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続・ChatGPTの衝撃――絶望的に速い世界の中で、笑って前に進む戦略。

5カ月前に「ChatGPTの衝撃」というタイトルのnote記事を出しました。たくさんの方に読んでいただけたようでうれしいです。ありがとうございます。

当時は、ChatGPTが登場したばかりで、どんなものなのか、何ができて、何ができないのか、よくわからなくて、世の中がざわついていた頃。僕も興奮と焦燥が入り混じる感情の中で記事を書いたのを覚えています。

その後、さらに世界は凄まじいスピードで動き続けています。

Generative AI(生成AI)の覇権をとるためのLLM(Large Language Model)プラットフォーム競争が激化。

これまでGoogleが圧倒的優位にあった検索エンジンの勢力図も大きく形を変えるのではないかと言われ始めていて、 Microsoftが新たな覇者になるのか、はたまた違うスタートアップが現れるのか、まだ誰にもわからない状況になっています。

プラットフォームのOS(オペレーティングシステム)競争といえば、振り返れば PCによるWindowsとMacOS、ゲーム業界におけるPlayStation, Xbox, Nintendo、スマートフォンにおけるiOSとAndroid(アプリストアにおけるApp StoreとGoogle Play)など、数年に一度、歴史に残るプラットフォーム競争が起こりましたが、今回もOS競争が再び起こり始めているのかもしれません。

誰が新たな覇者になるか、またLLM自体どんなプラットフォームになっていくか、まだはっきりとわかっていませんが、広範に渡ってビジネスの地殻変動が起きるのはおそらく間違いないですし、ほぼ全ての業界に大きな影響が起こることだと思っています。

本音を言うと、少し悔しい思いもあります。

なぜ、日本のプレイヤーがその話題の中に入れないのか、そして、おこがましいですが、当社もそこに話題の一端にでも入れなかったのかと。

そして、スマートフォンのように、また海外のジャイアント企業のプラットフォームの上での展開を余儀なくされ、色々と不便が発生してしまうのかと。

しかしながら一方で、Microsoftがこれまで1000億円超の投資をして、さらに1.3兆円規模の追加投資も検討しているという報道に触れ、また、新たに生み出しているイノベーションの素晴らしさを実感すると、正直なところ「これはすごいな。正直敵わないな。」と思わざるを得ませんし、イノベーションを起こしていくその創造性とチャレンジ精神に、尊敬を覚えます

大規模な投資によって、さらにサービス開発の回転速度は加速し、5カ月前の衝撃をさらに何倍、何十倍も進化したサービスが、そう遠くない将来に生まれることでしょう。

こちらの図は、あるサービスやプロダクトのユーザー数が5000万人まで到達した年数を示しています。

引用元:FutrColab , "Pace of Change. To hit 50 Million Users."(2023.6.20閲覧)

電話のユーザー数が5000万人に到達するまでかかった時間は50年。ネットサービスで言うと、facebookが3年、 twitterが2年、そしてChatGPTになると、ユーザーが倍の1億人に到達するまでわずか2ヶ月です。

先日、シリコンバレー銀行がたった数日で破綻したことに象徴されるように、昔は何年もかかって起きていたことが、現在だと数日で起きてしまう。

変化のスピードが凄まじく加速していて、ついていくのも大変なほど、絶望的に速い世界の中で、そして、SNSによって情報伝達のスピードが段違いになった時代に、僕たちは生きているのだという思いを強めています。でも、だからこそ面白いですし、飽きないのですが

予測して備えても間に合わないほど、もはや何を備えれば良いか分からないほど速く変化する環境下、かつ、プラットフォームを勝ち取ることが難しい現実の中で、僕たちは何ができるのか?

この変化の本質は何で、自分たちはどうするべきなのか?
どんな価値をユーザーに届けることができるのか?

これが、今自分たちが向き合うべきクエスチョンなのだと思っています。

あまりに深い問いなので簡単に答えは出ないですし、現在進行形で企業秘密的なところも多くあるので、多くを語ることは難しいのですが、ポジティブに受け入れて、とにかく手を実際に動かして、使い倒してみること。そしてボラティリティがある時こそ、チャレンジ精神がありスピードがあるベンチャー企業のチャンスだと思っています。

「こんなに便利になると、人間は考えなくなるのでは?」といったAI脅威論も見られますが、僕はあまりそうは思いません。

電卓が登場したことで、確かに人間の暗算能力は落ちたかもしれませんが、電卓を使ってより複雑な計算ができるようになったように、「今までできたことがより簡単に。さらにこれまでできなかったことまでできるようになる。思考もより早く深くなるのでは」と思います。

それに、テクノロジーの進化は不可逆であり、進化に対して抗うだけムダであり、どう使うかを考えた方が良いと思います。

すでに国内外の多くのプレーヤーが「いかにしてGenerative AIを活用していくか?」と知恵を絞り、実験や実装を次々に始めています。Generative AIが得意なことと、苦手なこともだいぶわかってきました。

当社でもここ1ヶ月で『マネーフォワード クラウド給与』『マネーフォワード Admina』『BOXIL SaaS』において、ChatGPTを利用したサービスをリリースしました(詳細は下記を参照ください)。

僕自身も、Generative AIの最前線を再度学びなおそうと、AIに関する3日間プログラムを受講したり、MIT(マサチューセッツ工科大学)の6週間プログラムにも申し込んでしまいました。

ちなみに全部英語の講義で、忙しいスケジュールの合間を縫っての受講なので、きちんとやり切れるか、極めて不安です。。。

社外取締役の宮澤弦さんから「僕はオックスフォード大のプログラムを受けているよ。辻さんも一緒に勉強しない?」と誘ってもらって、勢いでつい申し込んでしまったので頑張るしかありません。MITのプログラムを一瞬で探し出してくれたのは、もちろん“ChatGPT”です。

いくつになっても、新しい技術をラーニングする姿勢は持ち続けたいですし、純粋に新しいことに触れるのは、楽しいですね。

新しいものに対して前向きに面白がって、すぐに触ってみて「これをどう活用しようか?ユーザーにどんな価値が提供できるだろう?」と試してみる。そんなマインドは、これからの個人と組織の成長にとってより重要になるでしょう。

自画自賛で恐縮ですが、マネーフォワードという会社の「素晴らしいなあ」と思う点の一つは、そんなポジティブマインドが、一人一人に根付いていて、ものづくりのカルチャーに反映されている点です。前述のChatGPTを使った新しいサービスも、そうやって生まれてきました。

また今月は、当社で新卒エンジニア第1号として10年近く活躍してくれて、独立したばかりの丸橋得真さんの会社「Starley」へ出資しました。丸橋得真さんは『マネーフォワード クラウド請求書』の開発や、マネーフォワードケッサイの立ち上げなどにも大活躍してくれました。僕が10年近くお世話になったマネックス証券を退社して独立した時に、応援出資いただいたように、ペイフォワードになればいいなと思っています。かなり独創的な、新時代のAIプロダクトを開発しているそうで、楽しみです。

もう一つ、この5カ月ほどChatGPTの動向に注目しながら、僕がずっと考えてきたテーマについても書き留めておきたいと思います。

そのテーマとは、「ChatGPTはなぜここまで人を魅了するのか」

リリース後わずか2カ月でユーザー数1億人を達成したオバケプロダクトは、背景にある技術自体は決して目新しいものではなかったと言われています。

インターネット上に存在するテキスト情報を収集・分析・整理して、自然なテキストを生成するAI技術は何年も前からすでにあったものと言われています。

では、何がこれほど多くの人に受け入れられ、ユーザー数を伸ばし続けているのか。それは、「ユーザー体験の飛躍的向上」だったのではないかと僕は考えています。

みなさんお気づきの通り、ChatGPTのUXは非常に優れています。問いに対して答えが返ってくるというシンプルな形式ながら、非常に“人間っぽい”のです。

スラスラと文字列が打ち出されているかと思ったら、ちょっと止まってチチチ……と、まるで“考えながらキーボードを打っている”かのように、文字が打ち込まれていく。裏側に人間がいるかのような、その人間が考えながら頑張って対応してくれているような錯覚に陥ります。

しかも、だんだんと学習してやりとりがスムーズになっていくので、自分自身のパーソナルトレーナーのような連帯感も生まれる。実に「情緒的価値」の設計がうまくできているUXだなぁと感心して眺めています。

「情緒的価値」とは、優しさや温かさや不器用さも含めた人間らしさのような、感性に訴える価値のこと。

マネーフォワードにおけるプロダクト開発においても、ユーザーのニーズを満たす「機能的価値」と「情緒的価値」の両輪のバランスをいつも大切にしたいと思っています。

例えば、毎日のお金の収支管理をサポートする『マネーフォワードME』では、給与振り込みの通知に「給料が振り込まれました。お仕事お疲れさまでした!」というメッセージを、給料袋(あえてアナログです)のイラストと共にお送りしたり、自治体の子育て関係の給付金の入金時には「毎日の子育てお疲れさまです!」とお送りしているのですが、ユーザーの皆様からも好評いただいているようです。

どうしても、機能的価値のほうがわかりやすいので、開発の優先順位があがってしまい、情緒的価値の提供が後回しになってしまうのが悩みですが。。。

愛されるプロダクトには、優れた機能と情緒的価値の提供が不可欠なのだという確信もまた、「ChatGPTの爆速普及」で得られた収穫のひとつでもありました。

マネーフォワードには、1400万人以上の『マネーフォワード ME』ユーザー、26万事業者以上の『マネーフォワード クラウド』ユーザーがいらっしゃいます。

Generative AIを活用して、大切なデータを、どうユーザーのみなさまに喜んでもらえる、お役に立てる機能として提供していけるか、大きなやりがいのあるチャレンジだなあと日々考えています。

最後は、仲間募集になって恐縮なのですが、エンジニアの皆さんをはじめ、Generative AIで新しいチャレンジをしたい方々、ぜひ当社にジョインしていただき、一緒にこのワクワクを体験していきましょう!お待ちしています!


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