東証資料から考える、グロース市場が持続的に成長するために必要なこととは?
みなさんこんにちは!株式会社Mutualの吉田です。
昨年初めて参加したIR系AC、今年もえいやでエントリーしました。ちょうど1年前は当日ギリギリになって焦りながらスタバで記事を書いた記憶がありますが、本年も無事同じような状況を迎えています。
先週、東証より「グロース市場における今後の対応(以下、本資料)」が開示され、多くの市場関係者の注目を集めました。
https://www.jpx.co.jp/equities/follow-up/nlsgeu000006gevo-att/mklp77000000n54j.pdf
すでに読まれた方は色々思うことがあるでしょうし、まだ読まれていない方も気になっている方が多いはず。
ということで今年は、この話題がホットなタイミングで、自分の思考の整理も兼ねて「グロース市場が持続的に成長するために必要なことは何か?IRが果たすべき役割は?」というテーマで書いてみようかと思います。
「それIR系じゃなくね?」という思いが込み上げてくるかもしれないですが、そこは目を瞑って是非ご一読ください。
問題点の整理
本資料で掲げられているグロース市場の問題点をざっくりまとめると、以下のようになります。
非上場企業経営者のマインド
視座が低く、上場後も成長し続ける気概がある起業家が少ないよね
上場企業経営者のマインド
上場後もガチで株価を伸ばし続けようとする経営者って意外と少ないよね
IPO/M&Aへの理解
どのような場合にIPOを目指すべきか、M&Aを目指すべきか等を理解する機会が不足しているよね
上場後に厳しい世界が待ち受けていること(機関投資家が投資してくれないとか、出来高がかなり細るとか)を知らないまま上場してしまうことが多いよね
エコシステム関係者の影響
VCをはじめとして、より大きなリターンが見込まれるIPOを求める構造になっているよね
ガバナンス
未上場の段階でボードでIPOの是非を議論されることは少ないよね
上場後も、株価が低位で推移している状態に改善に向けた議論を提起できる社外取はほとんどいないよね
上記以外にも、非連続的な成長に向けた資金調達やM&A等のアクションを取ることができるCFO人材の不足等、いろいろな問題が存在するかと思います。
これらの問題は、大きく、①IPO前の問題、②IPO後のモチベーション維持の問題、③その後の選択肢の問題に分類できると思います。以下にイメージを整理していました。
それぞれについて、問題と考えられる解決策を簡単にまとめてみます。
①IPO前の問題
まず、そもそも入口の段階で問題があるのではないか?という論点です。ここについては、以下のような課題が挙がることが多いのではないでしょうか。
小型上場が多い
IPO後の厳しさを知らないまま上場することが多い
IPO自体が目的化していることが多い
個人的には、小型上場自体は問題ではないと考えています(ただし、小型上場すると、後述する「IPO後のモチベーションの維持」が困難になるリスクは高まると考えているため、慎重派です)。なので、「新規上場基準を引き上げよう!」と安易に考えるべきではないと思っています。
一方で、IPO後の厳しさを知らずに「とりあえずここまできたら上場しないとダメでしょ」と安易に考えて上場することや、IPO後の成長性を確信していないにもかかわらず上場することは明確に問題だと思います。
IPO後の厳しさを知って、それでもなお社会にインパクトを与える高い志がある場合にIPOという選択をすべきなのではないかと思います。
ただ、このIPO前の問題については、最近「スモールIPOは悪だ」という考えがマイネット元社長の上原さんを中心に結構広まってきていることや、田端さん等のインフルエンサーがSNSでアクティビスト活動を強めているのを見て、「IPOって、思ったほど魅力的でもないな、、」と考える人も相応に増えている可能性があります。
加えて、VC等が入っていてもM&Aという選択肢が今後取りやすくなっていくとも考えられるため、今後は相当高い志を持った人でない限りIPOを目指さなくなる可能性もあります。その意味では、この「① IPO前の問題」は、今後はそこまで大きな問題ではなくなってくるかもしれません。
② IPO後のモチベーション維持の問題
個人的に最も重要な問題は、これだと思います。以下は、本資料からの抜粋です。
IPOした経営者(特にオーナー経営者)は、すべからく事業を大きく伸ばす高いモチベーションがあるのでは?と思われるかもしれませんが、例えば以下を背景にモチベーション維持はそんな簡単ではないと言えます。
市場規模の制約や経営者自身の能力の制約等により、事業の拡張性に限界があることを知る
更なる拡張のためには大胆な投資が必須だが、株担ローンを引いている関係上なかなかリスクを取りづらい
上場により一定の富と社会的な名声を得られるため、ハングリー精神が薄れてしまう
建設的な叱咤激励をくれるステークホルダーが減り、成長を志すための刺激的な環境がなくなる
実際、私も尊敬する経営者から「経営はマラソンやからね。やり続ける気概を相当強く持っていないとだめですよ」と言われたことがあります。
経営者が「まだまだ事業を成長させて、企業価値を伸ばすぞ!!」とガチで思っていないと事業を伸ばし続けることは難しいし、株価を上げ続けることも難しいでしょう。
では、IPO後に経営者が高いモチベーションを維持するための解決策としては何が考えられるでしょうか?いくつかあると思いますが、ここでは「ファン株主の形成」を挙げたいと思います。
ファン株主をつくる
IRの目的としても「ファン株主の形成」が挙がることはあると思います。「そんなの意味ねぇよ」と揶揄されることも多いかと思いますが、個人的にこれは結構重要だと思っています。
ただ、「ファン株主=現状がうまくいっていなかったとしても目を瞑って応援してくれる株主」ではありません。「ファン株主づくり」を誤って理解して、現状をうやむやにしてエモさだけを訴求するような開示を行うのは危険だと思います。
ここでいう「ファン株主」というのは、「自社に関心を向け、叱咤激励をくれる株主」を意味します。
誰しも、「注目してくれている、応援してくれている人がいるから頑張れる」という側面を少なからず持っていると思います。上場企業の経営者も同じで、鼓舞してくれる投資家がいるのといないのとでは、その後のモチベーションに結構大きな影響を与えるのではと思っています。
そのため、私はしっかりファン株主づくりにつながる取り組みを行うべきだと考えています。例えば、以下のような取り組みです。
社長が、決算説明会や個人投資家説明会等のIRイベントで、事業の社会的意義やビジョン・信念をしっかり語る
これらを、説明会だけでなく、様々な媒体でも発信する
中長期の時間軸で投資を行う機関投資家とのコミュニケーションを社長自らが積極的に取りにいく
重要なのは、エモさで訴えかけるのではなく、「社長の人となり」をしっかりと伝えることだと思います。例えば、Finatextホールディングスは、社長の林さんが毎年「株主への手紙」を出しています。
明らかに、誰か別の人が書いているのではなく、自分の言葉で書かれていることが分かります。このように、等身大で自分の考えやビジョンをしっかり言語化し、「成長の強い意志」を見せることが重要なのではと思います。
③その後の選択肢の問題
最後に、高いモチベーションが維持されている状況下での選択肢と、減衰された状況下での選択肢に分けて、それぞれ問題点と解決策を考えていきたいと思います。
ファイナンス・M&A人材の不足
多くの場合、単一の事業領域で事業を成長させ続けるのは非常に難易度が高いと言えます。そもそもそこまでTAMが大きくないことが多く、仮に大きかった場合でもすでに強力なプレイヤーが存在することが多いためです。
そのため、企業が持続的に成長し続けてくためには、M&Aや新規事業の立ち上げ等により、事業領域を拡大させ続けていく必要があります。つまり、M&Aや、それを行うための資金調達をアレンジできる人材は、どこかのタイミングで必要になってくる可能性が高いと言えるわけです。
しかし、そういった専門的な知見を有する人材は、なかなかスタートアップに流れ込んできません。特に上場した後だと、リスクに見合った報酬パッケージを用意することも難しく、経営者に相当カリスマ性がない限りそのような人材を惹きつけることは非常に難易度が高いと言えます。
そのため、ファイナンスやM&Aという経営アクションをどの会社でも取りやすくするように、中小型の上場企業に向けた資金調達・M&Aの支援サービスがより拡充していくことが重要なのではないかと思っています。
最近でも、私の周りで投資銀行出身の方や、事業会社でCFOを行っていた経験を有する方が独立し、そのようなサービスを提供している事例を耳にすることがちょくちょくあります。
今後このようなサービスが普及していくと非連続的な成長に向けた経営アクションを起こす企業が増えるかもしれません(当然、支援業者の倫理観等は高い次元で求めらますが)。
上場後の建設的な経営権の交代
当初はモチベーション高く経営していても、先述したいくつかの要因によりどうしても自分自身が経営者として事業を成長させ続けていくモチベーションを維持することが困難になってしまうことはあるかと思います。
この点、モチベーションが減衰すること自体は問題ではなく、モチベーションが減衰しているにもかかわらず上場し、オーナーシップと経営権を持ち続けることが問題なのだと個人的には思っています。そのため、事業成長のモチベーションが減衰した場合に、建設的にM&Aによるイグジットを行ったり、経営権を交代することがもっと増えていくことが重要だと思います。
この動きをどのように促進するのかは難しいところですが、「創業オーナーがM&Aでイグジットする事例」や、「経営権を交代してからさらに会社が伸び続ける事例」が溜まり、周知されることでより増えていくのではないでしょうか。以下に事例をいくつか紹介しておきます。
創業オーナーによるM&Aイグジット例
ZOZO:前澤さん
ネットマーケティング:宮本さん
ユーザベース:新野さん、梅田さん、稲垣さん
AmidAホールディングス:藤田さん
エラン:櫻井さん
経営権を交代してからさらに会社が伸び続ける事例
SMS:諸藤さん
物語コーポレーション:小林さん
こちらに関しては、セルソースの創業社長である裙本さんが、同社の社外取締役であったプロ経営者の澤田さんに昨年経営権を委譲した事例があります。非常に珍しい事例ですが、創業オーナーが組織全体の更なる成長を見据えて経営権交代に踏み切るのは非常に興味深い事例だと言えます。
まとめ
突貫で書いたのでなんかまとまりのない文章になってしまいましたが、、まとめるとこんな感じです。
高い志を持った経営者こそが、IPOという選択をするようになる必要がある
IPOした経営者が高いモチベーションを維持するためにも、IRとして「ファン株主(自社に関心を向け、叱咤激励をくれる株主)の形成」に向けた努力をすることは重要
モチベーションが高い経営者がいるときに、更なる成長に向けたファイナンス・M&A等のアクションをとれるよう、資金調達やM&Aの支援サービスがより民主化されることが重要
モチベーション維持が難しくなった場合に、M&Aによるイグジットや、経営者の交代等を通じた「建設的な経営権の交代」が行われるようになっていくべき
私としては、「事業成長させてガチで社会にインパクト出しに行くぞ!!」という気概を持った起業家がグロース市場に上場して、実際にグロースして大きなインパクトを出していってほしいし、そういう会社にしっかりと関心が向けられるような市場になっていくべきだと思ってます。
そこに事業を通じて少しでも貢献できるよう、弊社も頑張っていきます!!!ゾス!!!(最近流行りの)
最後に少し紹介
最後に!!いくつか弊社サービスの一部をご紹介をさせてください!!
QA Station
昨年立ち上げたこちらのサービスですが、おかげさまで30社近くの企業様に掲載いただいています。
IRに関する質疑応答の情報がデータベース形式でまとまっていて、過去のIR関連のQ&Aの情報を一気通貫で検索できるので、手前味噌ですがめちゃくちゃ便利です。私自身も掲載いただいている企業さんをリサーチするとき愛用しています。
ご関心のある方は、ぜひ以下の問い合わせフォームよりご連絡いただけると幸いです。
IR QA bot
12月5日に、QA Stationに蓄積された情報を学習させたAIチャットボット、「IR QA bot(β版)」をリリースしました!
掲載企業のチャットボットを開き、その企業に関する質問を入れると、過去のIRのQ&A情報をもとに回答を生成してくれます。こちらもβ版で開発途上の段階ではありますが、手前味噌ながらなかなかの精度なので、ぜひ試しに使ってみてください。
決算ハックTV
弊社が運営する「決算ハックTV」ですが、今年6月から「上場企業の経営者・CFOへのインタビュー企画」を始めています。
これまで既に以下の企業へのインタビューを実施しています。
フーディソン(東G:7114)
フォースタートアップス(東G:7089)
Finatextホールディングス(東G:4419)
ヴィス(東S:5071)
Rebase(東G:5138)
セレス(東P:3696)
ワンキャリア(東G:4377)※今後公開予定
エラン(東P:6099)※今後公開予定
また、現時点で3社、今後収録することが決まっています。
先にも触れた「経営者の成長の意志やビジョン」をしっかり伝えることを重視したコンテンツを届けていきますので、ご関心がある方はぜひ以下よりお問い合わせください。
上記の他にも、投資家管理ツールの導入支援や、IR業務支援を展開しています。ご興味のある方は、奮ってご連絡ください。
採用しています!!
そして最後に!!
ありがたいことに少しずつ事業が拡大しており、本格的に仲間を募集し始めています。現在以下の方を募集していますので、興味のある方は上記問い合わせフォームかSNSのDMよりぜひご連絡ください!!
幹部候補人材(創業メンバーとして、事業立ち上げや営業・マーケティング、経営管理の仕組みづくり等を幅広に担っていただける20〜30代の方を想定しています)
コンサルタント(IRのコンサルティングや資料作成、業務支援をサポートいただける方を想定しています)
インターン(BtoBの営業・マーケティング、リサーチ等の業務に関心をお持ちの方を想定しています)
全然少しじゃない紹介になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました!!
ランディックスの松村さんにバトンタッチさせていただきます!!