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「中村さん、運を上げる方法、知ってる?」

「俺は47のときにサラリーマンを辞めて、独立したの」

2015年の秋、海外添乗員として約20名のお客様とともにカナダを旅したときのこと。成田へ向かう帰路の飛行機が離陸した直後、隣の席で窓から景色を眺めていたSさんが、突然話し始めた。

Sさんは7つの特許を持っている実業家で、とある企業の会長さん。国や県から数百億単位の資金調達をして、ぼくの知らない分野で日本に大きく貢献している方だった。

でも見た目はとても穏やかなおじいさんで、10日間のツアー中、終始ニコニコと観光を楽しんでいた。

「事業ってさ、組み立てが全てなんだよ」

「組み立て?」

「組み立てって、『ストーリー』のこと。俺はこういうことがしたいんだ、というストーリーに筋が通っていて、あとは人を裏切らなければ、お金ってついてくるんだよ。お金を稼ぐことよりもさ、これがしたいんだっていう想いが大切なんだ」

それとな、とSさん。

「良い人に巡り会えるかどうか。なんでかって、結局人はひとりじゃ何もできないんだよ。どんなに努力しても、どんなに実力があっても、ひとりの力で大きな成功はできないし、世界は変えられないの。だから、人に応援される力が必要だし、大切なのは、人に巡り会う力。誰でもいいわけじゃなくて、まさに『その人』に出逢えるかどうかなんだよ」

「それって、運ですよね」

「そうだよ、結局人生は運だよ。でも中村さんね、運を上げる方法、知ってる?」

「動くことじゃないですか?」

「はは、参ったな。そう、動いてると運が上がるんだよ。止まってたら運はマイナスになっちゃう。俺もう75だけどね、80まで現役でいたいの。仕事が楽しいとね、ストレスがないから、健康でいられるの。成田着いたら、岐阜へ直行だよ」

「岐阜で何が?」

「学会で発表するんだよ。はっはっは」

温かくて、オーラのあるSさんから、様々なことを学んだ。

「俺は本当に、中村さんの将来が楽しみだよ。まだ20代だろ? 何でもできる。これから中村さんには多くのスポンサーがつくよ。でもな、ちゃんと人を見極めなさい。あまり縛られると、自由な発想ができなくなる。資金集めも大事、でも伸びやかな発想も大切だ。バランスよくいきなさい」

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中村洋太
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