台南紀行(1)台湾グルメの真髄、本場の小吃を食べまくる!
2017年11月。台北から台湾一周自転車旅をスタートして3日目の夜、ぼくは台湾中部の嘉義という街のカフェでコーヒーを飲みながら日記を書いていた。「秘密基地」という名の店だった。
ブログを更新後、オーナー夫妻に旅の話をしていたら、「台南ではどこに泊まるの?」と聞かれた。
「まだ決めていません」
「私たちの友人が台南でゲストハウスを経営しているから、そこに泊まりなさいよ!」
はしゃぐ夫人のすぐ後ろで、オーナーは考える暇も与えてくれない。「今、自転車で旅している日本人がうちの店にいるんだけど、明日は空いてる?」と早速電話をかけているのだ。
「OKです。予約しておきました。450元(当時のレートで約1700円)でいいって」
「良かったわね!」
勝手に宿泊先を決められてしまって内心戸惑ったが、笑顔いっぱいの2人を見たら、まったく憎めないのである。こんなに純粋な親切心は、ぼくにとって新鮮だった。
「ありがとう、楽しみだよ」
(なるほど、これが台湾か)
あの夜、ほほえみながら宿へと歩いた暗い帰り道が、台湾の印象としてなぜか今も強く焼き付いている。
台北から新幹線で台南へ
7年ぶりに台湾を訪れることになった。
その旅の舞台こそ、南部の古都・台南である。
早朝7時55分に羽田空港を飛び立ったチャイナエアライン223便は、10時35分に台北の松山空港に到着した。日本と台湾では時差が1時間あるため、飛行時間はおよそ3時間40分。機内食を取り、これから訪れる台南のガイドブックを読んでいたら、あっという間に着いてしまった。台北は石垣島から約270kmの位置にある。
少し前に愛媛県の松山空港を訪ねていたから余計に混乱してしまうが、台北の空港も松山空港と言う。漢字は一緒だけど、発音は「ソンシャン」である。
松山空港は羽田のように都心近くのため、着陸時は高層ビルが間近に見えて迫力がある。台北のランドマークである「台北101」も窓からよく見えた。
空港から台北駅へ移動し、台湾高速鉄道(台湾新幹線。略して「高鉄」とも)に乗車する。2007年に開業した高鉄は、日本の新幹線システムが初めて海外に輸出されたものとして有名だ。だから車両は日本の新幹線と非常に似ていて、遅延もほとんどないから安心して乗れる。
また、日本と同じように台湾でも駅弁が有名で、駅構内だけでなく、車内販売では高鉄限定の弁当も買える。
自転車旅のときは台南まで4日かかったが、高鉄では1時間半〜2時間程度で到着する。ただし途中で北回帰線を越えるため、気候は亜熱帯から熱帯に変わる。植物の様相もどこか南国感がある。
台南は前回の旅でも2泊して、それなりに観光も楽しんだつもりだった。しかし今回はまったく知らなかった場所をたくさん訪れることができ、食・歴史・自然・新スポットと各方面で台南の奥深さを知る機会になった。
そのディープな経験を、テーマごとに紹介していきたい。まずは「台南グルメ」について語ろう。
小吃のハシゴが止まらない!
・牛肉湯
台南は台湾の中でもとりわけ食文化が豊かな街で、「小吃(シャオチー)」が豊富にあることで知られている。
小吃とは、屋台やお店で食べられる一品料理のことで、日本のB級グルメ的なイメージに近い。ただし、量は小皿サイズでやや少なめ。それゆえたくさんの小吃をハシゴすることが台南の旅の醍醐味とも言える。
台南における名物料理のひとつが牛肉湯(ニュウロウタン)だ。
牛肉湯のお店は無数にあるが、今回訪れたのは「牛家荘」。店の外まで客で溢れ、人気店であることがすぐにわかる。そしてローカルな雰囲気も良い。
店内に入ると、あるのはテーブルと椅子だけ。厨房が外にあるのが台湾らしい。日本でこういうお店は見かけないが、台湾ではごく一般的な店のつくりである。
注文の仕方もおもしろい。と言ってもこれも台湾の飲食店ではごく普通のことだが、メニューが書かれた用紙にペンでチェックする方式なのだ。量やトッピングについてもチェックする欄がある。アナログだけど、合理的である。
一枚の小さな紙に全メニューが載っていて、ぼくなどはメニューを眺めるだけでおもしろい。漢字からなんとなく想像できるものもあれば、全然わからないものもある。
よくよく考えると、たった数文字の漢字だけで料理を表現できるのもすごいことだ。たとえば「青椒肉絲」や「麻婆豆腐」という文字を見れば、日本人でも料理の絵が頭に浮かぶ。でもたった4文字しか使われていない。漢字ってすごい。日本のファミレスでメニューを開けば、漢字、ひらがな、カタカナが混同する10文字以上のメニュー名も多い。「半熟卵のミラノ風ドリア」とか「海老とココナッツミルクの情熱レッドカレー」のように。
さて、初めて食べる牛肉湯。メニュー名は「招牌牛肉湯」で、小が110元。約500円(1元=4.55円で計算)である。「招牌」は看板メニューという意味。
新鮮な牛肉のスライスを、スープにくぐらせただけのシンプルな料理だが、なかなかにうまい。店によって肉の部位や厚みが異なるようだ。
溶き卵入りの牛肉湯(牛蛋牛肉湯)もあり、この店ならではの名物だとか。うん、おいしい。
「芥藍(カイラン)」という日本ではあまり見かけない野菜と牛肉の炒めなども食べた。独特の風味とシャキシャキとした食感が特徴で、ごはんが進む。
人気の店で食べられて嬉しい。ぼくはすっかり牛肉湯にハマってしまい、ホテル(クラウンプラザ台南)の朝食で2杯も食べてしまった。台南市民にとっても、牛肉湯は朝に食べる小吃として一般的なようだ。
牛肉湯のお店がこれだけひしめき合っている理由は、台南郊外の善化という町に牛肉の卸売り市場があり、そこから新鮮な牛肉が毎日運ばれてくるためだそう。
・担仔麺
台南発祥の小吃である担仔麺(タンツーメン)も欠かせない。海老から出汁を取ったスープの麺料理で、肉そぼろがのせられている。
1895年創業の「度小月」は、ガイドブックにも必ず載っている有名なお店。
店の入り口近くで、担仔麺を作る様子を眺められるのもおもしろい。麺もスープもクオリティが高く、とてもおいしかった。
さらに「水蓮」という野菜の炒めものも食べた。日本人にとっては珍しい野菜。シャキシャキした食感が癖になる。
・米粿
「保安路(パオアンルー)」と呼ばれるグルメストリートは、台南市内でもとくに地元住民イチオシの店が軒を連ねている。
その保安路にある「阿文米粿」は、2023年度からミシュランのビブグルマンにも選ばれてる有名店。ビブグルマンは、「価格以上の満足感が得られる料理を提供する店」のこと。
看板メニューは、大根もちのようなお餅に、千切りたけのこの肉あんかけがかかっている小吃。お餅も最高だし、このタレもまた抜群においしい。
・鍋燒意麵
同じく保安路にある「醇涎坊鍋燒意麵」は、台湾式鍋焼きうどんのお店。と紹介されたが、実際にその看板メニューである「鍋燒意麵」を食べてみると、なんとも覚えのある味。
「緑のたぬき」の味にそっくりだ! あまりに似ていて笑ってしまったけど、とてもおいしい。きちんと調理された健康的な「緑のたぬき」と思えば全然悪くない。割とボリュームのある小サイズで60元(約275円)だからとてもお得。白身魚の天ぷらをつけるとプラス30元。早くもまた食べたくなっている。
・蚵嗲と蚵仔麺線
「青鯤鯓(チンクンシェン)」というエリアは台南市内から30kmほど北に位置するため、観光客が気軽に訪れられる場所ではないのだが、観光の合間に訪れた「青鯤鯓古早味蚵嗲」というローカルなお店もまた素晴らしかったのでご紹介したい。
この「青鯤鯓」は牡蠣の産地のため、「蚵嗲(オーテェ)」という牡蠣のかき揚げが有名。ほかに海老やイカのかき揚げもあった。店の入り口の横でおばちゃんたちがジュージュー揚げているので、食欲をそそられる。
ただ、ぼくは蚵嗲よりも、この店で食べた「蚵仔麺線」という牡蠣の麺線(台湾の麺料理)が最高においしかった。前回訪れたときも含め、これまで台湾で食べたなかでもいちばんおいしいと感じた料理だ。焦がし葱の入ったスープが素晴らしく、最後まで飲み干してしまった。
また、「野生赤嘴湯」というスープも、貝出汁が非常に良い味でおいしかった。生姜のスライスも良い仕事をする。
このお店の近くには、「生命の樹」という巨大なモニュメントがあるので、せっかくなら記念写真を撮ってほしい。
イチ押しのナイトスポットや絶品スイーツ
・バー
お酒が好きな方には、2024年度の「アジアのベストバー50」に選ばれている「The Han-Jia Pairing Dinner(酣呷餐酒)」もお勧めしたい。天井が高く、おしゃれな空間が広がる。
期間限定メニューではあったが、映画をテーマにしたカクテルがあった。
試しに「タイタニック」を頼むと、冷たい海に氷山が浮かぶ、まさにタイタニックを連想させるカクテルが出てきた。味もおいしいのだから見事なものだ。
同行者が頼んだ「ミッション・インポッシブル」は、なんと手錠付き。こちらもシリーズ最新作のシーンを思い出させる。手錠でグラスとつながれて、飲み干すまで鍵を開けてもらえないシステムになっている。
さらに、サプライズで出てきたのが、ぼくの顔がプリントされたカクテル。これには驚いた。粋な計らいだ。
モッツァレラチーズのフライ、海老のアヒージョ、フライドポテト、ティラミスなど、料理も全部おいしかった。
・フルーツ&かき氷
「莉莉水果店」は1947年創業のフルーツ専門店。スイカ、スターフルーツ、グレープフルーツ、バナナ、りんごなどがのった練乳かき氷(水果牛乳冰)を食べた。75元だから約340円。
旬のドラゴンフルーツも食べられた。甘味が少ないため、砂糖が添えられている。
また、意外な名物である、しょうゆ、甘草(甘味料)、しょうがのタレをつけて食べるトマト(蕃茄)も味わった。台南市の観光親善大使を務める一青妙さんの著書『わたしの台南』でも紹介されていたので、気になっていた。悪くない。
いつ訪ねてもカットしたばかりの新鮮なフルーツを味わえることが人気の秘密で、それゆえに競争の激しい台湾の飲食店においても、これだけ長くお店が続いているのだろう。
・豆花
大好きな台湾スイーツの「豆花」は、「同記安平豆花」という有名店で味わえた。
以前、初めて台湾を訪ねたときにハマって、自転車旅の途中でも何度かお店を探して食べた。
豆乳を豆腐のように固めたもので、そこに甘い汁がかかり、小豆、緑豆、タピオカなどをトッピングする。これで50元だから、300円もしない。台湾に来たら、一度は味わいたいスイーツである。
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滞在中は食べてばかりでなかなか胃が休まらなかったのだけど、不思議なもので、日本に帰ってきてから早くも小吃の味が恋しくなっている。
またあのお店で牛肉湯を食べたいし、今度は別のお店でも試してみたい。同様のことが担仔麺や海鮮料理などについても言える。さらに今回味わえなかった名物も多い。
次回はもっと胃袋を鍛えてから臨み、台湾グルメを食べ尽くしたい。