ルーマニアで聞いた「マーフィー理論」の話
「ここ、座ってもいいですか?」
それは、ブルガリアとルーマニアを巡る旅の添乗員を務めていた時のこと。ルーマニアの首都ブカレストへ向かう列車の中、お客様のNさんが、ぼくの向かいの席にやってきた。
その方は日本初のプロテイン(明治SAVAS)開発者でありながら、理系らしからぬ文才で100万部売れた本を2冊書いたミリオンセラー作家でもあった。
「連日のバスの中でのお話は、とても面白かったですよ。協賛を集めてヨーロッパを自転車で旅しようなんて、普通の考えじゃないです。素晴らしいご経験をされましたね」
「とても幸運でした」
「ところでね、中村さんは、『マーフィー理論』をご存知でしょう」
「え?マーフィー理論? いえ、初めて聞きました」
「え、それは驚きましたね」
「すみません、勉強しておきます」
「いやいや、もう勉強する必要ないんですよ。あなたは何も知らないで、実践していたんですね」
「どういうことですか?」
「『マーフィー理論』というのはね、一言でいえば、『あなたの人生は、あなたの心に思い描いたとおりになる』という理論です」
「はあ」
「『自転車でヨーロッパを走りたい』という夢を持ったとき、あなたまず何をしたっておっしゃいました?」
「旅の企画書を作って、スポンサーを集めるために企業を回って、、」
「いや、その前です」
「その前?えっと、ああ、コルクボードを買ってきて、という話ですか? 自分が訪れたいヨーロッパの街や自然の写真をプリントアウトして、コルクボードにたくさん貼りました。その中心に、自分が自転車で走っている写真と、実現したつもりで笑顔になっている写真を貼りました」
「そうでしたね。そして、そのコルクボードをどうしました?」
「写真を撮って、携帯の待受画面にして毎日眺めていました」
「中村さんのしたことは、まさに『マーフィー理論』そのものですよ。マーフィーはこう言いました。『自分が手にしたいものがあった場合、それらはすでに自分のものになったとイメージしなさい。そうすればそれは必ずあなたのものとなります』と。繰り返しイメージすることで、潜在意識に願望が刻み込まれ、それが叶うのです」
「なるほど」
「ただし、もちろんただイメージしただけではうまくいきません。『マーフィー理論』は、潜在意識の活用のほかに、努力と行動があってこそ意味をなすものです」
「大切ですね」
「これは40年以上前の話ですが、当時30代だった私にとって、ヨーロッパは憧れの場所だったのです。どうしてもヨーロッパへ行きたい、行くんだと願いながら、働いていました。そして、時間があれば羽田空港に通いました」
「羽田空港に?」
「国際線ターミナルで、自分がその階段を登って行く姿を何度もイメージしたんです。そしたらね・・・」
「そしたら?」
「クジ引きで、特賞が当たったんですよ。ヨーロッパ15日間の旅行券でした。夢が叶ったんです」
「えーすごい!」
「あなたはこの話を、『単なる偶然』と思いますか?」
「思わないです。きっとそれは、潜在意識が引き寄せた、意図的な偶然なんだと思います」
「そうでしょう。『マーフィー理論』は、成功者に共通する考え方です」
「面白いですね」
「中村さんの次の夢も、壮大なチャレンジですね。でもあなたなら、きっと実現できるでしょう。今後のご活躍を楽しみにしていますよ」