「人違いです…!」何度言っても信じてもらえなかった、他人の空似
これは、やや信じがたい実体験なんですが。
風邪をひいて、病院に行った帰り道でした。
「ツルミタクヤだよね?」
見知らぬお姉さんに、話しかけられたんです。
恐らく20代後半ぐらいでしょうか。
ちなみに僕の名前は、ツルミタクヤではありません。
道で他人に声をかけられるのって、結構ビックリするじゃないですか。機会が少なすぎて、心構えができてないというか。
こんな頻出パターンなら、耐性がある人も多いと思います。
道を教えて
アンケート答えて
写真撮って
でも、ここに「4. ツルミタクヤだよね?」は入ってない。突然の非日常。
とはいえ僕はツルミタクヤではないので、こう答えるしかありません。
僕「いえ、違います…」
世界は広い。似ている人もいます。
どうせなら木村拓哉と間違われたかったけど、現実はツルミタクヤだ。誰。
勘違いだったと気づけば、大抵の人は謝ります。恐らくお姉さんの次の言葉は、99%コレでしょう。
「あ、間違えました!すみません!」
むしろ、コレじゃなかったら困る。困るんですが。
彼女の口から出たのは、
「え…?ツルミタクヤじゃん!」
む…!?
1%の方だった。引き下がってくれない。むしろ馴れ馴れしさがアップした気さえする。
「ツルミタクヤではない」と答えた人間に向かって、当然のように「ツルミタクヤじゃん!」と言い放つその強引さ。
「自分の勘違い」という可能性を考えてくれない。これは手強いタイプなのでは…?
でもまだ、僕の「違います」という言葉が、冗談だと捉えられている可能性もあります。
例えばもし僕が本当にツルミタクヤだったら、
という、微笑ましい会話もありえます。
…が、どう考えても僕はツルミではありません。
だから、もう一度否定してみます。
2回も真顔で否定すれば、さすがに冗談とは思われないはず。
僕「いえ、人違いです」
真顔で言いました。
それはもう、1人で自転車こいでる時ぐらい真顔で。
これで彼女も、さすがに勘違いだと気づいたはず。
99.9%、「間違えちゃいました!すみません!」が来るでしょう。
しかし、彼女の返答は、
「嘘だぁ!絶対ツルミタクヤだって!」
バカな…!
引き下がってくれない。まさかの 0.1%の方。
ツルミタクヤ…真顔でウソをつくタイプなん?
けしからん奴ッッ…!!
ていうか、こんなに強引に他人の名前を指定してくる人いる…?『千と千尋』の湯婆婆の化身?
「今から、お前の名前は"ツルミ"だ!」じゃないよ。勘弁してくれ…。
…あっ!!
ここで、重大なことに気づきます。
僕、マスクしてたんです。
彼女からは、目元しか見えてない。
こんな簡単なことに、なぜ気づかなかったのか。
目だけなら、間違えることもありますよね。
最初からこうすればよかった。
僕は、慌ててマスクを外し、彼女に向かって言いました。
僕「違いますよね…?」
目元は、百歩譲って、ツルミタクヤかもしれない。
でも鼻と口までツルミタクヤなわけないでしょう。
もし同じだとしたら、それはもう、ツルミタクヤよ。
こうして、勝ちを確信した僕に、彼女が放った言葉は、
「ツルミタクヤじゃん」
ツルミタクヤだった。
鼻と口までツルミだった。
ウソでしょ?何?どういうこと?
もしかして僕、ツルミタクヤなの?
私たち、入れ替わってる?
ツルミは東京のイケメン男子?
これまで、ツルミタクヤではないと信じて生きてきた僕は、実はツルミタクヤだったんだろうか。ここまで迷いなく言われると、自分を見失いそうになる。
でも、さすがにここで
「…あはは!バレた?ツルミです!久しぶり~」
と言えるほど、僕の肝は座っていません。
というか、やっぱり僕はツルミではない。
ここから、どう対処すればいいのか。
一旦落ち着いて、基本的なところに立ち戻ります。身分を証明したいのだから、身分証を出せばいいんです。簡単なことだった。
でも、こんな怪しい人に身分証を差し出すのは怖い。出した瞬間、奪いに来る可能性もゼロじゃない。
そこで、ふと気づいたんです。自分が手にしている、病院でもらった袋に。薬を入れる袋って、名前が書いてあるんですよね。
これは、もう勝利確定です。
どう見ても「ツルミ」でも「タクヤ」でもない名前が書いてあるわけです。
もし、僕の下の名前が偶然「タクヤ」だったら危なかった。
「やっぱりタクヤじゃん!婿養子になったんだね!」とか言われかねない。
でも、僕はタクヤではない。
この事実を知ったら、この人はどんな顔をするのだろうか。
僕「僕の名前、コレです」
袋に書かれた名前を見せる僕。
お姉さんの表情が、一気に固まる。
それはそうでしょう。
ずっとツルミタクヤだと決めつけていた相手が、別人だったんですから。
全力で反省してほしい。
言葉も出ない様子のお姉さん。
無言でその場で立ち尽くしている。
怖くなってきて、僕がその場を離れようと、
「じゃあ、失礼します…」
と言いかけたそのとき、彼女の口が開きました。
「…名前、変えたの!?」
…うそ…だろ…!?
人生で口にすることのない質問ランキングがあれば上位に食い込むであろう、初めて耳にした質問。
名前、変えたの?
いや、そんな気軽に名前変えないでしょ!!
変えるとしても重い理由があるやつじゃん!「髪型変えたの?」的なノリで聞くんじゃないよ!!それともツルミは、そんな気軽に名前変えそうなブッ飛んだ奴なの!?
もう、どうしようもない。
僕「生まれた時からこの名前です。。」
こう答えるのが精一杯でした。
もはや、僕がツルミタクヤでないことが、逆に申し訳なくなってきた。
どうして僕は、ツルミタクヤじゃないんだろう。
そこから、さらに、
「どういうこと?」
「なんで嘘つくの?」
という彼女からの尋問が何度か続きました。
しかし、「名前を変更可能」というルールが提示されてしまった以上、もう僕には「ツルミタクヤでないこと」を証明できません。
戦意喪失。お手上げです。
だとすれば、取れる選択肢は1つ。
シンプルに、逃げました。
「では、人違いなので~」みたいなことを言い残して。
かつて無いほど早足で逃げました。
もし走って逃げたら、逆に追いかけてきそうな気がしたので、全力の早足で。
駅に着いて、おそるおそる、振り返る。
誰も、いません。
さすがに追ってはきていない。
よかった。
怖かった。
結果、何事もなく、帰ることができました。
今振り返っても、不可解な話です。
もしかしたら、有名人に「ツルミタクヤ」がいるのかな?と思い調べたりもしましたが、それらしい人物はヒットせず。
でも僕には、あの女性がウソを言っていたようにも見えませんでした。何かの勧誘…という感じでもなく。恐らく、本気だったような気がします。
もしかしたら、ツルミにフラれて、そのショックで世の中の男が全員ツルミに見えてしまう体になったのでしょうか。
もしくは、本当に、僕と同じ顔のツルミがいるんでしょうか。
いるのかもしれません。
これを読んでくれている皆さんも、他人と勘違いされたときのシミュレーションをしておくことをオススメします。
もしかしたら、この世界のどこかに、あなたと全く同じ顔の人間がいるかもしれませんので。。。
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