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引地と北のあいまいなハタチの記憶 #10

「チャレンジ!チャレンジ!チャレンジ!」 INSPi(2012年,2013年,2014年編)

飛び出し、作り続けるINSPi  2012年

2011年末、10周年記念コンサート3days~ありがとうでつながろう~@マウントレーニアホール渋谷プレジャープレジャーを無事終えたINSPi。打ち上げで感極まった杉田に力強すぎるハグをされ、「意外と胸板あついんだなぁ」なんて思って年が明けました。

2/10の北の誕生日当日、名古屋での続10周年ライブ。ワンマンライブがちょうど誕生日にあたるのは、これだけ長いこと歌ってきていてもなかなか訪れない機会です。お祝いしてくれる人がいるのは本当に幸せなこと。お返しするためにも自分にとってステキな一年にしよう!と意気込む間もなく、ステキなお話が次々に舞い込みます。

それまでのこえつながりの活動で、だれと、どこであろうと声をかけてみることにためらいのなくなったINSPi。やりたいことは貯めこまないで口に出さないとね、と思えるようになったのは10年という月日を一歩ずつ歩いてくることができた、そしてこれからも歩けるはず!という自信の表れだったのかもしれません。スタッフともども、各方面に声をかけていくと活動にも動きが出てきます。

INSPi3枚目のシングルでThe BOOMの「風になりたい」をカバー、さらに4枚目のシングルで「ちっぽけなボクにできること」を楽曲提供いただいた宮沢和史さんとのコラボコンサート@新国立劇場。開催が決まったとき、打ち合わせ、リハーサル、本番直前舞台袖などでの大倉の表情は、今でも覚えています。

ふるふると武者震い、こらえきれない涙。長いこと一緒にいますが、大倉の涙を見たのは他にほとんどありません。感謝感動とともに、ただの憧れだけでは済まさない!という決意も感じていました。

INSPiもデビューの時からこれだけの道のりを超えてきた、という自負を持ちながら宮沢さんとのライブを作り上げていきました。当時の音源を聴くと、隠しきれないやる気を感じます。思いは歌声に乗る。当たり前の事実に気が付き、これからも一曲一音ごとに思いを込めなければ、と身が引き締まります。

当時のINSPiのライフワークでもある「気になるアカペラコンサート」もお声掛けあらば全国どこへでも。はじめましての方の前で歌うのはいつも良い緊張感がありました。基本的には決まったセットリストでのコンサートですが、各地での「気になるコンサート」を何度もご覧いただいているINSPiファンの方も、INSPiザ・ベストとも呼べる曲たちとともに、「今日はここのMCをこの地域に寄せてたね!」!みたいな楽しみ方をしてくださっていたのではないでしょうか。

2012年は激動とも呼べる年で、モンゴル・カザフスタン・ウズベキスタン公演を実施したのもこの年でした。日本の代表として国交樹立の周年記念式典に華を添える、日本外交的にも重要な役目をいただいてのコンサートとワークショップです。

㈰モンゴル

モンゴルでは伝統歌唱法ホーミーの第一人者から直々のレッスンを受け、ケースケがそれを体得。ホーミーとは、ひとりで二つの音程を発するという特殊な技です。広い草原でも遠くまで音を響かせられるこの歌唱法は、今でもINSPiライブや作品に活用しています。

ウランバートル国立劇場でのコンサートが終わるとともに舞台袖から楽屋になだれ込むお客様たち。びっくりでしたが、高齢の男性が「恋のバカンス知ってるんだよ!演奏してくれてありがとう!」と興奮気味にメロディを歌って握手を求めてきます。「よくぞご存知で!」と伝わったかどうかはわかりませんが、INSPiからもがっちり握手。ほんの何十秒かの交流でしたが、コンサートを通して日本を楽しんでもらえた実感が湧いた出来事でした。

あと、モンゴルは塩入ミルクティにびっくりしました。

㈪塩ミルクティ

カザフスタン・ウズベキスタンは連続日程での旅。モンゴル公演でもそうしたように、現地の言葉でオリジナル曲「ココロの根っこ」を歌うと、「わかる!わかるよ!伝わってるよ!」とでも表すように、1フレーズごとに拍手が起こります。加藤登紀子さんが日本語でカバーした「百万本のバラ」もINSPiバージョンで披露。この曲はもともとラトビア・ロシアの歌謡曲ですので、カザフ・ウズベクでもご存知の方は多くこちらでも「知ってる!知ってる!」と喜んでいただけた様子。

㈫ウズベク

あと、カザフではベシュバルマック(羊肉の塩煮)、ウズベクではラグマン(ラーメンのような麺料理)が美味しかったです。

㈬ベシュバルマック

海外公演を通じていつも思うのは、「歌うとほんの一瞬で近くなれる」ということ。お互いの言葉だけ聞いても、その言語を習得していなければ伝えられることは少なくなってしまうでしょう。でも、歌を歌うだけで、敵意のないこと、仲良くなりたい事、歌う側が今どんな気持ちでいるのか、聴く側にどんな気持ちになって欲しいのか、などなど、たくさんの思いが伝わります。

海外公演を重ね、ステージに立つ喜びと責任感をまたひとつ得たINSPi。日本のココロ歌というアルバムにその思いを結実させます。

ホールを貸切っての一発録り。海外公演時に日本を紹介するためにカバーアレンジして歌いなれている曲も多かったとはいえ、レコーディングは緊張の連続。何しろ一回でもミスしたら最初から録りなおしですから。ひとつのマイクに向かってそれぞれの声量と距離感をはかりながら、ああでもないこうでもないと試行錯誤。無事全曲を録り終わった後はメンバー全員ヘロヘロでした。

㈭ココロ歌

海外へも気軽に発信できるかも!とYouTubeでの作品公開をスタートさせたのもこのころです。最初のシリーズ物「日本のココロ歌100選」は現在5分の1くらいですが、まだまだ続く長いINSPi人生、この先もぽつぽつと撮りだすこともあるかもしれません。首を長くして楽しみにしておいていただければと思います。

チャレンジ!チャレンジ!INSPi 2013年

海外公演はINSPiにとっての武者修行でもありました。海外を旅することは単純に楽しい面も多々ありますが、生まれ育った日本を強く意識し、人とは?人とのつながりとは?自分たちにできることは?己がINSPiにしっかり向き合い、できることを探していきます。

アカペラ落語の会は、できることを探して見つけたチャレンジのひとつ。立川談慶師匠とアカペラ×落語の会を開催したのはこの年でした。アカペラも落語も、身体ひとつでステージに立ち、情景を描いていく。談慶師匠は「丸腰の強さ」と表現されていましたが、何も持っていないからこその弱みを強みに変える。噺と歌にひきこまれ、大笑いや涙を流す方を見て、アカペラってやっぱり良いなぁと実感しました。

コンサートでは昨年より続けてきたクラシックホールコンサートシリーズを開催。ハーモニーをより美味しく召し上がっていただくためのシリーズで、INSPiが大人の階段をひとつずつのぼっていく様を目の当たりにした方もいらっしゃるでしょう。いつも身の引き締まる思い。このコンサートでは杉田の一人旅から生まれた曲も演奏しました。

㈮サントリーホール春チラシ2

この当時のINSPi活動計画書がPCに残っています。各メンバーが個々の動きで多方面に働きかけそれをINSPiとしての作品作りに集約する、という目標が掲げられています。

それまではとにかくなにがなんでもINSPiがすべて。足りない部分を補い合うことがバンドとしての力を生むのだ!というスタイルで活動してきた部分がありました。しかし様々なチャレンジを通して各々が個人の力の可能性を感じ始めていたのでしょう。「INSPiはもっといろいろなことができる。」そういう思いが活動計画書に詰まっています。

9月にはメキシコでの公演。メキシコはなぜかとにかく陽気なイメージですが、コンサートやワークショップを通じて交流していくと、そればかりではない事がよくわかります。ひとりひとりがなにかしら問題や悩みを抱えている。だからこそ、楽しむときは楽しむ!メキシコではそれができる人が多いから陽気なイメージがあるのかもしれません。コンサートという機会を作っていくのがINSPiの使命のひとつ。そう思い始めたのはこのころのことです。

北はいわた茶PR大使として、メキシコの皆様に緑茶を振舞う機会をいただいたりもして、個々人活動が少しずつ動き出す兆候が見えます。

この時の縁でなんとメキシコの雑誌で連載を持つことになりました。ミュージシャンとして日本文化の今を紹介するコーナーで、なんとその後4年間ほど続くことに。日本に住みながらもいったことのない観光名所を訪れる良い機会。美味しいものもいっぱい食べたなぁ。

あ、メキシコで美味しかったものは、民家の店先で食べたタコスです。もう絶品!

インスピ浪漫2INSPi 2014年

この年INSPiは新たなるチャレンジに取り掛かります。「インスピ浪漫」のその後です。2004年編でお伝えしているアルバム「インスピ浪漫」はどこか懐かしさを感じる旋律や和のテイストを用いて作成され、自分たち自身でも手ごたえを感じていた作品。海外で数々の体験をしてきたINSPiが、改めてその続きを作品として残すなら今だ!

そうして開催されたのは「インスピ浪漫劇場2014」という朗読×アカペラのショーでした。演じることは楽しさもありましたが、不安も大きかった部分。歌のパートに入るとなぜか安心したことを覚えています。海外の各地で体験したエピソードを織り込みつつ、その間に制作を進めてきたINSPiオリジナル新曲。

「かざぐるま」を歌うたびに、いまだに僕は涙が出そうになります。特に大倉の落ちサビ。INSPiで旅してきた風景とその時の自分の思い、幾多の出会いと別れ。それらが一瞬で思い起こされ、コーラスの声が震えないようにするので精一杯。

ステージとCD制作には洋輔さんにも参加してもらい、外側でありちょっと内側とも言える絶妙の距離間で味とまとまりを加えてもらえました。

㈯浪漫2レコーディング風景

音源制作中に決まったブラジル公演。あわただしくレコーディングして、ミックスなどの調整を洋輔さんに丸投げして飛行機に。ブラジルのホテルで聴いた仕上がりに、洋輔さんに頼んでほんと良かった、と思いました。「アカペラ解ってる~!」当たり前ですけどね。

また、この年は白衣姿のINSPiも初登場。「宮川彬良のせたがや音楽研究所」にも参加。音楽を研究しながら楽しむステージで、僕らは研究員として歌いつつとても勉強になったステージです。オープニングのぎこちない研究員ステップ、きっとまたやることになってもきっとぎこちないままなのでしょう。

㉀せたがや

さて、長文となりました今回ですが、なかなか執筆を進められず間があいてしまいごめんなさい。20年分を振り返るとどうしても思いがあふれて手が止まってしまうことがしばしば。次回以降、洋輔さんにはなにか失敗した話でもお聞きしましょう。

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引地洋輔
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