という気持ちになった。
「天職」とは、自分にとって効率的に稼ぐことのできる職業、職能ではありません。天職は英語では「calling」です。
誰かから呼ばれること。誰かの声を聴くこと。これが天職の原義です。
もちろん、西洋の考えでは、その声の主は神です。
ですが、その声には神ならぬ普通の誰かからの「助けて」という声も含まれているのではないでしょうか。
そして、たまたま自分には、その声に応じるだけの能力と機会があった。
それに気づいたとき、そこには責任(responsibility、応答可能性)が立ち現れます。
「自分にできること」と「自分のやりたいこと」が一致しただけでは天職とは言えません。第三の「自分がやらなければならない、と気づくこと」という要素、つまり使命の直覚が発生しなければならない。
天職の3分の1は、使命でできている。
callingという言葉はそれを教えてくれます。
(『世界は贈与でできている』より)
これまで受けていたたくさんの贈与を、恐れから「何か裏があるんじゃないか」「引き受けたら面倒なんじゃないか」などと考えててしまい、本当に無下にしてしまっていた。
せめてもの救いは、今その事実に気付けたこと。「このままじゃダメだ」と変わろうとしていること。
『世界は贈与でできている』は本当に素晴らしい本で、3日間で2回読んだ。そして学んだことをノートに書いて、理解を深めた。
バイタリティーの正体
この本のおかげで、ぼくはもうひとつの悩みであった「バイタリティーの低下問題」も解決できそうな気がしてきた。
自分で言うのもなんだが、少なくとも20代のぼくは、バイタリティーの塊のような人間だった。
「自転車で世界を旅しよう!」
→世界1万kmを旅した
「旅の資金を集めるために、飛び込み営業をしよう!」
→何社も協賛をつけた
「この人おもしろい!連絡してお会いしよう!」
→100人以上にインタビューした
「東京から大阪まで歩いてみよう!」
→23日かかった
自分の立場や肩書きに囚われず、やりたいと思ったことを、たくさん実行してきた。活動的で、情熱的で、ポジティブなエネルギーで人を巻き込めていた実感があった。一言で言えば、イキイキと生きていた。
しかしフリーランスになってから、「自分のバイタリティーが失われてきている」と感じて恐怖心に駆られた。何が原因でバイタリティーが低下していくのかもわからなかったし、一度失われたバイタリティーをどうやったら取り戻せるのか、その方法もまるでわからなかった。
「再び、イキイキ感を取り戻すことはできるのだろうか?」
「バイタリティーはどうしたら回復できるんだろう?」
というのがこの数年の課題だった。
「贈与」の概念を得て、ようやく答えが見えてきた。少なくともぼくにとって、バイタリティーというのは、「伝えたい」という気持ちそのものなのではないか。
何かを経験し、何かを感じる。心を動かされる。そのとき、「これをみんなに伝えたい!」と思ってバーっと書く。今書いているこの文章もそうだ。なぜお金をもらえるわけでもないのに、長時間を費やしてこんな長文を書いているのか。それは「この本から得られた気付き」いう贈与を受け取ったからに他ならない。
本に感動して、自分の気付きを無性に伝えたくなって、イキイキとした気持ちで書いている。この「伝えたい」という気持ちが、「生」をみなぎらせる、バイタリティーそのものだ。
であるならば、バイタリティーを高めるためには、「伝えたい」という気持ちを増やせばいいはずだ。そのためにはどうしたらいいか。それは「贈与」を多く受け取ることである。贈与といっても、誰かからのプレゼントとかそういうものだけを指すわけではなく、範囲はとても広い。
誰かから教えてもらった有益な情報も贈与だし、海外のレストランに行って「水はタダじゃない」と知ったときに初めて「日本で水をタダで飲めていたのは実は贈与だったのか」と気付く、そんな贈与もある。
そういった物事にたくさん気付くことで、「贈与を受け取ってしまった」「何かお返ししなくては」という気持ちが自然と芽生え、それが「書いて伝える」(=自分が差出人となる贈与)に変わっていく。
「贈与の精神」で生きていたあの頃を思い出せ
ぼくは2014〜2016年頃にかけて、100人以上のユニークな方々にプライベートで会い、お話を聞かせていただいた。そのとき、「こんなに貴重なお話を、ぼくだけが聞くのはもったいない」と感じ、「せっかくだから、聞いた話をたくさんの人に伝えよう」という気持ちで、Facebookやブログで発信した。
あれこそがまさに、贈与だったのではないか。
というのも、そのときのぼくは見返りなんて全く期待していなかったし(見返りを求めたら贈与でなく交換になる)、活動もボランティアだった。お話を聞いて感動したことや影響を受けたことを、たくさんの人に伝えたいと思い、純粋な気持ちで書いていた。
近内さんが、「贈与は、見返りを求めないからこそ差出人と受取人の間につながりを生み出す」と書いていたとおり、結果的に素晴らしい人たちとの強いつながりが生まれた。後にフリーランスになったとき、仕事をくれたのはその人たちだった。
今考えれば、あの時期がいちばん贈与の精神で生きられていた。お金をもらっていないのに、幸福感に満ちていた。
「伝えたい」という気持ちを増やす
フリーランスになってから環境が変わり、都合よく利用されそうになったこともあった。それが辛かったから、「自分の身は自分で守らないといけない」という警戒心が強まり、贈与の気持ちよりも「交換」の気持ちが強まってしまった。
だからボランティアで何かをすることもほとんどなくなってしまったし、相談や依頼があってもすぐ「これってお仕事ですよね?」と聞いてしまったり(仕事と思って書いたら、ボランティアだったことがあったから)、そういうことが増えていった。
会社員の頃は給料がもらえていたから、その分プライベートの活動はお金を気にせず自由に動けていたんだけれども、フリーランスはそうもいかないから、途端にギクシャクしてきた。
人に何かを頼ることも苦手だったから、余計に孤立していった感がある。今まで頻繁に会っていた友達とも疎遠になったり。でもなぜそうなってしまうのか、この本を読むまで言語化できていなかった。
今は「贈与」という観点から、すべてを説明できそうだ。
まとめると、ぼくはバイタリティーを取り戻したい。そのためには「伝えたい」という気持ちを増やすことが大事で、それには交換ではなく、贈与の精神で生きることが重要だ。
そして贈与は、見返りを求めずに贈与を行った結果、偶然返ってくるもの。なので、自分が気づいた贈与に対して、「お返しをしなきゃな」という気持ちを持って生きて、行動(贈与)を増やしていけばいい。それらの行動の結果、「仕事のやりがい」や「生きる意味」も、偶然見えてくるものなのだという。
そのような気持ちで昨日から生きていると、世の中がガラッと変わって見えてきた。昨日今日と、たくさんの方からメッセージをもらった。
・こんな仕事をお願いできませんか?
・中村さんの◯◯の記事を読んで救われました!
・お久しぶりです!来週イベントがあるんですけど、良かったら来ませんか?
などなど、そのどれもが「贈与」に感じた。
ありがたく受け取って、お返しをしていきたい。
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