F20-9 17歳の冒険〜日本で一番寒い夏〜
8月5日(16日目)
当時、本土を席巻していた夏休みの子供ラジオ体操の波は北海道にも届いていた。
なんだって休みの日に早起きしなくてはならぬのかとブツクサ言いながらも、結局友達に会えるからそのまま遊びに行けていーやというアレだ。
公園で寝ていた私は、6時半におなじみの声と音楽に起こされた。
あまり快適な目覚ましとは言えない。
波が引くように子供たちがいなくなったあとで、またしても近所のおばあちゃんが朝食を持ってきてくれた。
もしかして、東北に姉妹の方がいらっしゃいますか?
デジャヴを感じつついただいのは、メロン(!)にスイカ、それにゼリー。
まるでホテルの朝食バイキング。
本当に嬉しい。
札幌はよい町だ。
しかし、都会で困るのはトイレである。
地元埼玉のように、ちょっとその辺でというわけにはいかない。昨夜お借りした居酒屋のトイレはシャッターが降りていたので、どーしたものかと膀胱をなだめつつ辺りを散策すると、お寺の工事をしている作業員さんの簡易トイレを発見したのでしれっと使わせてもらう。
コンビニで立ち読みしたり、銭湯に置いてある少年ジャンプを見ていたせいで、この旅中に「スラムダンク」にはまってしまった。
当時無口だった私は、流川くんにシンパシーを感じ、
「中学時代に連載してくれていれば、高校でバスケ部に入ったのに!」
と残酷な時の流れに地団駄をふんだものである。
そんなわけだから、私はデパートで書店に入り、おおよそ北海道みやげとは言えないスラムダンクの単行本1〜4巻を買い揃えて札幌の地を立ったのであった。
霧がすごい。
そして寒い。
ほんとに夏なのかと疑うほどに寒い。
ここからは基本的に来た道を戻っていくわけで、行きに寄ったドライブインに再び立ち寄って温かいうどんを食べる。勢いがついて、唐揚げととうもろこしまで注文してしまい、お昼なのに1000円も散財してしまった。
それでも体は温まらず、念のためにと持ってきていた上着を着て夕方まで走り続けた。
霧にけむる札幌の姿は、もう振り返っても見えなくなっていた。
喜茂別町で銭湯の場所を尋ねると、
「この町にはないよ」と言われ、次の村まで行ってみる事にした。
しかしそうなってくると、もうお風呂に入るのも面倒になってきて、どーしようかなという氣分になってくる。時間も遅いし。
そんな折に、丸太で出来たバス停を見つけた。
「まるでロッジ!」
この旅で1番心躍る宿だったかもしれない。北海道っぽい。北の国からの田中邦衛が建てそうな感じである。
運行表を確認すると、最終バスはもう出ている。翌朝7時までに出ていけば問題ないだろう。
ただし、恐ろしい数の蛾がいたので殺虫剤で結界を張る。
科学の呪法で、そこは快適なバンガローになった。
眠る前に、ロウソクの光でスラムダンクを読む。至福。旅先でマンガを読むという、日常と非日常の入り混じった贅沢な時間。
大抵のところでは眠れる私なのだが、木のベンチはさすがに狭かったのかもしれない。明け方に落下し、「うっ」となって目が覚めた。
8月6日 (17日目)
何の痕跡も残さずに、ただ風が通り抜けるかのごとく木のバス停から消えるつもりでいたのだが、おじいさんと孫がやって来て、私はそそくさと支度をして逃げるように宿を出た。
出発してすぐにタイヤがパンク。
直したそばから空気が甘く、なんとか家までもってくれることを願う。
農園があった。
ヤギもいたので勝手に撫でる。
国道沿いの景色にも飽きたので、脇道に入った。断然、風景が良い。
木のベンチを見つけたのでお昼のお弁当を食べる。
北海道を満喫できるのもあとわずかだ。
寒いほどの気温も、海を渡れば消えてしまうのだろう。
長万部に入った。
牧歌的な素敵な所だ。
通り抜けるつもりでいたのだけれど、町の雰囲気がすっかり氣にいってしまい、今日はここで泊まることにする。
夜になりラーメン屋に入り、銭湯にも入った。
コンビニの店員に聞き込みしたところ、近くに公園はないと言う。
どうしたものかなと少し走っていると、「24時間スナック」なるものを見つけた。古代の石像みたいに様々な自動販売機が立ち並ぶ無人のドライブインだ。
「ここは暖かくていいや」と誰も客がいなくなった所で、隅っこに寝袋を広げて眠ろうと思ったのだが、
また追い出された。
うーん。
商業施設はやはりだめか。
いい所で寸止めされた氣分だが、ごねてないで次を探さないといけない。
しばらく進むと、今度は学校をみつけた。
この旅を始めてから、すっかり屋根に目のない男になってしまった。自転車置場の屋根にふらりと吸い寄せられて行く。
校舎に入るわけでもないのだからいいだろうと勝手に許可を出し、今夜の宿とする。
しかし、あまりに広々としていて学校というのは1人では落ち着かないものである。
明日には函館に戻ろう。
つづく
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「今夜のお供に」とは思うのですが、単なる雑談回であることをご了承下さい。得るものは何もありません。