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mid90sを観た

映画「mid90s」を観ました。

あらすじ
1990年代半ばのロサンゼルス、シングルマザーの家庭で育った13歳の少年スティーヴィーは力の強い兄に負けてばかりで、早く大きくなって見返してやりたいと願っていた。そんなある日、街のスケートボードショップに出入りする少年たちと知り合ったスティーヴィーは、驚くほど自由で格好良い彼らに憧れを抱き、近づこうとするが……。

マジで全く観ないタイプの映画だったのだが友人達が「面白いヨ!」と言っていたし、A24はムーンライト(観てない)とかレディー・バード(観てない)とかミッドサマー(観てない)とか割と有名で評判の良い映画を出しているし、つまらなくは無いだろうということで観に行きました。

「つらいよ〜…」

この映画を観てそう思いました。

細やかな解説は様々なサイトに書いてあるので、私は個人的な感想を書き連ねようと思います。これから書く事には若干のネタバレ含むので「観てねぇよ!!!」という人は気をつけてください。

めちゃくちゃつらい序盤

この映画、スタートから真ん中まで結構つらかった。

まず最初に「ひとつの環境しか知らない主人公」につらさを覚えた。シングルマザーで干渉してくる母親、力で勝てない兄に殴られる。イライラしても逃げれる場所を知らないとか。13歳という多感な時期は大人になりたいみたいな自我がどんどん芽を出してくる時期。「なんかつまらないな」と思うけど打開策がないもどかしさが伝わって来てつらい。

そんなある日、スケートボードショップの前でたむろしている少年達を見かけたスティーヴィーは「近づきたい」と思うわけです。イキってる、ちょい悪な自分より少し大きな子達に羨望のまなざしを向けるのですが、そのスケートボードショップに入るシーンもつらい。確実にアウェーなんだよ。過干渉なママに育てられ、門限もあるようなスティーヴィーがスケボーをやってるイケイケな子達がいる場所にいるアウェー感。そんな空気感も伝わってすごい自分はつらかったです。

ルーベンという割と歳の近そうな子にタバコをもらってむせた後「吸うけど、コレじゃない」という嘘。可愛いなと思うより、「そういう嘘…ついてしまうよね…バレてんのに…」とまたつらくなりました。ずっとつらい…。そういう気持ちになりやすい人は気をつけてください。

主人公スティーヴィーが凄い

個人的につらかった序盤のシーンでアウェー感満載な場所にスティーヴィーは飛び込んでいける、そして仲間の1人となる。これがまず凄い。私がもしあの少年達を見かけて憧れを抱いたとしても多分飛び込む事はできないな…。それくらい自分はもっと他の世界に行きたいと思う力が強かったんでしょうな。

できない事もやってみてしまう。

これもスティーヴィーがすごいと思う理由。建物の屋根にある穴をスケボーでジャンプする場面。上手な子達はなんなくクリアし、まだまだな子は飛ばずに止まり「意気地なしだな!」とヤジが飛ぶ。けどスティーヴィーはできないのに挑戦してしまう。まさかスティーヴィーがジャンプするとは誰も思っておらず、「スピードが足りない!」と少年達が叫ぶも(実際マジで遅い)案の定穴に落ちます。

下のテーブルのような場所に落ちて倒れているスティーヴィーに仲間達は急いで駆け寄っていきます。その内の一人が「大丈夫か?」と聞いたら「大丈夫」と返す。頭から血が流れてるのに。そんなできもしないのに挑戦してみて「大丈夫」と言ってみるという大胆さは、10代だからできることなんでしょうか。自分が10代でもできないかも…。勇気と行動力が凄い。変わりたいって熱量はこのくらいないとダメなのかもと思ったりして。

少年達が優しい

この映画に登場するスティーヴィーの仲間達が優しい。これはいわゆるオタクがSNSで言う「本物のギャルは陰キャにも優しい」と似たフィクション的優しさを感じるが、一番幼いスティーヴィーに優しいし、あと格好いい。ぶっちゃけ付き合いたい。観ないタイプの映画でしたが、観た価値ありました。

いつかはすべて過去になる日が来る

この映画でのスケボーはそれぞれの「逃げ場」になっている。少年達の中には靴下が買えないほど貧乏な子がいたり、親から暴力をふるわれたりする子がいたりと、置かれている環境から開放されるのが「スケボー」と「つるむ仲間達」である。そんな仲間達とやんちゃな事をして日々を生きている。

「俺たちは自由」だと言わんばかりに

子ども達だけで乗る車、頑張って何かを成し遂げるのはダサと思う、何人の女とヤった、飲酒喫煙、調子に乗って格好付けることが大事で…俺らは自由でどんな選択肢だってあると。

でもそれはいつか終わる物だと私は知っている。

映画の中で誰かがスケボーのプロに声をかけられるのを快く思ってない奴がいる。新品のイかしたスケボーをタダでもらえる奴がいて気に食わないでいる。それは「同じだと思っていたのに」という気持ちから、すなわち嫉妬だ。自分と同じで、気が合っているはずなのに、同じレベルのはずなのに、なんで?って。

この少年達はいつしかスケボーショップにたむろしなくなるだろう。毎日顔を合わせる事もいずれ無くなる。誰かがスケボープロになる事もないかもしれない。「映画を撮りたい」と話している男の子もきっと作品なんてできないままなんとなく時が過ぎていくだろう。

だから若かった日々がより輝いて見える。

「映画を撮りたいんだ」と話している男の子が最後のシーンで、撮りためていたビデオをみんなにみせるシーンがある。そのビデオの中には普通のことしかない。スケボーで走った道路、遊んだパーティー、いつものレストランや練習場、車の中。たったそれだけなのに、青春が詰まっている。いつか過去になるとわかっていても、その青春がずっと続いてほしいと思うほど輝いている映像だった。それも含めてこの映画はつらいのです。つらい…。

ヘラヘラ笑って悩みなんてないように見えても繊細に傷ついてしまう気持ちとか、大人になってみればそんなに反抗することないのにと思うことですら、10代の子達には大事で…。どの年代でもそれは変わらないね。90年代というフィルターがあるから余計にそれが伝わってくるのかなと。

雰囲気と感覚を再現するため全編1995年製の16mmフィルムで撮影されていたり、時代を象徴するようなアイテムが出てきたり、音楽もニルヴァーナ、ピクシーズ、モリッシー、ア・トライブ・コールド・クエストなどの当時のヒット曲で構成されているので、時代の風も感じれる映画だ。

なんで兄とスティーヴィーは上手くいかないのか、母親は過干渉なのか、どうして反抗したくなるのか、それぞれの人物に色々な背景があって、気持ちがあって、そのどれもが伝わってくる映画だと思うのでオススメだし、変わりたいと思う気持ちってできないこともできてしまう強さになるということを13歳のスティーヴィーから教えられた気がします。

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