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素人が東京から広島まで29ftのボートを回航した話

はじめに

ずっと東京と広島での二拠点生活を送っていたが、今年から広島の比率が大きくなりそうだったので、三浦に置いている釣り用のボートを広島に持っていきたいと思った
瀬戸内海は穏やかだし、広島であれば家からマリーナまで20分以内という生活を送ることができる上に係留料もリーズナブルだから、非常に魅力的な選択に思えた
東京から広島への陸送も検討したが、50万円を超えると言われたので、以前からの夢であったボートでの長距離航海を兼ねて自分で回航することの検討を始めた
そもそも出来るかどうか半信半疑だったので、ネット上の情報を読み漁り、経験豊富なヨット乗りの方に相談したり、マリーナの社長に相談したりした

結果、無理せず天気のいい日を選んで走れば何とかなるはず、という結論に達した

回航の準備

まずはディーゼルエンジンのエア吸引の問題を気をつけるべきだというアドバイスのもとに予備燃料を積み込めるように20Lのポリタンクを5個購入
船の300Lのメインタンクに加えて100Lの予備で合計400Lの軽油を積載できるようにした

またマリーナに依頼し、エンジンオイル交換、オイルフィルター、燃料フィルター、インペラ、ベルト一通りの交換とチェックをして貰った

JCIに電話をかけて、船検証を確認して頂き、どういう航路であれば回航できるか、また紀伊半島から四国へはショートカットして渡ることができず、知らずに海保に捕まってしまう方も多いので気をつけるようにとアドバイスを頂いた

燃料代はリッターあたり1キロと想定すると950kmで約950Lリッター150円で換算すると15万円弱を見込んだ
また1週間ほどの2名分の宿泊費や食事代で15万を見込んだ
この予算は実際にほぼその通りの結果になった

航海計画は素人だったので結構悩んだが、1日の航行距離を80-90海里として
朝から昼過ぎくらいの時間帯で走り終えるられるような余裕を持ったスケジュールを組み立てた

合わせて、レギュラープランの他にバックアッププランも検討し急に海が荒れたなどで航行距離が半分だった場合にはどのあたりに逃げ込むかということも考え、googleマップに避難港のプロットをしていった

1日目:三浦から御前崎港マリーナ

いよいよ初日、午前中は風波が強く、午後にかけて落ち着いていく予報だった
電車でマリーナまで向かい、はやる気持ちを抑えて窓ガラスにガラコを施工して時間をつぶした
本当に良くしてもらったマリーナの方々にご挨拶して9時半に出発
相模湾を西へと進む、前半は意外と穏やかでスムーズに進む
ただやはり相模湾の真中あたりから少し波が高くなってくる
それでも15ノットくらいであれば快適に進める程度
出発から2時間を経過し、川奈ホテルゴルフコースの前あたりで
しみじみ遠くまで来たなーと実感した(まだまだなのに)
12時を周り下田沖に差し掛かると、いよいよ波が高くなり
周りの中型船や大型船が大きく揺られているのが見えた
波の周期が長かったお陰か頭からジャバジャバ被るような状況ではなく
ただ揺られて走りにくいという状況だった
石廊崎に差し掛かると波は収まり、覚悟していたよりも
かなりあっさりと石廊崎を回り込むことができた
石廊崎を回ってからは20ノットくらいでスムーズに西に進むことができた
2時間ほどで順調に御前崎港マリーナに到着
前日にお願いしてあったのでスムーズにご対応頂けた
3件ほどガソリンスタンドを紹介いただき、1件目ですぐに30分ほどで行けますとの返答を貰いローリーが岸壁に来てくれた
マリーナの周りには何もなく、タクシーも非常に捕まりにくいという前情報を得ていたので積んできた折りたたみ自転車で15分ほど離れたコンビニまで買い出しに行く
翌日は午前だけ海が穏やかな予報だったので船中泊を選択

  • 航行時間:5時間42分

  • 航行距離:85海里

  • 平均速度:約15ノット

  • 燃料消費量:172リットル

2日目:御前崎港マリーナから英虞湾(檜扇荘)

2日目は暗いうちから待機して白み始めた5:20すぐに出発
予報通り非常に穏やかで走りやすかった
伊良湖半島の先端、伊勢湾と交わる辺りで少し波が高くなったが
鳥羽側に着くとまた非常に穏やかな状況
翌日が荒れて走れない予報だったので、安全第一であまり遠い目的地に設定しなかったことを少し後悔するくらい順調だった
10時半に浜島漁港に到着、漁協に電話をして給油をしたい旨を相談したところ親切にもローリーの手配をしてくださった
ありがたい
その後海上が筏だらけの英虞湾を慎重に慎重に進みお昼前に檜扇荘到着

  • 航行時間:6時間30分

  • 航行距離:104海里

  • 平均速度:約16ノット

  • 燃料消費量:180リットル

3日目:休養日

予定通り海が大荒れなので休養日
この日は宿で仕事を済ませ、タクシーで街に出て
遅めのお昼を頂く
炭火焼うなぎ 東山物産
脂の乗った鰻でなかなかの美味でした
その後、阿児のイオンで水やインスタント食品、コーヒーなどを補充

4日目:英虞湾(檜扇荘)から那智勝浦

この日はあまり良くない海況の予報(徐々に回復していく予報)
とはいえいい方に転べば潮岬を回り込んで田辺あたりまで行けるかもと思い
宿などは予約せずにゆっくり目に9時出発
ところが英虞湾を出ると2mのうねりでサーフィン状態
これまた波の間隔があったので17ノットくらいは出せて気持ちよく進む
なんとか行けるんじゃないのか?と思ったのも束の間
尾鷲を越えたあたりから熊野灘の本領発揮
ザバザバ被り、10ノットチョイくらいしか出せない上にうねりの間隔も短くなり、時間がすごく長く感じる辛抱の時間帯
5時間かけてどうにか那智勝浦までたどり着き、フィッシャリーナ那智に逃げ込む
事務所に電話をしても繋がらなかったため勝手に係留させて貰い
ローリーが来てくれるのを待つ間にメールをする
※翌々日にお返事が来たのでお詫びし現金書留で係留料をお支払い出来た
ローリーは桟橋まで入れないので近くの岸壁に移動させようかと思ったのだが、風が強いし釣り人はいるし、何より疲労困憊だったので
ポリタンクの100Lを船に給油し、ポリタンクにローリーから給油をしてもらった
日が傾くまで待っても桟橋に他の来客が来なそうだったので
勝浦の宿を予約して電車で移動
ヨット乗りの方々が推薦しておられる駅前の竹原さんで生マグロを頂く
そんなに期待してなかったが、期待を裏切られてかなり美味しく驚いた
勝浦は外国人だらけで宿も高かった(民宿で2万弱)、痛いけど仕方ない・・
この日の夜にパートナーと話し合う
明日頑張れれば、明後日に広島に着く可能性が出てくるので
翌日は勝負の日と位置づけ休憩などは少なめで頑張ることに決定

  • 航行時間:5時間

  • 航行距離:64海里

  • 平均速度:約12.8ノット

  • 燃料消費量:100リットル


5日目:那智勝浦から南あわじみなと海の駅

この日は勝負の日ということだが、また午後に向けて回復してくる予報
悩みながらも7時20分に出航
荒れないでくれと祈りながら、15ノットくらいしか出せない海況のまま
潮岬周辺に到達
今回の回航で一番の荒れ具合、なんてこったい
何度かちょっと諦めて串本に逃げ込もうかなと頭をよぎるが
危険を感じるほどではなかったので、気力を振り絞って辛抱しながら進んだ
8:50に潮岬を通過、回り込んでからもずっと荒れた状況が続き
休憩もままならない
なんとか15ノット前後で辛抱して進む
やっと海が落ち着いたのは御坊を回り込んでから
ここからは20ノット以上で快調に進むことができた
途中給油をしながら和歌山湾を陸沿いに回り込み(沿岸指定のため)
右手に淡路島を見ながら自分の中では今回のハイライトだった
鳴門海峡に差し掛かると、圧巻の渦潮が見られた!!
あまり近づくのが怖いくらいの迫力だったが、感動
鳴門海峡大橋を越えて、何箇所か海の駅さんに電話をかけて給油の可否を含めて問い合わせる
「南あわじみなと海の駅」さんが今日は無理だけど明朝ならローリーを呼んであげる、今日は1泊停泊しても大丈夫と言ってくださったので湊港に向かう
無事に到着し、淡路島に住んでる友達にホテルまで送迎してもらおうと思い連絡するもなんと北陸に旅行中・・
気を取り直して近くの評判の焼肉屋さん白頭山で美味しい焼肉を頂き
そこからバスで洲本に向かい宿を取って一息ついた

  • 航行時間:7時間50分

  • 航行距離:121海里

  • 平均速度:約15.4ノット

  • 燃料消費量:240リットル

6日目:南あわじみなと海の駅から広島港

さて今日を最終日にできるか、はたまたたどり着けない場合は翌日がマリーナの定休日につき、必然的に到着が2日延びるというプレッシャーの中起床
海の駅の方が朝イチにローリーを手配してくださり8時過ぎに給油完了
本当にありがたい・・・
すぐに出発し朝の3時間は穏やかで23ノットくらいで快調に進む
やっぱり瀬戸内海はほぼ湖みたいなものだよね?とか軽口を叩きながら
進んでいると、やはりそう甘くはない現実が押し寄せる
東京湾奥とツッコミたくなるような三角波が押し寄せてバシャバシャで全然スピードが上げられない・・
後半はずっとこの状況が続く
到着予定時刻が15時、15時半、16時と徐々に延びてきて焦りを感じる
それでも何度も自転車で走ったしまなみ海道、とびしま海道、音戸の瀬戸
美しい景色に癒やされながら辛抱強く進む
懐かしい宇品のプリンスホテルが見えたときとは安堵感でいっぱいになった

  • 航行時間:7時間40分

  • 航行距離:135海里

  • 平均速度:約17.6ノット

  • 燃料消費量:280リットル

  • 燃料消費量:合計992リットル(6日間)

最後に

回航を終えて色々と学びもあり振り返りもあった

まずは普段の出船ではそれほどありがたみを感じていなかったレーダーのありがたみを強く強く感じた
太陽の角度だったり、海況だったりで、目視では全然見えないんだけどレーダーには映っている、近くまで行ってみると本当に船がいた、という経験を何度もした
またレーダーがあったお陰で、緊張とリラックスのリズムを作ることが出来たようにも思える
私のボートはフライブリッジではなくレーダーアーチもなくただ屋根に乗っている状態なのでそれほど感度が良くないのかもしれないがそれでも3海里、6海里先の状況がなんとなくでも見通せることは非常に助かった
更に沿岸制限があるのでレーダーで陸との距離を測りながら航海ができたことも安心感に繋がった

また手前味噌だがマリーナや港への入港順路を何度も確認して
予習してから挑めたことは慌てずにアプローチできたことに繋がったように思える
偉大な先達が那智勝浦の入港経路や御前崎港マリーナの入港経路などについて注意喚起してくれていたお陰で、心の準備ができた状態で
入港することができた

あとJETBOILのお陰で少し海が落ち着いたタイミングでコーヒーを入れて
甘いものをつまんでリフレッシュすることができた
遠くが見えづらかったりするとずっと集中している状態が続くので
こういう休憩は本当に大切だと感じた

私は釣りは好きだが長距離クルージングなどはしたことがないので自分にできるかな?パートナーを危険な目に合わせないかな?と不安は色々とあった

でもそれでも例えば3ヶ月後に病気になって
病院で寝たきりになっているとしたら
このチャレンジをしなかったことをすごく後悔するかもしれない・・

そんな想像をしたら何とかチャレンジしてみたいという思いが強くなり
今回の回航の実現へと繋がった

ネット上を調べてもプレジャーボートでの回航の情報などはそれほど多くなかったため自分の思い出の記録のためにも今回記事として残したいと思った

すごく大変だったが、喜びも大きかったのでまた機会があれば
四国一周や九州一周などもチャレンジしてみたいと思っている

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