F24 ヨッシャマン探検隊と謎の鉱石
「ヨッシャマン、洞窟探検に行こう!」
言い出しっぺは天然探検家のTだった。
洞窟探検。
冒険作家の私がそれに乗らないわけがない。
洞窟でとある謎の鉱石を発掘するというのがTの目的だった。その先の事は私には分からない。
大切なことは、首を突っ込みすぎないことだ。平和に生きていたいのならば。
埼玉県日高市。
空から女の子が降ってきたという伝説があるとかないとか。
その地に私を含め、4人の冒険者が集まった。
きっと素敵な事が始まったんだ。そんな氣がした。
待ち合わせの場所にヨッシャマンカーで乗り付けると、天然探検家Tと自然研究家のKが手を振っていた。
もう一人、登山初心者のEは冒険には付きもののアクシデントに見舞われ、30分遅れるという。
それならばと、我々3人は先に高麗神社にお詣りすることにした。
地元の神様には筋を通しておいて間違いはない。
登山初心者のEが到着したかと思うと、早くもその初心者ぶりを存分に発揮する。
湿地帯なので長靴着用だと言い渡しておいたにも関わらずスニーカーで現れ、汚れることをまるで想定していないオシャレな白いシャツ。そして素手。
完全に山をなめている。
探検家Tが予備の軍手をもっていたので事なきを得たが、流血ざたになるところであった。
そう。これはハイキングではない。
道なき道を行き、時に衛兵のごとき植物たちをかき分けて進むのだ。
もはや樹海の冒険と言ってもいいだろう。
「ヨッシャマン!隊長を頼みます!」
発案者の探検家Tに任命をされ、40秒で身支度を整えた私は、洞窟とそこにあるという謎の石を探すために得たいの知れない山へと先陣を切ったのである。
私をさきがけとして、2番手が初心者E、自然研究家Kと続き、しんがりは天然探検家Tが務めた。
鉱山であるこの山には、いくつもの抗口がある。
我々が目指すのはその最大の抗口だが、記念すべき最初の小さな抗口を見つけたのは最後尾の探検家Tだった。
耳をすませば、中から水の流れる音がした。
かつては坑道だったのだろう。
あるいは、地底人たちの遊び場になっているかもしれない。
思えば不思議な旅だった。
メンバーの誰一人、目的地の洞窟がどこにあるのか知らないのである。
そう。山のどこかにあるという洞窟を
勘で探すという無謀な挑戦だった。
なんと、その中で一番能力を発揮したのが初心者Eだった。
「なんか、こっちな氣がする」
そんなEの言葉が何故か頼もしく、隊長はおおいに助かった。
感覚者Eに昇進させよう。
自然研究家Kの知識も素晴らしかった。
人体のみならず、虫や植物たちにも造詣が深く、まるで山ガイドと一緒に歩いているようだったし、自然教室の授業を聞いているようでもあった。
「木の根の下に宝の石がある」
予言のように自然研究家Kが言った。
ここは、私の懸垂力の出番だろう。
と思ったら逆襲されて足を食われた。
などと私が遊んでいる間にも、天然探検家Tは、木の根の奥から貴重な石たちをごっそり採集する。だいぶ重いと思う。
2時間以上は歩き回った。
しかし、最終目的地の洞窟へとつながる手がかりを私達は見つけられずにいた。
これ以上やみくもに動き回って迷ってしまっては困る、と私は思った。
私の山歩き術の一つとして、目印となる沢を見つけておく、というものがある。
私はそのセオリー通りに、
「沢沿いに下りながら洞窟を探したほうがいいね」と言った。
そして、出発地の方角である北西に歩き出そうとしたのだが、
「ヨッシャマン!」
しんがりの探検家Tが私の足を止めた。「帰り道のことは考えてはならない」
「え?」
振り返ると、3人ともその場に立っている。
「こっちな氣がする」
感覚者Eが指さしたのは南だった。
自然研究家Kは、
「この山は龍神に守られている。龍神様にお願いすればきっと見つかる」と真っ直ぐな目をして言った。
それならばと、私は
「洞窟が見つかり、帰り道も分かりますように」と龍の巣にお願いをした。
沢から離れるのは勇気がいる。
しかし、私はこの奇妙な3人に賭けてみようと思ったのだ。
「洞窟があった!」と私は声を出した。
私は左手にそれを発見して思わず駆け寄った。
不用意に近づく私を拒むように、木の枝が私の眉間に刺さった。
あっぶな!
もう少しでリアルに「目が〜、目が〜」になるところだった。
そして、よく見るとそれは洞窟ではなく木の根だった。
落胆した私の背中に、
「洞窟あったよ!」
もはや我が隊のセンサー、感覚者Eの声が届いた。
「でかした!」と駆け寄ると、感覚者Eは足首までずっぽりとぬかるみにはまっていた。(ほら、言わんこっちゃない)
本物の洞窟だ、私達の探し求めていた。
信じられるだろうか。
本当に勘だけでたどり着いてしまったのである。
なんというチームだろう。
そして実は、
ほとんど初めましての集まりだったのである。
それなのに、我々はまるで背中を預け合うゲリラの兵士のような結束感をおぼえていた。
少なくとも、私はそう感じていた。
洞窟に入るとポムじいさんがいた。
謎の石。
それはマンガン鉱石と言われているもので、33人ものソウルメイトが集まってくるという言い伝えがある。
私は3人でお腹いっぱいだったけれど。
私は3つほど氣になる石を回収し、さぁ帰ろうかという時に、茂みに隠れていたマンガン鉱石に私はつまずきかけた。まるで、私の足を止めたみたいに思えた。
「お前も私と一緒に来たいのか?」
私はそいつを拾い上げて、リュックにしまった。
物好きな相棒ができてしまったようだ。
帰り道は、天然探検家Tが隊長に志願した。
やる氣は尊重するべきだと思う。しかし、
5分で首になった。
帰る方角はずれていたし、明らかに悪路を進もうとしていたので満場一致だった。
こうして隊長に再任した私は、下り坂を尻で滑り降りる冒険者たちを率いて無事に帰還したのである。
ふと山を振り返ると、天空に城が浮かんでいるように見えた。
「まさかな……」
それはきっと幻だったのだろうと思う。
〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜・〜
今夜、良い夢が見られますように。
音が割れてお聞き苦しいかもしれません(汗)