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#2 ヨッシャマンと地球遊園地説

ヨッシャマングレートになる。
前回、そう宣言した。

心配しなくていい。
私自身にもさっぱり分からないのだから。

まるで、大秘宝の眠るラフテルである。
分かっているのは名前だけ。あとは何の情報もない。ヨッシャマングレートとは一体なんなのか。
英雄なのか、能力者なのか、ダークヒーローなのか。はたまた夢見がちなホームレスなのか。

考えても詮ないので、今日は私の基本的なライフスタンスについて書いてみよう。
あくまでこれは私の個人的な立ち位置なので、それは違う!といった苦情は受け付けな………いや、やはり面白そうなので聞きたいな。
実際のエピソードを交えて、私の人生観みたいなものを伝えてみたい。


長女には不登校の時期があった。
友達に裏切られたという話を又聞きしたが、直接本人に聞いたわけではないのでよくは分からない。
思春期は特に、ささいな事でつまずいたり傷付いたりする。困ったことに、それは本人にとっては些細な事ではないのだ。
娘が暗黒面に飲まれかけている時、離れて暮らしている私は、時々気晴らしに連れ出してやることぐらいしか出来なかった。
その車中でのこと。
「なんで自殺ってしちゃいけないの?」
娘からヒヤリとする質問が出た。

「なんで"いけない"って思うの?」と私。「死にたい人は自殺してもいいんじゃない?それも自由なんだから」
娘は驚いた顔で私を見ていた。まさか親に自殺してもいいなどと言われるとは思わなかったのだろう。
「僕だって」と私は続けた。「生きるのが嫌になったら自殺するかもしれない。ただし、死に方は決めてるけど」
「どうするの?」
「餓死。何も食べない。飲まない。そしたら自然と死ぬでしょ。……そこで食べてしまうんだったら、それは生きたいってことじゃん」
「確かに」

それから私は、「これは僕が勝手に思っていることだけど」と前置きしてから、今度は生き方の話をした。

「僕らが人間になる前は、魂の状態で宇宙にいるわけだ」
娘は霊感が強いので、こういったスピリチュアルな話がデフォルトで出来る。
「うん」
「肉体がないから、痛いとか辛いとか苦しいとかない。なんとなくほわ~んと幸せ~みたいな状態だと思う、多分」
「そうかもね」
「当然死なないんだよ。永遠にそれが続くの。これってさ……

死ぬほど退屈だと思わない?」

「きついね」
娘は心底嫌そうに顔をしかめた。
「でしょ?だから魂って人間になりたいのさ。刺激が欲しくてたまらないわけ。しかも地球なんていったらあらゆるアトラクションが揃った巨大遊園地なわけだよ」
「おおー」
「スリル満点の絶叫系もあれば、自然や動物とたわむれるエリア、怖いお化け屋敷もあれば、どろどろ昼ドラハウスもある。毎日楽しく過ごしてもいいし、悲劇のヒロイン体験コースもある」
「なるほどー」
「けど、宇宙でも人気のアミューズメントパークだからもちろん簡単には入れない」
「どうすれば入れるの?」
「多分、抽選。ひたすら応募ハガキを書くんだ。場合によったら何万年もかけて」
「まじで」
「宝くじなんかよりよっぽどすごい確率で地球に来られるんだよ。メチャクチャ嬉しいよね!もう、嬉ションするレベル」
「………」
「さぁ、遊びまくるぞ~と開園と同時に入ってくる。ところが、最初に入ったアトラクションがなんかイメージと違ったわ~って10分で遊園地から帰ってきちゃったら……それって、もったいなくない?やっと手にいれたチケットなんだよ?しかも、閉園時間になったら嫌でも帰らなくちゃならないのに!」
「ものすごく、もったいない」
「それが自殺」
「…………」
娘は、草食動物が草を反芻するみたいにしばらく沈黙した。
つまり、と彼女は言った。「私たちは地球に遊びに来てるってことなのね?」
「うん」
「全部アトラクションで、わたしはそれで遊んでいるわけね?」
「僕はそう思って生きてるんだよ」
娘はそれ以上何も言わなかった。

それからしばらくして、娘はダースベーダーになってコーホーコーホー言うこともなく、ゆっくりとではあるが陽の当たる世界へと浮上していった。
今でもその時の話をよくする。
わたしはパパの話と音楽に救われた、と娘は言う。
「だから今度は、わたしが前のわたしみたいな人を助けてあげたい」

埼玉のジェダイの騎士の誕生は、そう先の未来ではないのかとしれないと思ったりする。





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