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何故株主資本主義を変えなければいけないのか。X-Regulationのパーパス。

この記事では、株主資本主義の弊害を論じながら、X-Regulationのパーパス「ステークホルダー資本主義の確立を通じて、持続可能な人類社会を実現する。」を紹介します。


現代史を少しだけ振り返る

本題に入る前に、少しだけ現代史を振り返りましょう。

人類の暗黒と進歩の歴史

20世紀前半は、巨大な暴力装置が人々の命を無差別に奪う世界大戦の時代でした。近代国民国家・帝国主義・技術発展の矛盾が解消されないまま、大きなうねりとなって個人の実存に介入しました。究極の暴力の時代はたった80~110年前の出来事です。

この時代の惨劇を受け、人類が「世界人権宣言」を採択したのは1948年です。一人ひとりは生まれながらにして何人たりとも侵すことのできない人権を持つ。そんな当たり前の事が採択されたのは、たったの76年前です。

戦後日本は繁栄しました。世界中で冷戦の代理戦争が起こりましたが、日本は核の傘の元、平和の恩恵を享受することができたのです。しかし、経済成長の裏で環境問題等は軽視され、たくさんの個人が公害によって苦しめられたのもまた事実です。

雇用における男女の平等な機会が建前としてようやく認められるようになったのが1985年、たったの40年前です。しかし、実際はまだまだ不平等が残っています。

2008年のリーマンショックでは、信用力が無い低所得者に強引に貸し出したサブプライムローンを、住宅ローン担保証券という金融商品に合成し、過剰なレバレッジを効かせたことで金融市場が焦げつき、一部の人が儲けて、多くの一般市民が消費の冷え込みのツケを払いました。こうした事態を防ぐためにバーゼルⅢという自己資本規制が2010年に制定されました。

社会は非常に未成熟だが、先人が少しずつ良くしてきた。

ここで私が述べたいのは、私たちの社会システムは非常に未成熟であるということです。たったの数十年前でも信じ難い常識があり、多くの人々が明示的・非明示的に抑圧されてきました。2024年という今も、50年後の未来から見たら随分とひどい、抑圧的な世界なのだと思います。

しかし、同時に、現代の社会は(少なくとも日本では)100年前より遥かに良く、15年前より幾分まともです。何故なら過去の一人ひとりが、世の中を良くする努力をしてきたからです。であるならば、私たちの努力は未来の世界を良くすることができるし、また世界を良くする努力をすべきなのです。

株主資本主義というシステムとその弊害(モンサントの例)

では、X-Regulationはどの方向から世界を良くする努力をするのでしょうか。それはズバリ株主資本主義の変革です。株主資本主義は、株主利益を最大化するために経済活動を行うという社会思想とそれらを支える一連の社会システムです。人類社会の発展に大きく寄与しましたが多くの弊害もあります。弊害を論ずるにあたっては、モンサントという悪名高い例を考えることにします。

バイオ化学メーカー「モンサント」

モンサントは、作物がたくさんとれる種子を数多く開発したアメリカの多国籍バイオ化学メーカーです。モンサントにとって「作物が沢山とれる種子」が模倣されると商売が成り立たなくなるので、遺伝子改変技術である「ターミネーター技術」を用いて、「作物はとれるが次の世代の種子は取れない種子」を開発し、その種子を農家に販売しました。

モンサントは当該種子の販売と並行して、特許権と弁護団を駆使し、農家に対する法的訴訟を繰り返しました。農家はモンサントのような巨大企業と法廷で争うような体力がないため、例え不利な条件でも多くの場合モンサントの主張を受け入れざるを得ません。これにより、農家は毎シーズン新たな種子をモンサントから購入せざるを得なくなりました。

単純化したストーリーではありますが、大まかにはこのような手法により、モンサントは種子の世界シェアの約26%を握るに至りました。非常に強力なストック型ビジネスモデルを背景にしながら、ラウンドアップという超強力な除草剤販売(モンサントの遺伝子改良種子以外はとても耐えられないような強力さ)も通じて、2014年には約158億ドルの売上高、約41億ドルの営業利益を稼ぎ出しました。

さて、この売上高と営業利益は正当なものと言えるでしょうか。私にはそうは思えません。遺伝子改良技術により作物の生産量を高めたという功績はたしかです。しかし、41億ドルの営業利益は、特許権訴訟により拡大させた農家の経済的苦境、種子や農業技術に対する過ぎたアクセス制限、強力な除草剤による水系・生態系の汚染等を代償にし、多くのコミュニティにコストを支払わせた末の利益だと思います。ステークホルダーや未来に代償を支払わせ現在の利益に変換する。これは利益ではなく収奪あるいは前借です。

株主資本主義の病理

これこそが正に問題なのです。モンサントは財務諸表的には大変優良なカテゴリーに入りますので、資本市場では高い評価を受けることになります。株主資本主義では毎年発行される財務報告にて開示される売上高、営業利益等が重視され、その数値の裏側にある見えないコストは考慮されません。言い換えれば、資本市場の仕組みとして「良いこと・正しいことをする」よりも「多少悪くても儲かることをする」ことが構造的に推奨されているのです。これが現在の市場の現実です。

これは30年前の話ではありません。たった10年前の話です。同じようなことは現在でも起きており、巨大な時価総額という形で評価され続けているのです。このような構造の中では人類社会の持続的かつ包括的な発展は叶わない。だから、株主資本主義を変えなければならない。それが私の意見です。

ではどうするのか?X-Regulationが目指すステークホルダー資本主義の確立

株主資本主義に問題を感じるのは、私たちだけではありません。世界中で、株主だけではなく、より広範なコミュニティ、環境、未来、つまりステークホルダーの利益が正当に考慮される資本市場を作ろうというムーブメントが起きています。こうした意見、ムーブメントが総称とされ、ある種の社会思想となっているのが「ステークホルダー資本主義」です。

ステークホルダー資本主義への試み

思想を支える社会システムは未だ完成とは言い難いですが、試みはいくつかあります。市場での評価という意味で最も直接的な枠組みにインパクト会計があります。環境や人的資本への影響を会計数値に反映させる仕組みであり、研究段階です。また、統合報告の枠組みやサステナビリティ開示等もその一端を担います。サステナビリティ開示はEUのCSRD規則、日本の開示義務等、義務として拡がってきています。50年後の未来を良くするために、現在の株主資本主義の弊害に向き合い、ステークホルダー資本主義を確立しなければいけない。そう考えている人が世界中に存在するのです(付随する実務的な問題もたくさんあるのですが、当記事では触れないこととします)。

しかし、「多少悪いことをした方がもっと儲かる」のだとしたら、人は「多少悪いこと」を辞めて生きることが出来るのでしょうか?一部の人が高尚な考え方によって素晴らしい枠組みを作ったとして、それを迂回する人の方が多いのではないでしょうか?そもそも善悪の基準はそう一辺倒に決められるものなのでしょうか?ステークホルダー資本主義のような理想論は実現可能なのでしょうか?考え始めるとキリがない、社会哲学の領分です。

100円のコーヒーと500円のコーヒー

私のスタンスとしては、人の集合体である社会に対して善悪の判断を求めるのは現実的ではないと思っています。「100億円儲かるが誰かが傷つく」選択肢Aと、「20億円儲かり皆がハッピーになる」選択肢Bがあったとして、大概の企業は善悪の判断に関わらず、現在の法的枠組みに反さない限り、理由をつけてAを選ぶでしょう。もっと言えば、とても美味しいが、「生産者が低賃金で教育も受けられないようなサプライチェーンを持つ100円のコーヒー」と、「とても美味しく生産者も正当な利益を得られ社会的チャンスがあるサプライチェーンを持つがフェアトレードで500円のコーヒー」があったとしたら、殆どの人は善悪の判断などせず、100円のコーヒーを買うでしょう。人は強欲で、自身の目に映らないことに対して残酷です。だから、倫理を求めるのではなく、強欲という人間を視野狭窄に陥らせる本性と、社会全体と未来の利益も考えるという広い視点からの利益調整機能を自然に統合したシステムを創る必要があるのです。

誰かをないがしろにして儲けることは市場に評価されず、地域、環境、未来を大切にして儲けることが市場に評価される。「良いことは儲かる」構造を創る。この構造をビジネスを通じて創造しようとするのがX-Regulationです。X-Regulationの存在理由は「ステークホルダー資本主義の確立を通じて、持続可能な人類社会を実現する。」であり、100円のコーヒーと500円のコーヒーでは500円のコーヒーを選びます。そしてその選択の連続と、私たちが創造する金融システムが50年後の未来を創るのだと信じています。

この投稿を通じて、現代資本主義の問題と、ステークホルダー資本主義への興味を少しでも持っていただけた幸いです。

次回は、X-Regulationのビジョン「誠実さが優位性になる世界を創る。」を掘り下げ、私たちがパーパス実現の具体的ステップとして考える、金融スコアリング事業について説明を試みます。その後に、弊社のミッション「すべてのリスク管理コンプライアンス活動をAIトランスフォームする。」に繋げていきたいと思います。

弊社サイトも是非ご覧ください。


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