見出し画像

相変わらず子どものこと、と料理。

妹の子どもが今朝生まれたらしい。
妹がLINEで「めちゃかわー」と言っている。


私は産んだ直後全然かわいいという感情は生まれなくて、そんな自分に萎えや焦りを感じていたのを思い出す。
神秘的なとかない全然じゃん。うそつき。それともみんなSNS用でそういってるだけ?ほんとはなんだこの宇宙人ちょっと気味悪い生物はって思ってる?

嘘でも(嘘つく必要もないのだが)私はかわいいとは言えなかった。


出産して1ヶ月くらい経った頃、子どもを実家に預けてヨシオとお寿司屋さんにいった。
出産祝いとかいって誘ってきたけど、どうせずっと前に予約していたけど一緒に行く人がいなくてちょうど出産お疲れ様会と銘打つによいタイミング、といったところだろう。


カウンター席で、我々の隣に男女二人が座っていた。
見た目40代くらいだが、夫婦という感じではなさそう。
ヨシオは店員さんとか隣のお客さんとかに気軽に話しかけるので、みんなの酔いも深まった頃にはその男女二人と私たちと大将さんでしゃべるみたいな感じになった。
話を聞くと、二人ともそれぞれ子どもがいて二人ともシングルっぽかった。どうやら恋人同士のようだ。二人ともバリキャリっぽくて自立してるオーラがぷんぷんでかっこよかった。

「先月子どもが生まれたばかりなんです」なんて話をしていたら、「かわいいでしょう?」と言われた。

たぶんこの時の心の中は一生覚えていると思う。
カウンターのどの位置に座っていたかお店の暗さはどのくらいだったか次のネタがなんだったかすぐに蘇らせることができる。


私は、かわいいです、と返せなかった。
言葉に詰まって、でもかわいいって言わなきゃいけない、言えなきゃいけない、かわいくないわけがないはず、でもかわいいの一言が言えなかった。
私はごまかすように「へ、へゃ…」と、よくわからない返事をし、とりあえず顔を最大限に柔らかくして和やかな目で微笑んどいた。

そしてヨシオも、ヨシオにしては珍しくちょっと気まずそうに、「いやーそうっすね!」と答えるも、その後すぐに「やっぱりかわいいっすか?自分の子どもって」と相手にボールを返す。

ヨシオも、思ってたのと違ったんだと思う。
私は別に思ってたのと違うまではなかったけど、「思ってたよりは、かわいいって感じではないかもしれない。思っていたよりは。」というのはとりあえず初めて子どもが生まれた1ヶ月間の二人共通の感想だったんだと思う。
あくまでも私の想像だけど。本人に確認したことはない。


今は、かわいいと思える。
それでも人にかわいいというのは恥ずかしい。
別に言わなくてもいいんだけど。


昨日、20時前にヨシオが家に帰ってきた。
私たちは寝る間際で、ヨシオは電気こそ点けなくなったが、相変わらず変な音を流しながら帰宅するので、私も娘も起きてしまう。

「晩御飯ある?」
晩御飯食べるの?家で?

ヨシオが平日の夜(…といっても土日も変わらないけど)に家でご飯を食べたことなんて、盛らずに1年以上前だと思う。それもウーバーとか。


私は連日つけ麺レシピを作りまくっており、頭の中で素早くレパートリーを再生する。
昨日作ったガパオがあるけどちょっと味薄めだし、今日作ったリゾットもあるけど本当は真のイカで作りたかったやつで未完成だからヨシオに一発目出すのは控えたいし、というわけでタレで味がキマル☆豚肉パクチーにする。


「晩御飯あるよ」
「作り置いたやつ?じゃなくてこれから作るの?あとお昼ご飯みたいなやつじゃなくて晩御飯だよ?晩御飯っていうのはおかず以外にも副菜とか何品かあるやつだよ?」

白米とお味噌汁はインスタントでいいとして、副菜は…そうだ、これもつけ麺さんに教えてもらった卵焼きにしよう。メニューは朝っぽいけど何品もあるという事実は作れる。

豚バラを湯掻きながら、そういえばトマトはリゾットに使い切ってしまったし、私が冷蔵庫にあると思っていた葉っぱはパクチーじゃなくてミントで、このタレとミントを組み合わせたらつけ麺さん怒られそう…と思いながら(※もちろんつけ麺さんが怒ることはありません)、一か八かで提供。


ヨシオ、卵焼きは好きじゃないらしく、途中からお醤油やらケチャップやらかけたいと言い出す。
卵焼きにケチャップて!
ヨシオはグルメぶって、実は馬鹿舌なのだ。
いろんな味付けちゃんぽんする。七味とか胡椒とかケチャップとかどばどばかける。料理への冒涜だ。

豚バラは、最初「味がばらけている」とかいう、それっぽい表現だけど極めて抽象的な感想を言われ、「次回に改善できるように指摘してください」と言ったら、どうやらタレがかかっていない箇所(豚バラ)があることを言っていたらしい。自分で混ぜろ。

あとお味噌汁はコストコのやつを出たらまずいと言われ、パッケージを見せてと言われて見せたら賞味期限が載っていなくて、「わかった賞味期限切れだからだ」と言われたけど、これは1ヶ月前に買ったやつだ。
でも「コストコで買った」って言ったら絶対「だからだ!」となるので、何も言わずにスルーした。てかコストコ美味しいし。

いろいろ細かい感想は言われたけど、最終的には「これもたべれる。この緑のハーブがいい。」とのことで、しかもパクチーはそんなに好きではなかったらしいのでミントで結果オーライ。


「ほらね、家のご飯が美味しかったら俺帰ってくるでしょ?」

別に家で食べて欲しいなんて頼んでないけどな。
むしろ食費かかるし毎回ジョブチューンで精神すり減るし。

けど、それよりももう一つ上の段階の、何か他のものが満たされている。
自分が作った料理を美味しいと食べてくれることがいいのか?なんなんだこのなんとか効果みたいなのは。ヨガとかで得れそうなやつ。


今朝、たねちゃんが「料理しないことはじわじわと自己肯定感が蝕まられる」と言っていて、まさにその通りだと思った。
家でご飯を食べることで、よし、今回も節約したぞ!と思えるのはいいことだが、見た目も味も美味しくない料理を3食目の当たりにするというのは、無意識のうちに自己肯定感が削られていく。

つけ麺レシピを作るのは、もちろん美味しいご飯を食べたい、未知である料理分野に対する探究心もあるし、私の極度の熱しやすい性質もあるけれど、「攻略欲」が掻き立てられるのだ。

私は無意識に作り終わったレシピのメモにチェック印をつけていた。
目の前の課題をこなす受験生みたいに、ひとつひとつ着実に毎日挑戦をしつづけて得られる達成感。

そしてそれを先生(つけ麺さん)と仲間(たねちゃん)に報告し、感想を言ってもらえる環境。質問はすぐに聞いて解決できるのもモチベーションが維持できる大きなポイント。

あとつけ麺レシピを料理している限りはこの二人と常に繋がれる嬉しさもある。

今日はよだれ鶏を仕込んでいる。明日ぷりぷりになっているといいなあ。

娘が日中全然寝なくてうざい。
、、と思っていたけど、もしや日中も寝かしつけをするのが普通なのか?

「全然寝るタイミングがバラバラで〜」とかほざく前にちゃんと大人は努力したんかってこと?
その時間がきたら本人が眠そうにしていなくても一旦寝かしつけのモーションに入るのが普通なのか?
知らなかった。誰か教えてくれよ。公式の子育ての教科書作ってくれよ。教育ママをいいカモにしてるビジネス育児本ではなく。

日中は眠そうにしてたらそのまま寝かせる、しか、してこなかった。そりゃ寝ないか。今まで寝なくても別に問題視してこなかったけど、夕方以降うるさくなる(これがいわゆるぐずりってやつなのか?)のは、日中親が睡眠をコントロールしていないからなのか。

昨日ピクニックしたママ友の子どもは大人しくて、そのママは「うちの子よく大人しいって言われるけど、親が騒いでるから子どももキーキー言うんじゃないかと思う。おもちゃもまずは遊び方を教えてあげないと、放置しただけじゃそりゃ騒ぐだろうなと思う」といっていて、ヒェッとなる。
子どもの素質もあるけど、もちろん「教育」もあると思う。彼女の言っていることも一理あるんだろう。
その親子自体は別に普通にいい子なのだが、彼女がそういう考えを持っていると知っているので、うちの子どもがキィーッと奇声を発するたびに気まずい。
子ども、どんどん私の真似をするようになって本当に怖い。


子育てしながら働いてるママ二人と私と3人のLINEで、その日二人は「すごく疲れた、なんか面白いことないかな」と言っていて、私はその日も呑気に生きてただけなので「私は疲れてない!面白いこと、考える」と言った。

しかしただ息吸って吐いてるだけの私に面白いこと思いつくわけもなく、でもいつも助けてくれている二人に還元するチャンスが巡ってきた!これを逃したらもう見放されてしまう、自分がここにいる価値ない!と、それはまるでオーディションで自分の番は終わったはずなのに急に「ちょっと5番。今の気持ちをダンスと歌で表現してみて?」と言われたときのような焦りで、体中の血液を猛循環させながらなんとかほじくり起こして送ったのが、娘のエアシャンプー動画だった。

服着てるしお風呂入るタイミングでもないのに、それっぽくシャンプーをかちゃかちゃ押して(実際には弱力なので押せていない)頭をシャカシャカさせている動画。
…文字だと一層つまらないな…。私こんなの送ったのか。また落ち込む。

送った数秒後に激しく後悔する。
面白い話してと言われて、とりあえずネタ探しに必死に携帯のアルバム開いて、遡っても遡っても子どものものしかなくて、選定した瞬間はそれが自分の子どもの動画だという認識は薄かったが、これってもしかして子どもの世界しかないつまらない女になってる?????
自分=子どもという最もなりたくないヤツになってるのでは??
しかもその二人とはほぼ子どもの話はしない仲なのに、どうして子どもの動画なんて送っちゃったんだろう。
これが私が最も恐れているつまらない人間。

もし私が働いていれば、もしくは何かしら趣味に勤しんでいたり、自分という人間を表す何かがあれば、もっと結果は違っていたかもしれない。

面白い話をして気分転換させてあげたい癒してあげたいと考えた末が自分の子どもの動画って笑っちゃうよ。どういうオナニー?
もちろん私の子どもかわいいでしょと思って流したのではなく(それは断じてそう)、とにかく何か一つ送りたい、の中で探し当てた物に過ぎないのだが、そもそも選択肢が100子どもなので、こんなクソくだらないつまらないアウトプットになってしまった。


私は怖くなった。というか既に怖い。
だって私まだ自分を維持できていると思っていたのに、むしろこれがまだ意図的に、自分の子どもの動画と分かって流していたならましだ。
今回問題なのは、無意識に、自分の子どもの動画を送っていたことだ。
私は既に「子どもの世界」に蝕まれている。


これだから専業主婦はって小馬鹿にしてる側だったのに、既に私は立派な「専業主婦」になっている。
許されない。