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読書記録:「宿命の子」船橋洋一氏
日本を代表するジャーナリストである船橋洋一さんが執筆された、「宿命の子」を拝読しました。ノンフィクション、調査報道と銘打った一冊です。
著者自ら、「第2次安倍政権の権力中枢の政策決定過程の舞台裏のドラマを検証することを試みた」とあるように、膨大な調査、インタビューを元にした政権中枢の裏側のリアルな様子が、描かれています。
内政に関しては、アベノミクス、天皇退位と改元、パンデミック対応、消費税増税、平和安全法制、森友問題等々。外交に関しては、プーチン、習近平、トランプ、金正恩などの各国の独裁者、リーダー達との歴史的背景を元にした生々しいやり取り、アメリカ・ファースト、自由で開かれたインド太平洋という枠組み、尖閣諸島や慰安婦問題、TPPへ立ち上げの苦労、戦後70年談話等々、膨大かつ丁寧な取材に基づいた、大変大変濃密な内容になっています。
多くの毀誉褒貶があった一方、安倍政権でなければ成し遂げることができなかった数多くの大切なレガシーがあり、その裏には、私には想像もつかなかったような現実、リアリズムが横たわっていました。
また、企業経営者の立場からすると、国のようなステークホルダーの数がとてつもなく多く、複雑な利害関係が絡み合い、何をしても批判されてしまいがちなリーダーは、一体どんな思いで様々な難題に立ち向かっているのか。
また、リーダーとして結果を出すために、どのようにビジョンを描き、そのビジョン実現にむけてチームを組成し、意思決定プロセスとガバナンスを構築し、国全体を運営していくのか、そして、リーダーとしての根幹となる、想い、モチベーションの源泉そのものに非常に興味があるのですが、この本を拝読して、その一端を少しは理解することができたように感じます。
と同時に、安倍元首相は勿論のこと、その周りを支える素晴らしいチームがあってこそ、長期に渡り、素晴らしい実績を残すことができたことは間違いなく、チームの皆さんの国を思う志の高さ、能力の高さ、そして献身さに頭が下がる思いがしました。
一方で、本を拝読していて、昔うまく回っていた仕組みを、時代に応じて変化させていくことの大切さ、そして変化させていくことの難しさも実感します。
直近、誕生したトランプ政権が100以上の大統領令を発し、その評価は勿論色々ありますが、変化のスピードは圧倒的です。この変化のスピードに対応していく、いかざるをえない日本ですが、今の仕組みで太刀打ちできるイメージが全く湧きません。
失われた20年、30年と言われてきましたが、安倍政権を皮切りに、日本はこのままじゃいけない、と、社会の仕組み、プロセス、そして何より若者のマインドセットが変わってきている、変化を求めているように感じます。それは直近の投票の結果を見ていても明らかであり、さらにそのスピードは加速していくようにも感じます。
今までうまくいっていた仕組みも、環境の変化に伴い、陳腐化し機能しなくなっていきます。世界的に見ても、日本の税金(所得税、法人税、相続税など)の高さは、際立っている一方で、この数十年の経済成長を見ると、国民からの税金がうまく成長投資につながっているとは言い難く、多くの改善が必要です。
そして、成長を実現していくには、国頼みにするのではなく、私たち一人ひとりが考え、アクションしていくことが大事だともおもいます。
少し話がずれてしまいましたが、経済力、国力無くして、日本国民の幸せの実現、そして世界に対しての「積極的平和主義」を実現することはできません。
今まさに「地政学的危機と民主主義の危機」の時代であり、「茶色い時代の幕開け」でもあります。直近の情勢を鑑みると、安全はタダではない、我々は、長い歴史上で戦争がなかった奇跡の時代を、たまたま生きてきていただけであることを実感し、危機に臨まなければならない。そして、日本という国家がどうあるべきかという、強い信念を持ちながらも、他国と渡り合えることができる力、信頼、リーダーシップをもたなければならないと感じました。
私自身にとっても、自身のリーダーとしてのあり方について、ステークホルダーやチームメンバーとの関係構築を含め、深く大きな自省と学びをもたらしてくださった傑作でした。
本を読み終わり、安倍さんを失ってしまった損失の大きさを改めて感じていますが、一方で、素晴らしいリーダーは政財界問わず、多く出てきています。これからの日本がより良くなっていくと信じていますし、私自身も少しでも役に立てるよう努めていきたいと思います。
このような素晴らしい本を執筆してくださった船橋さん、関係者の皆様に厚く感謝申し上げます。そして安倍元首相のご冥福を改めてお祈りします。