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なぜロングスローは論争となるのか②ー規制の論陣を張ってみる。
(前回の続き)
まず、私も「競技規則」を解釈するまで知らなかったのであるが、いわゆる「ファウル・スロー」というものは存在しないのである。もう少し噛み砕こう。競技規則に則らない「スローイン」をしても、反則(ファウル)ではないのだ。
これは、競技規則第15条スローイン、1項「進め方」の中程を読んで欲しい
「スローインが正しく行われなかった場合、相手チームがスローインを再び行う。」
この「再び」という言葉が重要である。つまり、この条文を解釈すると、「1回目の試行にAチームが失敗したので、今度は同じ試行を再びBチームが試みて下さい」と読める。
すると、少し拡大解釈になるが、「Aチームが投げようがBチームが投げようが、構わないが、とりあえずAチームに優先権を与えよう」というのである。更に、条文を読むと、
「ボールが競技のフィールドに入る前にグラウンドに触れた場合、同じ地点から同じチームによるスローインが再び行われる。」
動画のリンクがあるので観てほしいが、通常のスポーツなら、これは正しくないスローインで、相手チームにスローイン権が回りそうではあるが、サッカーでは同じチームがスローインするのだ。
また、次の条文も重要である。
「ボールは、競技のフィールドに入ったときにインプレーとなる。」
つまり、スローインの行為はインプレーではないのだ。つまり、「競技規則」の中では、スローインは儀礼的行為で価値中立的な行為なのだ。キックオフと同じである。どちらのチームが蹴っても構わないが、とりあえずはコイントスをして決める。
しかしである。もし、スローインを価値中立的行為であると考えるとすると、「競技規則」は、なぜ細かく、スローインのやり方を縛っているのか。もちろん、儀礼的行為であるのだから、細かく決まりがあると言っても良い。
しかし、それでは説明がつかない。ここに、「公平性」という価値を導入したい。
前回の記事では、タッチラインは恣意的に引かれると主張した。そして、ラインがなければ遥か遠くまでサッカーは続くはずだとも主張した。これは、過程に着目した主張である。ここでは結果に着目してみよう。
遥か遠くまでサッカーは続いているはずである。そして、何が起こるか予測しても良いが、ボールがラインを割った時点では、どちらのボールとなって、フィールドに戻ってくるかは分からない。
ここで「公平性」という価値を考慮すると、どちらのボールとなるのか分からないのならば、スローインという行為をできるだけ「公平」に行わせるルールを作るのが当然であろう。
そのため、スローインというプレーはあれほどまでに縛れれているのである。それでは、どのようにして「公平性」を担保しようとしているのか。もう一度、「競技規則」を読んでみよう。
・競技のフィールドに面して立つ。
・それぞれの足の一部が、タッチライン上またはタッチラインの外のグラウンドについている。
・ボールが競技のフィールドを出た地点から、両手でボールを頭の後方から頭上を通す。
ここで唐突だが、野球の投手がこのフォームで投球するとしよう。プロの投手でも、このフォームで投げれば、ホームベースに届かせるのがやっとであろう。
鋭い方はお分かりであろうが、このルールはボールの飛距離を落とすことを目的しているのだ。このようにも言っても良い。ボールのスピードを落とすことを目的としている。
それでは、なぜボールの飛距離を落としたいのか。それは結果として、「公平性」につながるからだ。つまり、スピードと飛距離を落とすことで、相手チームにもボールを競る機会を与えているのだ。次の条文にも着目してほしい。
すべての相手競技者は、スローインが行われる場所のタッチライン上の地点から少なくとも2m(2ヤード)離れなければならない。
この2mというのが、重要である。フリーキックならば、9.15m(10ヤード)である。もちろん、距離が近ければ近いほど、相手は競りに行きやすいのは常識であろう。
ここに、スローインという行為に求められる「公平性」が立ち上がってくるのである。
さて、私の目標はなんであったか。FIFAのルール委員会で、「ロングスロー」を規制する主張をすることであった。以上の理路を理解して頂ければ、私が何を主張するか、分かるであろう。
「フィールドにタッチラインを引かなければ、ラインを超えてサッカーは行われるはずである。しかし、時間の限られた中で我々はゲームを行う以上、ラインを引かなければならない。そして、これは、完全に恣意的なものである。その結果として、ボールがラインを超えた場合、ラインがなければどちらのボールになったか予想できない事態が生じる。しかし、試合は再開されなければならない。そのため妥協案として、スローインという制度が導入された。しからば、スローインからのボールはできるだけ公平なもので、両者が競り合える飛距離であるべきだ。競技規則の趣旨は以上を踏まえたものである。ロングスローは、スピードと飛距離が出て公平な形で両者が競り合えるものではない。まして、ペナルティーエリア内に投げられるボールは、攻撃側にとってはかなりの位置的優位性が生むことができ、公平ではない。そのため、規制が必要である。」
(次回につづく)