マネーフォワードがデザインを経営に取り入れる理由
「デザイン」とは-。
様々な概念を包含する「デザイン」という言葉を一言で表すのは非常に難しいですが、デザインとは「物事の本質を見極め、それを様々な手段を用いて、周りの人たちに正しく伝える、そして増幅していくこと」だと考えています。
「デザイン経営」「デザイン思考」をテーマにした雑誌、書籍、ブログ等は既に多く出版されており、改めて僕からお伝えできることは多くはないと思うので、今日は、なぜ僕がデザイン、そしてデザイナーを当社の成長になくてはならない存在と思っているか、という話を、幾つかの事例を紹介しながらさせていただきたいと思います。
恐怖のカードづくりがカルチャーのデザインへ
これは、僕たちが創業期につくった当社の行動指針です。
「Work Hard.」「勝ちきれ、やりきれ。」「ベターで止まるな、ベストを目指せ。」なかなか刺激的で、立ち上げたばかりのベンチャーっぽく体育会系を思わせる言葉が踊っています。
このさらに前のバージョンでは、行動指針3は「Work Hard.そして、家族を不幸せにしない。」でした。起業当時、生きるか死ぬかの時だったころ、凄まじい働き方をしていました。こんな働き方をしていたら「家族を幸せにする」と言いきる勇気がでなくて、せめて「不幸せにしない」と書こうという情けない発想でした(苦笑)。今や、冗談、笑いのネタになっていますが、当時はそれなりに真剣に考えて、自分たちが守れると思えるギリギリの線を選んでの言葉でした(笑)。
僕は今から5年前にこの行動指針をカードにして、みんなに配ろうとしました。(今思うと、社長から「Work Hard.」と書いたカードを渡されるなんて恐ろしすぎますね…)
そして、のちに僕の「右脳派」師匠となるデザイナー(※)の金井さんにカードの制作をお願いしました。その結果が、当社のMVVC(Mission Vision Value Culture)の策定に繋がります。
僕が当初お願いしたのは、あくまでカードのビジュアル面のデザインでした。会社のみんながいつも持っていたいと思うような、ポケットに入るような「すてきなカードにしておいて」と。でも金井さんは、その仕事を、カードではなくカルチャー自体をデザインするという仕事に昇華してくれました。
振返ると「デザイン思考」を僕が初めて明確に認識したのはこのときだったかもしれません。
ビジュアル面のデザインをするためには、まずコンセプトが必要であり、デザイナーはまずコンセプトをつくるところから始めます。
コンセプトをつくるためには、なぜやるのか、誰に何を届けたいのか、という本質的な問いを投げかけ、答えを出していく必要があります。
金井さんは「行動指針をカードにして配布したい」という僕の背景にある想いや考えを抽出し、それをよりメンバーのみんなに伝わる形にしてくれたんだと振り返って思います。
MVVCは、今に至るまでマネーフォワードの経営と文化を支える軸となっています。あのとき、カードの制作を金井さんにお願いしていなかったら、今のような会社にはなっていなかったのではないでしょうか。
この体験から、僕は経営におけるデザインの重要性を強く意識するようになりました。
※ Forbes JAPAN「マネーフォワード辻庸介CEOが経営を学ぶ「右脳派」師匠 #新しい師弟関係 」
デザインは壁の色ではなく、人の心も塗り替える
その後も今に至るまで、会社として取り組んでいる「経営におけるデザインの取り組み」は数えきれないほどありますが、その一つである本社オフィスのデザインは、僕の印象に残っている取り組みの一つです。
本社オフィスのデザインのコンセプトは『Let's make it !(共に創り、実現しよう!)』と決め、コンセプトに沿って、本当にみんなで壁の色を塗ることからはじめました。
素人の僕たちが塗った壁は今も色ムラが残ります。工事中で何もないオフィスに入って、真っ白の壁に色を塗っていく作業は、子どもの頃いたずらをしたときのようなドキドキ感とわくわく感があってすごく盛り上がりました。楽しかったな~!
このコンセプトを体現する「経験」がデザインされたことによって、カルチャーがさらに浸透、醸成されたように思います。オフィス移転後、あきらかに、会社の雰囲気が明るくなったのは壁の色のせいだけではないはずです。
デザインをもっと上流へ
昨年9月に、当社はCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)をという役職を設け、セルジオさんがこの重職を担ってくれています。彼以上に適任はいないと、業務委託として手伝ってくれていたセルジオさんを、ここ数年「うちにきてくれないか」としつこく僕やメンバーたちがお願いし続けていました。
経営やビジネスに対する知見が深く、組織戦略の設計や人材マネジメントまでできるデザイナーは非常に希少です。
セルジオさんは「デザインを経営の土台として、積極的に取り入れ、進化しようとしている企業」として、当社に興味をもってくれ、最終的にはジョインしてくれました。
セルジオさんがCDO就任後、元々素晴らしかったデザインチームですが、さらに進化すると共に、社内の議論に対するアプローチの仕方さえも、デザイン的なアプローチが取り入れられ、様々なサービスのリリースの実現にもつながっています。
今の僕の頭の中をデザインすると…
これは、先日、僕の妄想についてワーッと2時間くらい話をしていたら、「それってこんなイメージですか?」とセルジオさんが描いてくれた図です。
詳細はお見せできないのですが、僕の2時間分の話をテキストで書き起こしても、この図のような世界観は伝わらないと思います。僕の話を元に、「事業は生き物のように成長していく」というイメージで有機的なグラフィックになっているそう。
僕は、iPhoneのようにイノベーションによって人生を前に進めるプロダクトをつくりたいと本気で思っています。マネーフォワードグループのサービスに触れていただくすべての人に対して、心地よい体験を届けたい。
そのためにはデザイン思考、デザイン的なアプローチを取り入れること、そしてそのデザインの力を最大化するためにも更に上流、経営レベルでデザインを組み込んでいくことが不可欠だと思っています。
当社のプロダクトはまだまだ目指す理想のプロダクトには遠いし、その実現には時間を要するでしょう。それでも、デザインが社内で浸透するにつれて、少しずつですが、その実現に近づいていっている実感があります。まだまだ未熟ですが、目指す世界に向けて、経営者としても、様々な物事の本質を見極め、それをあるべき方向に進めていける、そのような経営者になっていきたいと思います。
マネーフォワードのデザインチームの近未来の目標の一つは「国内No1のデザインチームになる」です。是非興味を持ってくださったデザイナーの方は、ジョインいただけると嬉しいです。